人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(77)

 そしてようやくチャーリー・ブラウンはこの世界の意味を知りました。つまりパインクレスト町に住むチャーリー自身とスヌーピーウッドストック、また理髪店を開いているチャーリー・ブラウンのお父さんとお母さん、妹のサリー・ブラウン、パインクレスト小学校の学友たち……元祖ツンデレのルーシー・ヴァン・ペルト、毛布でおなじみライナス・ヴァン・ペルト、ライナスとうりふたつのリラン・ヴァン・ペルトの三姉弟や、天才トイ・ピアニストのシュローダー、ペパーミント・パティこと父子家庭のパトリシア・ライチャー、チャーリーやペパーミント・パティの崇拝者の少女マーシー、知性溢れる人格者の黒人少年フランクリン、いつも不潔なピッグペン、さらに天然カーリー・ヘアが自慢のフリーダやチャーリーとペパーミント・パティを引き合わせてくれたロイ、ライナスを翻弄したリディア、チャーリーが失恋したペギー・ジーン、傷心のチャーリーを慰めてくれたエミリー、ライナスの励ましで白血病と闘病したシャーリー、サリーが心を通わすことができた旧校舎の「学校さん」……そしてチャーリーが会ったことのないこの世界の最重要人物こそがスヌーピーの元の飼い主だったというライラという少女で、チャーリーはデイジーヒル仔犬園の係員さんからその少女がスヌーピーを一度は引き取りながら、再び里親探しに出さねばならなかった事情を教えてもらったのですが、遠い町に引っ越したという彼女と会ってお礼を言う機会には恵まれませんでした。
 また、ライラに会ったところでチャーリーにお礼以外の何が言えたでしょう。仔犬を飼いたいのに仔犬を飼えなくなった少女に向かって、仔犬を飼いたくて仔犬を飼うことがかなった少年が何を言えるというのでしょう。チャーリーはこれまで一度もそれを考えたことがなく、スヌーピーは最初から自分を取り巻くこのピーナッツ世界の一員のように思っていたのです。それはチャーリーの錯覚だったのでしょうか?むしろ、ライラがスヌーピーを里子に手離した時に願ったことが実現して、ライラのいない世界がパインクレストの町に成立したのです。
 では、とチャーリーは考えました、ぼくたちはライラの見ている夢の中の住人なんだろうか。そして今、彼女はその夢が自分を縛りつけている悪夢と気づき始めて、夢から覚めようとしているところなのだろうか。そして彼女の目覚めとともに、ぼくらは消えるのだろうか。