それは室内にいても外でドアに倒れかかる物音が聞こえ、私たちは何だろうと顔を見合わせました。ちょっと待ってて、と私は言うと、二階に上がって灯りをつけずに張り出した窓から玄関の前を注視して、どうやら小学生くらいの子ども、服装からは男女か区別がつきませんがこんな嵐の中を来たのだから男の子なのだろうか、と思いながら、二階に上がったついでに救急箱と、たんすから余分なタオルを多めに取り出しました。とにかくずぶ濡れなことだけは確かだからです。
どうだった?と私は二階から見た様子を知らされると、子どもを部屋に入れてもいいものか、それともその子は囮で、施錠を外したら強盗でも入ってきやしないかと懸念しました。それはなさそうだよ、と私は答えました。いくら何でもそういう気配があれば、あんなに自然に行き倒れてはいないよ、と再三強調されて、そんなものかな、それだけ言われるとたぶん自分でも同じ判断を下しただろうと思われ、私も納得した上で、とりあえずひとりは子どもを介抱しながら部屋に入れる、ひとりは猟銃を構えて万が一に備える、という手順に決まりました。役割を決めるのはコイントス、表が出たら私が猟銃です。当然猟銃の方が嫌な役目で、たとえ悪人でさえ私は人は撃ったことなどなく、しかしもしもの場合威嚇して脅威を排除するのが猟銃担当の役割です。
表だね、と私は静かにドアに近づくと、猟銃に護られているのを感じながらなるべく小さくドアを開けました。コイントスなどしなくても、前もって二階から子どもの位置を見ている方が子どもの介抱係をするのは理にかなっています。また私は、見た様子では子どもを囮に強盗が隠れてなどはない、と確信していました。子どもはひとりでこの家のドアまでやって来て、力尽きて倒れたのです。
細く開いたドアの隙間から、強い雨風が吹き込んできました。私は猟銃を構えながらドアを支えて、どうかな、と子どもの様子を尋ねました。うん、銃を下ろしてドアを閉めて……ありがとう。男の子みたいなコートだけど、女の子だ。だいぶ失血してるみたいだ。失血?うちの前じゃない、どこかで失血してから歩いてきたんだ。何があったんだろう?
しかし女の子の意識が戻らないと事情はわかりません。私たちはとりあえず子どもの体を拭いて衣服を替え、ベッドに寝かせました。医者を呼ぶべきだろうか、と考えている時、新たな来訪者がやって来たのです。