人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新☆戦場のミッフィーちゃんと仲間たち(16)

 そんなミッフィーの惑いをよそに、入るわよナインチェ、とメラニーがオフィスに来たので、もう入ってるじゃないの、とミッフィーちゃんはあからさまに不興げなそぶりをしましたが、もちろんメラニーは旧友ナインチェの癪にさわりに来たので遠慮会釈もなければ悪びれた様子もなくつかつかと窓辺に歩み寄ると、せっかくのいい季節なんだから窓くらい開けなさいよ、とブラインド・カーテンのシャッター紐を引いてがらり、と防弾二重ガラスの窓を全開しました。とたんに激しい銃撃戦、立て続けの爆発音、怒号と悲鳴が部屋の中に流れ込んできました。何だかよくわからない、黒板に爪を立てるような音まで聞こえてくるのでした。
 のどかねえ、とメラニーは煙草をくわえると魔法で火をつけ(メラニーはできるのです)、ふーっとひと口喫うとまた聞こえてくる奇妙な音に、今日は変な音がするわね、何かしら、黒板に爪を立てているような音よね。ミッフィーは投げやりに黒板に爪を立てている音じゃないの?と答えると、じゃあさっきまで部屋で流していた場違いな音楽は?とメラニーは訊きました。ミッフィーはしぶしぶドビュッシー『月の光』のフルート編曲版とラヴェル『死せる王女のための孔雀舞(パヴァーヌ)』ピアノ独奏版、と音楽趣味を白状させられる羽目になりました。悪くはないけど、とメラニーは決めつけました、職場、特にうちみたいな職場で聴く音楽じゃないわね。キャバレーに流れる音楽はリヒャルト・シュトラウスプロコフィエフみたいに満艦飾じゃなきゃ、というのがメラニーのうさぎらしからぬ持論でした。うさぎらしからぬ、とはこの場合、なかなか正鵠を獲ている、という意味合いです。
 それよりあんた何か用があって来たの?ふうん、どうして?みんなと一緒でもできた話題ならさっき話せたでしょ、とミッフィーはナインチェらしからぬカンを働かせました。そうねえ、とメラニーのわざと気をもたせるような返答に、ミッフィーはとっさにお給料なら上がらないわよ、と言わずもがなのことを口にしてしまいそうになりました。確かにこのディヴィジョン全体への手当ては規模に見合っただけの額しか下りませんが、約半額相当になるミッフィーピンハネ分を平等にすればメラニーたちの給料は上げられるのです。
 やばい、とミッフィーは思いました。ですがメラニーはため息をまたひと息つくと、そろそろお店をたたまない?と言ったのです。