人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

The Ornette Coleman Double Quartet - Free Jazz (Atlantic, 1962)

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The Ornette Coleman Double Quartet - Free Jazz : A Collective Improvisation (Atlantic, 1962) Full Album : http://youtu.be/xbZIiom9rDA
Recorded December 21, 1960
Released September 1961, Atlantic SD1364
(Side A)
1. "Free Jazz (part one)" - 19:55
(Side B)
1. "Free Jazz (part two)" - 16:28
CD Total Time - 37:03 to 37:10
Composition by Ornette Coleman
[Personnel]
(Left channel)
Ornette Coleman - alto saxophone
Don Cherry - pocket trumpet
Scott LaFaro - bass
Billy Higgins - drums
(Right channel)
Eric Dolphy - bass clarinet
Freddie Hubbard - trumpet
Charlie Haden - bass
Ed Blackwell - drums
(Production)
Nesuhi Ertegun - producer
Tom Dowd - recording engineer

 オーネット・コールマンがデビューした1958年は、翌59年にかけてモダン・ジャズの飽和点となった時期でもある。マイルス・デイヴィスの『マイルストーンズ』『カインド・オブ・ブルー』『スケッチズ・オブ・スペイン』をピークに名作と名高い作品を軽く拾ってもセロニアス・モンク『ミステリオーソ』、チャールズ・ミンガス『ミンガス・アー・ウム』、ジミー・ジュフリー『ウェスタ組曲』、アート・ブレイキージャズ・メッセンジャーズ『モーニン』、ホレス・シルヴァー『ブローウィン・ザ・ブルース・アウェイ』、ランディ・ウェストン『リトル・ナイルズ』、ポール・チェンバース『ゴー』、キャノンボール・アダレイ『イン・サンフランシスコ』、ジャッキー・マクリーン『ニュー・ソイル』、ソニー・ロリンズ『ニュークス・タイム』、ポール・デスモンド『ファースト・プレイス・アゲイン』、エディ・コスタ『ハウス・オブ・ブルー・ライツ』、ケニー・ドーハム『静かなるケニー』、スティーヴ・レイシー『リフレクションズ』、ハンク・モブレー『ペッキン・タイム』、ウィントン・ケリー『ケリー・ブルー』、マックス・ローチ『ディーズ・ノット・ワーズ』、ユゼフ・ラティーフ『クライ・テンダー』、リー・コニッツ『ヴェリー・クール』、アート・ペッパー『プラス・イレヴン』、ロイ・ヘインズ『ウィ・スリー』、それにジョン・コルトレーンジャイアント・ステップス』とビル・エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』があるのだ。このうち1959年の『カインド・オブ・ブルー』と『ミンガス・アー・ウム』『ジャイアント・ステップス』『ポートレイト・イン・ジャズ』は後のジャズの決定的な方向性を示し、ポップスや映画音楽、ロック、クラシックのミュージシャンにも大きな影響を与えた。オーネットの『ジャズ来るべきもの』1959は『カインド・オブ・ブルー』や『ポートレイト・イン・ジャズ』に匹敵するものだった。
 ちょっと思いついただけでも58年~59年のジャズにはこれだけの収穫があり、各ミュージシャンには前後に同レヴェルの名盤があるから裕に倍は上がる。パーカー&ガレスピーから始まったビバップ以降のモダン・ジャズはもうここまで来ていて、ジャズの内部から風穴を開けようとしていたのがマイルスやミンガス、コルトレーンエヴァンスだった。だがそれはあくまでジャズ内部からの改革なので、ジャズの外側からふらりとオーネットが侵入してきたのも時代的な必然性があったのだ。

 オーネット・コールマンがアトランティックと専属契約し、1959年5月22日の初録音から1961年3月27日の最終録音までに残したアルバム10枚分の音源は、ボックス・セット"Beauty Is a Rare Thing" (6CD, Rhino/Atlantic, 1995)にまとめられている。このセットは発売即古典的集大成版としてロングセラーになり、2015年に入って発売20周年を記念して廉価再プレスされている。オーネット・コールマンのアトランティック時代のアルバムは全作品が各種音楽ガイドでは★★★★★の評価を受けている。
 ボックス・セットで初発売された未発表音源はほとんどなく、リストの1~7のオリジナル・アルバムに加えて、『即興詩人の芸術』『ツインズ』『未知からの漂着』の3枚でアルバム未収録曲は補える。基本的にオリジナル曲しか演らないオーネットの場合、未収録曲はアルバム収録曲の別テイクではなく純然たる未発表曲だから、アウトテイク集とはいえ重要度はオリジナル・アルバムと変わらない。例外的に『ブルース・コノテーション』はオリジナル・テイクと『ブルース・コノテーションNo.2』があり、また『フリー・ジャズ』はアルバムのライナー・ノーツ通り1テイクだけで完成したものと思われていたが、実はアルバム片面分の長さでリハーサルしてみた『ファースト・テイク』が発見されて『ツインズ』に収められた。『フリー・ジャズ』は何回もCD化されているが、『ファースト・テイク』をボーナス・トラック収録したリイシューも多い。マスター・テイクの半分の長さだけあってコンパクトな仕上がりになっている。短い別テイクとして聴きごたえはあるが、あくまでリハーサル・テイクとして聴くべきものだろう。

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 ("Free Jazz" Foreign Press Front Cover)
 トランペット二人、木管楽器二人(アルトサックス、バスクラリネット)、ベース二人、ドラムス二人というダブル・カルテット編成のこの『フリー・ジャズ』は通常言われる意味の楽曲的要素はソロイストの替わり目に合奏されるユニゾン・リフ程度しかないが、ユニゾン・リフ自体のリズム・パターンと拍節・調性がインプロヴィゼーションの土台になっている点では基本的なジャズの技法を踏まえて、最大の拡張を行ったものと言える。ソロイストの演奏中にも他のプレイヤーに自由なアドリブによるアンサンブルを許していることで、ソロのリレーに始終しない多彩なサウンド効果を得ている。ヘイデンのドローン奏法によるベース・ソロ、ラファロのトレモロ奏法によるベース・ソロ(ベーシスト二人は白人)はそれまでのどんなジャズでも聴けないもので、管楽器が休んでベース二人、ドラムス二人のダブル・デュオになる局面は全編中のハイライトだろう。ベース・ソロが終わってユニゾン・リフ、そしてダブル・ドラムスだけのアンサンブルになり、一気に開放感が訪れると、『フリー・ジャズ』の音楽的快感はリズムの豊さにあると体感される。
 このアルバムはAB面両面を使って全編に大編成のインプロヴィゼーションを展開したジャズ史上初めての作品であり、ジョン・コルトレーンの『アセンション』1965、ペーター・ブレッツマンの『マシンガン』1968の先駆をなした。また、1962年1月22日号の「ダウンビート」誌では「ダブル・カルテットへのダブル・レヴュー」と題した特別記事を組み、ピート・ウェルディングは五つ星の栄誉を讃える一方、ジョン・タイナンはまったくの無星としている。この両極の評価も『フリー・ジャズ』の場合は成功の証と言えるだろう。

[Ornette Coleman on Atlantic Records] 
1. 『ジャズ来るべきもの』The Shape of Jazz to Come (Rec.May 22, 1959/Atlantic SD1317, Oct.1959)
2. 『世紀の転換』Change of the Century (Rec.Oct. 8-9, 1959/Atlantic SD1327, Jun.1960)
3. 『ジス・イズ・アワー・ミュージック』This Is Our Music (Rec.Jul.19 & 26, Aug.2, 1960/Atlantic SD1353, Feb.1961)
4. 『フリー・ジャズFree Jazz : A Collective Improvisation (Rec.Dec.21, 1960/Atlantic SD1364, Sep.1961)
5. ジョン・ルイス『ジャズ・アブストラクションズ』John Lewis / Jazz Abstractions (Rec.Dec.20, 1960/Atlantic SD1365, Sep.1961)
6. 『オーネット!』Ornette! (Rec.Jan.31, 1961/Atlantic SD1378, Feb.1962)
7. 『オーネット・オン・テナー』Ornette on Tenor (Rec.Mar.22 & 27, 1961/Atlantic SD1394, Dec.1962)
8. 『即興詩人の芸術』The Art of the Improvisers (Rec.May 22 & Oct.9, 1959, Jul.26, 1960, Jan.31 & Mar. 27, 1961/Atlantic SD1572, Nov.1970) Outtakes from "The Shape of Jazz to Come", "Change of the Century", "This is Our Music", "Ornette!" & "Ornette on Tenor" Sessions.
9. 『ツインズ』Twins (Rec.May 22, 1959, Jul.19 & 26, 1960, Dec.21, 1960, Jan.31, 1961/Atlantic SD1588, Oct.1971) Outtakes from "The Shape of Jazz to Come", "This is Our Music", "Free Jazz" & "Ornette!" Sessions.
10.『未知からの漂着』 To Whom Who Keeps a Record (Rec.Oct.8, 1959, Jul.19 & 26, 1960/Warner Pioneer P-10085A, late 1975) Outtakes from "Change of the Century" & "This is Our Music" Sessions.