人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Catapilla - Changes (Vertigo, 1972)

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Catapilla - Changes (Vertigo, 1972) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PL81112BD5FC108E34
Recorded between 1971 to 1972
Released by Vertigo Records, Vertigo 6360 074, 1972
Produced by Colin Coldwell
(Side one)
1. Reflections (Wilson / Calvert / Meek) - 12:06
2. Charing Cross (Wilson / Calvert / Meek) - 6:45
(Side two)
3. Thank Christ For George ( Wilson / Calvert / Meek) - 12:07
4. It Could Only Happen To Me ( Wilson / Calvert) - 6:45
[ Personnel ]
Anna Meek - vocals
Carl Wassard - bass guitar
Graham Wilson - guitar
Ralph Rolinson - keyboards
Robert Calvert - saxophone
Brian Hanson - drums

イギリスの女性ヴォーカル・バンド、キャタピラの2作目。バンド名「いもむし」に由来してデビュー・アルバムのジャケットは虫食いリンゴだったが、このセカンドも面白いくり抜き変型見開きジャケットになっている。バンドは1970年のクリスマスにレディ・ジョー・ミーク(ヴォーカル)とギタリストのグレアム・ウィルソンを中心に結成されたが、1970年のファースト・アルバム直前にヴォーカルはレディ・ジョーの妹アン・ミークに交替し、またファースト・アルバムのヒュー・イーグルストーンとロバート・カルヴァート(70年代後期ホークウィンドのヴォーカリストとは同名異人)の2サックスからセカンドはカルヴァート1人に、そしてキーボード、ベース、ドラムスのメンバー・チェンジがあった。
カルヴァートが後にジョン・スティーヴンス(ドラムス)のフリージャズ・グループ、スポンティニアス・ミュージック・アンサンブルを経てマザーゴング、デイヴィッド・アレンのメンバーになるのも納得のいく、野趣のあるスペース・フリージャズ・ロックがキャタピラの、特にこの『Changes』の評価のポイントになっている。ファースト前に抜けたレディ・ジョー・ミークJulian Jay Savarin『Waiters on the Dance』1971にヴォーカリストとして参加しており、構築性に優れた初期プログレッシヴ・ロックの名作だがキャタピラのような得体の知れなさはない。キャタピラの音楽はロックだが、1970年代初頭のどさくさ紛れに出たうさんくさいアンダーグラウンド臭いもので、ホークウィンドやゴングと同じ種類の音楽をやっていた。セカンド・アルバムまでで解散してしまったのは、1973年の世界的なオイル・ショックでレコード産業全体が一気に縮小してしまったからで、1968年~1974年の7年間には1作~4作止まりのバンド、多くは1、2作のロック・バンドが世界中に無数にある。
(Original Vertigo "Changes" LP Gatefold Inner Cover)

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 キャタピラの『Changes』1972はそうした60年代~70年代の橋渡しの時期のブリティッシュ・ロックのアンダーグラウンド・シーンを代表するアルバムとされるもので、特に1970年~1972年にはブルース・ロック/サイケデリック・ロック/ジャズ・ロック/プログレッシヴ・ロック/ハード・ロックのどれにも特定できない音楽性のバンドが続出した。アメリカン・ロックとの相違はアメリカではカントリー・ロックがある代わりにジャズ・ロックは振るわなかった。アメリカではジャズの土俵ではロック・ミュージシャンはジャズマンに適わなかったが、イギリスではジャズマンが積極的にジャズ・ロックに進出した。カントリーについては、イギリスにはトラディショナル・フォークがカントリーに相当するものだった。
キャタピラが全2作を残したヴァーティゴ・レーベル作品については後述するので、ヴァーティゴ作品以外で他にこの時期のブリティッシュアンダーグラウンド・ロックを代表する作品に上げられるものには、先に上げた黒人キーボード奏者ジュリアン・ジェイ・サヴァリンの前作にあたるバンド名義の、
Julian's Treatment『Time Before This』(Young Blood, 1970; 女性ヴォーカル・オルガン・ロックのコンセプト・アルバム)を始め、
Quartermass『Quartermass』(Harvest, 1970; 伝説的超弩級キーボード・トリオ)
Indian Summer『Indian Summer』(Neon, 1970; オーディションをサバスと競った実力派ヘヴィ・ロック)
Czar『Czar』(Fontana, 1970; サイケを引きずったキング・クリムゾンという感じ)
T.2.『It'll All Work Out In Boomland』(Decca, 1970; プログレ系ギタートリオ・バンド中最高の人気作だが……?)
Human Beast『Volume One』(Decca, 1970; 暴走ギターサイケのヘヴィ・ロック名盤)
Carol Grimes & Delivery『Fool's Meeting』(B&C, 1970; 女性ヴォーカル・ジャズ・ロック。アフィニティより良い)
Elias Hulk『Unchained』(Young Blood, 1970; 野蛮きわまりない爆裂極悪ヘヴィ・サイケ)
Titus Groan『Titus Groan』(Dawn, 1970; これはシブい!何と当時日本発売もされていた)
Blonde on Blonde『Rebirth』(Ember, 1970; 透明感あるギターサイケ、なんと曲調、声質まで初期U2そっくりな曲も!)
Spring『Spring』(Neon, 1971; トリプル・メロトロンの牧歌的サウンド)
Fields『Fields』(CBS, 1971; オルガン主体にクリムゾン『Lizard』似のサウンド)
Marsupilami『Arena』(Transatlantic, 1971; やたら複雑で緊張感高いテクニカルプログレで、聴くと疲れるのが難か)
Raw Material『Time is…』(Neon, 1971; 好みならファーストだが、圧倒的に上出来なのはやはりこっちか)
Salamander『The Tenth Comandments』(Young Blood, 1971; 妙に印象に残る旧約聖書ネタのコンセプト・アルバム)
Second Hand『Death May Be Your Santa Claus』(Mushroom, 1971; コテコテのプログレスティールパン入りの実験ポップの融合)
Tonton Macoute『Tonton Macoute』(Neon, 1971; 丁寧で落ち着いた、心地よいインスト中心の牧歌サウンド)
Comus『First Utterance』(Dawn, 1971; 発狂したかのようなヴォーカルと曲調のアヴァンギャルド・トラッド・フォーク)
Gracious『This is…』(Phillips, 1971; ヴァーティゴからの前作と甲乙つけ難い。A面全面の大曲、B面の4曲とも佳曲)
Gnidrolog『Lady Lake』(RCA, 1972; クリムゾン『Lizard』1970似、だが殺気と難解なサウンドはクリムゾン以上かも)
Bram Stoker『Heavy Rock Spectacular』(Windmill, 1972; サイケ+プログレ+ヘヴィ・ロックをとことん追求)
Back Door『Back Door』(Blakey, 1972; サックス、ベース、ドラムスのエレクトリック・ジャズ・ロック・トリオ)
Magic Carpet『Magic Carpet』(Mushroom, 1972; サイケないんちきインド風フォーク・ロックだが、ピースフルな雰囲気が魅力)
Mellow Candle『Swaddling Songs』(Deram, 1972; 2美声女性ヴォーカルと粒ぞろいの名曲、タイトに締まった演奏も極上)
Khan『Space Shanty』(Deram, 1972; スティーヴ・ヒレッジが入ったEggの変名バンド。サイケデリック・ロックのパロディ?)
Wishbone Ash『Argus』(MCA, 1972; ツイン・リード・ギターに日本のフォークみたいな哀愁の楽曲が妙にはまっている)
Nick Drake『Pink Moon』(Island, 1972; 遺作となったAB面計28分の珠玉作)
ランダムに上げてみたが、どれも素晴らしいアルバム群ではあるけれど、これらは最後の2枚を除いて完全にアンダーグラウンドのバンドだった。上記バンドに匹敵する強烈なトリオ・バンドPossesed『Exprolation』は2006年に突如CD化され驚愕で迎えられたが、レッド・ツェッペリンの前座まで起用されたバンドながら1971年にインディーズでアルバムを完成していたのに未発表のままメンバーも世を去り、35年間未発表だったアルバムだった。そのくら位ついていないバンドが山ほどしのぎを削り、なんとかアルバム発売にこぎつけても1、2枚で消えていった。それもやはり、あまりに音楽的な試みが多彩で固定リスナーをつかめなかったこと、スター性や商業性に乏しくほとんどプロモートされなかったことによる。最後の2枚はアンダーグラウンド・シーンのアルバムとは言えないが、音楽的には1972年のブリティッシュ・ロックを代表するもので、ニューヨーク・パンクのトム・ヴァーライン(テレヴィジョン)が傾倒したに想像は難くない。
? (Original Vertigo "Changes" LP Liner Cover)

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 先日他界したデイヴィッド・ボウイのようにアンダーグラウンドでもメジャー・シーンでもヒーローだったアーティストは例外中の例外というべきエリートで、ここ数年相次いで亡くなったケヴィン・エアーズ、デイヴィッド・アレンなどはアンダーグラウンド・シーンに足場を置きながらカルト・アーティストとして長い楽歴をまっとうした点で幸福だったと思わずにはいられない。そう思いたい。
今回実はキャタピラについては冒頭で書いた以外あまり書くこともないので、キャタピラが所属していたヴァーティゴ・レーベルについて書きたい。ヴァーティゴ・レコーズはメジャーのPhilips/Phonogram傘下のプログレッシヴ・ロック専門レーベルとして1969年にコロシアム『Valentine Suite』をアルバム第1号として発足した。ヴァーティゴが自社のオリジナル・アルバムを盛んに制作していたのはオイル・ショックの1973年までで、以降は現在まで他社の原盤制作アルバムの配給レーベルになっている。たとえばイギリスではルー・リードメタリカ『Lulu』はヴァーティゴ・レーベルから発売されている。往年のヴァーティゴが制作していたアルバムの多くはアンダーグラウンド・シーンの零細バンドで、コロシアムやブラック・サバス、ステイタス・クオ、ロッド・スチュワートなど数少ない人気アーティストの売上でなんとか採算がとれていた。ヴァーティゴ制作作品(一部例外もある)を一望するのに便利な3枚組CDがある。レーベル発足の1969年~前述の理由で1973年の、最盛期のアルバムから代表曲を収めたアンソロジーで、曲名の後に収録アルバムを記した。これらのうち、無名アーティストのアルバムは一時版権不明になり、LP→CDの移行期にはヴァーティゴのオリジナル盤は中古LP市場で10万円台に高騰し、複製盤LP(いわゆる盤起こしブート)が輸入盤店の店頭に溢れた。今でこそほぼ全作が正規CD化されているが、複製盤を1枚1枚集めていくしかない時代があったのを思い出させる。ちなみにレア・トラックはDisc3の7、Ronoはミック・ロンソンがエルトン・ジョンのセッションマンを経てデイヴィッド・ボウイのバンドに加入する以前の録音で、シングル1枚しか残していない。どうせならAB面2曲とも収録してほしかった。この3枚組CDは言うなれば40枚のヴァーティゴ・アルバムからのサンプラーで、40枚すべてブリティッシュ・ロックの必聴盤でもある。
? (Original Vertigo "Changes" LP Side A Label)

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Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973 (3CD-BOX, July 12, 2005) Vertigo 982798

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(Disc 1)
1. Colosseum - The Kettle (4:27) fromthe Album "Valentine Suite" (1969)
2. Juicy Lucy - Who Do You Love? (3:02) from "Juicy Lucy" (1969)
3. Clear Blue Sky - My Heaven (5:01) from "Clear Blue Sky" (1971)
4. Manfred Mann Chapter Three - Travelling Lady (5:51) from "Manfred Mann Chapter Three" (1969)
5. Black Sabbath - Behind the Wall of Sleep (3:41) from "Black Sabbath" (1970)
6. Cressida - To Play Your Little Games (3:21) from "Cressida" (1970)
7. Gracious! - Introduction (5:55) from "Gracious!" (1970)
8. Affinity - Three Sisters (4:59) from "Affinity" (1970)
9. Bob Downes - Walking On (5:01) from "Electric City" (1970)
10. May Blitz - I Don't Know (4:50) from "May Blitz" (1970)
11. Nucleus - Torrid Zone (8:43)? from "Elastic Rock" (1970)
12. Rod Stewart - Handbags and Gladrags (3:57) from "An Old Raincoat Won't Ever Let You Down" (1970)
13. Gentle Giant - Nothing at All (9:10) from "Gentle Giant" (1970)
14. Ben - The Influence (10:05) from "Ben" (1971)
(Disc 2)
1. Dr. Z - Evil Woman's Manly Child (4:47) from "Three Parts to My Soul" (1971)
2. Jade Warrior - Borne on the Solar Wind (3:02) from "Last Autumn's Dream" (1972)
3. Patto - The Man (6:16) from "Patto" (1970)
4. Juicy Lucy - Thinking of My Life (4:27) from "Lie Back and Enjoy It" (1970)
5. Jimmy Campbell - Half Baked (4:43) from "Half Baked" (1970)
6. May Blitz - For Madmen Only (4:15) from "Second of May" (1971)
7. Tudor Lodge - The Lady's Changing Home (4:36) from "Tudor Lodge" (1970)
8. Beggars Opera - Time Machine (8:07) from "Water of Change" (1971)
9. Colosseum - Bring Out Your Dead (4:19) from "Daughter of Time" (1971)
10. Warhorse - Mouthpiece (8:44) from "Red Sea" (1972)
11. Uriah Heep - Lady in Black (4:44) from "Salisbury" (1971)
12. Freedom - Through the Years (4:24) from "Through the Years" (1971)
13. The Sensational Alex Harvey Band - Midnight Moses (4:26) from "Framed" (1972)
14. Magna Carta - Lord of the Ages (10:02) from "Lord of the Ages" (1973)
(Disc 3)
1. Atlantis - Living at the End of Times (9:07) from "Atlantis" (1972)
2. Ramases - Life Child (6:37) from "Space Hymn" (1971)
3. Beggars Opera - MacArthur Park (8:22) from "Pathfinger" (1972)
4. Nucleus - Song for the Bearded Lady (7:23) from "We'll Talk About It Later" (1970)
5. Gentle Giant - Pantagruel's Nativity (6:51) from "Acquiring the Taste" (1971)
6. Gravy Train - (A Ballad Of) A Peaceful Man (7:12) from "(A Ballad Of) A Peaceful Man" (1971)
7. Ronno - Powers of Darkness (3:34) from A-side of single (1971)
8. Status Quo - Paper Plane (2:53) from "Piledriver" (1972)
9. Ian Matthews - Little Known (2:55) from "If You Saw Thru My Eyes" (1971)
10. Vangelis Papathanassiou - Let It Happen (4:14) from "Earth" (1973)
11. Jade Warrior - Mwenga Sketch (8:36) from "Suck It and See" (1973)
12. Aphrodite's Child - The Four Horsemen (5:55) from "666" (1972)
13. Black Sabbath - Spiral Architect (5:31) from "Sabbath Bloody Sabbath" (1973)
(Original Vertigo "Changes" LP Side B Label)

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 せっかくのヴァーティゴ・アンソロジーなのにキャタピラが抜けているし、他にヴァーティゴ作品でめぼしいものではFairfield Parlour『From Home to Home』1970、Dr. Strangely Strange『Heavy Petting』(ゲイリー・ムーア参加のトホホ盤)1970、Graham Bond『Holy Magick』1970、Still Life『Still Life』1971、Assagai 『Assagai』1971、Nirvana(England)『Local Anaesthetic』1971、Jackson Heights『5th Avenue Bus』1972、Brave New World『Impressions on Reading Aldous Huxley』1972などが抜けている。版権の関係からかもしれない。1972年からアフロディティス・チャイルド、アジテーション・フリー、ルシファーズ・フレンド、フランピー、クラフトワークらインターナショナルな海外制作アルバムの配給が盛んになり、それらもドイツその他のアンダーグラウンド・シーンのバンドだったが(ヴァーティゴ・ジャパンでは日本のロックのアルバムも制作されている)、ブリティッシュアンダーグラウンドのヴァーティゴのイメージは稀薄になり、その衰退と入れ替わるように新興レーベルのヴァージン・レコーズが最初から国際的展開も視野にいれて尖鋭インディーズ(メジャー参加のサブ・レーベルではあるが、それはヴァーティゴも同様だった)としてヴァーティゴの地位に取って替わったように見える。
機を見るに敏なヴァージンはプログレッシヴ・ロック系レーベルとしてスタートしたが、『Tubular Bells』1973と『Phaedra』1974の国際的大ヒットでレーベルの経済的功労者になったマイク・オールドフィールドタンジェリン・ドリームとの長期契約以外は、ブレイクの兆しのないアーティストは即座に切り捨てて新人アーティストを消費していく、というシビアなビジネスに徹していた。先に上げた1970年~1972年のアンダーグラウンド・アルバム、またヴァーティゴのアルバムなら特にクレシダやグレイシャス、コロシアム、アフィニティ、ベン、パトゥらの温もりのこもった演奏を聴くと、ヴァージンがというより70年代後半以降はほとんどブリティッシュ・ロックには良いものなどはないんじゃないか(せいぜい数組あるかなしか?)と思えてくる。

なお『Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973』収録曲の出典アルバム40作については今回コメントする余地がなかったが、次回ヴァーティゴ作品をご紹介する際に短評を添えて再掲載したい。40枚も短評して意味があるのか疑問だが、さすがに印象の薄い(ずいぶん聴いていない)アルバムもあるから、聴き返したら少しは発見があるかもしれない。