人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(17)

 つけ焼き刃ではありますがまずは僭越ながらひと言、とスノーク、良い作法は身だしなみやお行儀の良さと同じように、大切なこととわきまえていなければいけません。不幸にして、いろいろなもの事の標準が混乱している昨今、作法がないがしろにされがちであることは嘆かわしいことと言わずにはおれません。特に食卓での作法、いわゆるテーブル・マナーについては、とりわけその感を深く覚えます。
 どうしたのかねキミの兄さんは、とムーミンパパ、家でもいつもこんな調子なのかね、いつからだい?
 昔からです、と偽フローレンは真顔で答えました、頭に虫が涌く病気なんです。困った虫で、1匹見かけると30匹いるといいます。耳や鼻孔にティッシュを詰めて予防もせずに昼寝したりすると、頭の中に潜り込んで繁殖するといいます。
 そのスノークが続けました。高級な陶器、ガラス器、銀器が美しく並べられている食卓に深い関心を注がずにはいられない美術品愛好家の私は、食卓での良い作法も趣味の良い食器と同様、大切であると痛感いたします。
 ああ言ってますけど本当はもう痛みも感じなくなっているんです、と偽フローレン、だって痛みを感じようにも神経中枢を虫に喰われているんですから。それは恐ろしい、とムーミンパパはスノークの所作を凝視しました。確かにそれはどこか不自然に引きつったところがありました。
 しかし行儀作法は大げさだったり、わざとらしかったり、作為的だったりしてはなりません。したがって家庭内ではある様式の作法に従うか、または全然無作法な習慣から、それがゆえに外で食事する時にうかつに別の様式の作法によることは、場合によっては危険を伴うことすらあります。つまり後年、食卓での作法に惑いを生じることになりかねません。
 危険なのは兄の方です、と偽フローレン、今だって意識を虫に支配された状態かもしれないのに、本人はそれに気づきません。
 このような理由で、食卓での作法は幼少の頃からしつけ始め、自然に身につくように教えなければなりません。そこで、私が知る限りで良いとされるテーブル・マナーを皆さんと検討したいと思います。もちろん他の様式もありますし、その是非について競いあうつもりはありませんが、これから開陳する様式は優雅で、魅力があり、そして何より自然であると信じております。
 まばらな拍手。一瞬おいて、スノークに四方八方から浴びせられるリンゴの集中砲火。