『陽は昇る』Le jour se leve
89分 モノクロ 1939年6月17日(仏)/日本未公開
監督 : マルセル・カルネ
出演 : ジャクリーヌ・ローラン、アルレッティ
嫉妬心から殺人を犯した男が、警察に包囲された状況の中で、過去を回想しながら、自ら命を絶つまでを描いた作品。『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネの抑制の利いた演出が物語に現実感を与えている。
映画はフラッシュバックでギャバンが同じフランソワという名前の花屋の店員(ジャクリーヌ・ローラン)と恋に落ちるロマンスと、彼女のパトロンで犬の調教師のナルシストの中年男ヴァレンティン(ジュール・ベリー)との三角関係、一旦はローランに振られベリーの元助手のクラーラ(アルレッティ)とつきあい始めるがローランを忘れられなかった折にベリーが訪ねてきてギャバンに、実はローランは自分の私生児だと教えて再びギャバンがローランに会いに行く、という回想が現在進行形のアパートを取り巻く野次馬や警官の動向、部屋から脱出できないギャバンの様子と平行して語られます。ギャバンは結局さんざんベリー演じるヴァレンティンに翻弄されて屈辱を味わわされて衝動的にヴァレンティンを殺害してしまうのですが、こうして過去と現在を平行話法で描くからには結末はだいたい予想がついてしまうので、ひとしきり殺人にいたるまでを描いて現在に戻るとその後はあっけなく映画は結末を迎えます。シグマ社製作の本作は共同脚本ジャック・プレヴェール、ルノワールの傑作『獣人』も担当していたクルト・クーランの撮影、アレクサンドル・トローネルの美術(本作は特にアパートのセット)、モーリス・ジョベールの音楽とカルネの名作連発時代のスタッフが揃っているのですが、いかんせん当時は斬新だっただろう本作の現在と過去の平行話法が現在ではあまりに技法頼りに見え、肝心のギャバンの衝動的な殺人にいたるまでの不幸な恋の成り行きが散漫で稀薄な内容になっており、嫌な中年男役のジュール・ベリーといいギャバンがローランに振られた腹いせにつきあうアルレッティも好演なのですが、映画の半分はアパートの一室に閉じこもったギャバンが焦燥感を増していく様子なので陰鬱なことおびただしく、技巧家カルネのやってみたかった作品には違いないのでしょうが前作の庶民的グランド・ホテル形式映画『北ホテル』'38で成功したようには斬新な試みが上手くいったとは言えず、「Top Ten Greatest Films」第7位とは過大評価もはなはだしいでしょう。今回で5回目くらいに観直しましたが、他のカルネ作品またはギャバン主演作品と抱き合わせでなく本作だけ観ると不満だらけにしかならないのではないでしょうか。カルネは名手ですがいつもセット撮影ばかりで、本作はそれも息苦しくなってくるのです。参考までに今回の記事末に1952年度~2002年度までの10年ごとの「Sight and Sound」誌の「Top Ten Greatest Films」投票リストを上げます。最新2012年度については以前ご紹介した記事をご覧ください。
●4月17日(火)
『曳き船』Remorques
84分 モノクロ 1941年11月27日(仏)/1946年6月15日(米)/日本未公開
監督 : ジャン・グレミヨン
出演 : マドレーヌ・ルノー
救難艇として活躍する曳き船サイクロン号の船長アンドレは、仕事と妻一筋の生活を送っていた。ある時、遭難船ミルバ号を救出するが、乗船していたミルバ号の船長の妻カトリーヌと惹かれ合ってしまう……。
SEDIFプロダクションとインペリアル・フィルム共同製作の本作は、カルネの『霧の波止場』'38で初共演になったギャバンと新人女優ミシェル・モルガンの組み合わせ(共同脚本もジャック・プレヴェール)を再び引きついで、前回ご紹介したモーリス・グレーズ監督の『珊瑚礁』'40など気の毒ながら比較にならない名作になっています。グレミヨンの再評価もありますが、ひょっとしたらフランス本国では『霧の波止場』以上の作品と目されるようになっているのではないでしょうか。アレクサンドル・トローネルのセットも先にセットありきのようなカルネ作品のようにはなっておらず、ロケを多用した開放感がそのまま港町の寂寥感になって無惨な転落映画『愛慾』の監督が抒情性にかけても見事な手腕を持っていたのを堪能できます。ギャバンとモルガンのぶっきらぼうだからこそ真情あふれる会話はプレヴェール脚本でも最上のもので、本作は'39年7月に撮影が開始されるも大戦勃発で何度もの中断を経て'41年9月にようやく完成したそうですが、当時実生活でも恋愛関係にあったというギャバンとモルガンの別れは本作を残してアメリカに亡命するギャバンの心情が反映したように切なく響きます。アメリカでも戦後公開され好評だったという本作が日本未公開に終わっていたのは内容が地味で暗いからかもしれませんが、『獣人』'38の機関士から本作では船長、『トンネル』'33や『白き処女地』'34のヒロインだったマドレーヌ・ルノーが本作では助演格の本妻でモルガンがメイン・ヒロインというのもギャバンのそれまでのキャリアを総括した観があります。本作は他社から6,000円の価格で日本盤の単品DVD発売がありますが、1,800円の廉価版10枚組DVDボックス『ジャン・ギャバンの世界 第2集』ならこのとっておきの名品に併せて9本もオマケがついてきます。『愛慾』も素晴らしい作品ですがルノワールの『獣人』同様あれははっきり好みを分ける種類の映画でしょう。『曳き船』は渋い作風ながらも男女や年齢を超えて、もっと幅広い観客層に訴求力を持った普遍的な感動のある作品です。本作を観てしまうと『霧の波止場』ですらこれほどの情感にはおよばないのではないかと思えてくるのです。
『夜霧の港』Moontide / La Peniche de l'amour
95分 モノクロ 1942年4月29日(米)/1944年10月25日(仏)/日本公開1947年2月25日
監督 : アーチー・L・メイヨ
出演 : アイダ・ルピノ
カリフォルニアの小さな港で働くフランス人ボボ。ある晩彼は入水自殺しようとしたアンナを助け、港の小屋で結婚生活を始めようとしていた。しかし長年ボボに寄生してきたタイニーが二人の仲を引き裂こうとして……。
監督が『悪魔スヴェンガリ』'31や『化石の森』'34、『マルクス捕物帖』'46のアーチー・メイヨ(1891-1968)、脚本が『サマラの町で会おう』や『親友ジョーイ』のジョン・オハラとあの『怒りの葡萄』'40、『タバコ・ロード』'41や『飾窓の女』'44、『拳銃王』'50のナナリー・ジョンソンの共作なのも驚きますが、ヒロインがアイダ・ルピノで共演がトーマス・ミッチェルとクロード・レインズ、ジョン・フォードの『四人の息子』'28のカメラマンだったチャールズ・クラークは本作でアカデミー賞撮影賞ノミネート、製作はマーク・ヘリンジャーです。まるでハリウッド映画黄金時代そのものではありませんか。これでフォックス社がしかるべき監督に振ったら本作も映画史に名前だけは残る作品になったかもしれず、実際本作はジャン・ギャバン主演のハリウッド作品として名を残し、また実は本作はメイヨとフリッツ・ラング(ノンクレジット)の共同監督作だったのが判明しています。ラングのハリウッド時代の作品は『激怒』'36から『条理ある疑いの彼方に』'56まで22作ありますが、サミュエル・フラー原案でドン・アメチとジョーン・ベネット主演の戦争特派員もの『Confirm or Deny』'41(日本未公開)と本作『夜霧の港』'42の2作を20世紀フォックス社でどちらも途中まで撮って降板してしまい、ともにアーチー・メイヨ作品として完成され公開されました。しかも本作は『ジャン・ギャバンの世界 第1集』が世界初DVD化になります。コスミック出版は『戦争映画パーフェクトコレクション』でもメイヨ監督・アメチ主演の日本未公開・世界初DVD化作品『四人の息子 (Four Sons)』'40を発売していますからいつ日本未公開・世界初DVDになるメイヨ監督・アメチ主演の『イエスかノーか (Confirm or Deny)』'41を『戦争映画パーフェクトコレクション』に収録発売するか油断できません。何となくスタンバーグの『紐育の波止場』'28を連想させるギャバンとルピノのロマンス映画の本作は、たぶん脚本の変更があってしかもつじつま合わせしなかったのか前半で張った伏線が回収されないままついに終わってしまったり、突然映画の調子が変わるなど、なるほどラングが撮っていたパートとメイヨが追加撮影したパートが混在しているんだな、と裏の事情を知るとなるほどな、と何だか納得いくところがあります。船頭多くして何とやらの喩えがありますが、日本公開時本作はギャバン主演作品なのにいまいちだな、と不評だったと言われますし、現在でもギャバンのファンには凡作扱いされている作品らしいですが、ハリウッド映画のギャバンと思えばこういうごちゃごちゃして景気だけは良い作品もありなのではないでしょうか。まあラングが投げてメイヨが拾った作品ですからとやかく言うような種類の映画ではなく、うまそうにメイヨの作った目玉焼きを食べるギャバンとメイヨの好演をのんびり楽しめばいいのが本作で、それぞれ異なる趣きとは言え息詰まるような『陽は昇る』『曳き船』から続けて観るとほっと息ぬきできるような作品です。
Sight and Sound Top Ten Greatest Films List.
1952
1. Bicycle Thieves (25 mentions)
2. City Lights (19 mentions)
3. The Gold Rush (19 mentions)
4. Battleship Potemkin (16 mentions)
5. Intolerance (12 mentions)
5. Louisiana Story (12 mentions)
7. Greed (11 mentions)
7. Le Jour Se Leve (11 mentions)
7. The Passion of Joan of Arc (11 mentions)
10. Brief Encounter (10 mentions)
10. The Rules of the Game (10 mentions)
10. Le Million (10 mentions)
Closest runners-up: Citizen Kane, La Grande Illusion, and The Grapes of Wrath. (9 mentions apiece)
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1962
1. Citizen Kane (22 mentions)
2. L'Avventura (20 mentions)
3. The Rules of the Game (19 mentions)
4. Greed (17 mentions)
4. Ugetsu (17 mentions)
6. Battleship Potemkin (16 mentions)
6. Bicycle Thieves (16 mentions)
6. Ivan the Terrible (16 mentions)
9. La Terra Trema (14 mentions)
10. L'Atalante (13 mentions)
Closest runners-up: Hiroshima mon amour, Pather Panchali and Zero for Conduct. (11 mentions apiece)
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1972
1. Citizen Kane (32 mentions)
2. The Rules of the Game (28 mentions)
3. Battleship Potemkin (16 mentions)
4. 8 1/2 (15 mentions)
5. L'Avventura (12 mentions)
5. Persona (12 mentions)
7. The Passion of Joan of Arc (11 mentions)
8. The General (10 mentions)
8. The Magnificent Ambersons (10 mentions)
10. Ugetsu (9 mentions)
10. Wild Strawberries (9 mentions)
Closest runners-up: The Gold Rush, Hiroshima mon amour, Ikiru, Ivan the Terrible, Pierrot le Fou, and Vertigo. (8 mentions apiece)
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1982
1. Citizen Kane (45 mentions)
2. The Rules of the Game (31 mentions)
3. Seven Samurai (15 mentions)
3. Singin' in the Rain (15 mentions)
5. 8 1/2 (14 mentions)
6. Battleship Potemkin (13 mentions)
7. L'Avventura (12 mentions)
7. The Magnificent Ambersons (12 mentions)
7. Vertigo (12 mentions)
10. The General (11 mentions)
10. The Searchers (11 mentions)
Closest runners-up: 2001: A Space Odyssey and Andrei Rublev. (10 mentions apiece)
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1992
1. Citizen Kane (43 mentions)
2. The Rules of the Game (32 mentions)
3. Tokyo Story (22 mentions)
4. Vertigo (18 mentions)
5. The Searchers (17 mentions)
6. L'Atalante (15 mentions)
6. The Passion of Joan of Arc (15 mentions)
6. Pather Panchali (15 mentions)
6. Battleship Potemkin (15 mentions)
10. 2001: A Space Odyssey (14 mentions)
Closest runners-up: Bicycle Thieves and Singin' in the Rain. (10 mentions apiece)
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2002
1. Citizen Kane (46 mentions)
2. Vertigo (41 mentions)
3. The Rules of the Game (30 mentions)
4. The Godfather and The Godfather Part II (23 mentions)
5. Tokyo Story (22 mentions)
6. 2001: A Space Odyssey (21 mentions)
7. Battleship Potemkin (19 mentions)
7. Sunrise: A Song of Two Humans (19 mentions)
9. 8 1/2 (18 mentions)
10. Singin' in the Rain (17 mentions)
Closest runners-up: Seven Samurai and The Searchers. (15 mentions apiece)