人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2018年10月15日~17日/アメリカ古典モンスター映画を観る(6)

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 ユニヴァーサル・ホラー4大モンスターは年代順にドラキュラ、フランケンシュタイン(の怪物)、ミイラ男、狼男ですが、これらは以外とそれほどシリーズとしては多くはなく、フランケンシュタイン8作(狼男と合流1作、ドラキュラと狼男の合流3作うちアボットコステロ主演のパロディ1作含む)、ドラキュラ6作(フランケンシュタインと狼男の合流3作うちアボットコステロ主演のパロディ1作含む)、ミイラ男6作(うちアボットコステロ主演のパロディ1作含む)、狼男5作(うちフランケンシュタインと合流1作、フランケンシュタインとドラキュラの合流3作うちアボットコステロ主演のパロディ1作含む)と、合流作品を抜かせばミイラ男5作、フランケンシュタイン4作、ドラキュラ3作、狼男1作という意外な結果が出ます。アボットコステロ主演のパロディ作品でも『凸凹フランケンシュタインの巻』'48がフランケンシュタイン(の怪物)、ドラキュラ、狼男の3モンスター競演の各シリーズ最終作なのに対してミイラ男最終作は『凸凹ミイラ男の巻』'55(日本未公開・テレビ放映のみ)と単独作品になっており、またドラキュラが'31年に第1作で第2作が'36年、フランケンシュタインが'31年に第1作で第2作が'35年、狼男がが'41年に第1作で第2作が'43年に対してもミイラ男はが'32年に第1作で第2作が'40年と間が開いており、第1作と第2作~第5作は設定もやや異なり、第2作~第5作では『ミイラの復活』'40、『ミイラの墓場』'42が前後編、『執念のミイラ』'44と『ミイラの呪い』'44が前2作を引き継いだ姉妹編と見なせることから、『ミイラ再生』'32を単発作品として『ミイラ復活』からをミイラ男シリーズ作品第1作とする見解も多いそうです。そのあたりも作品個別の感想文では触れていくつもりです。――なお今回も作品解説文はボックスセットのケース裏面の簡略な作品紹介を引き、映画原題と製作会社、アメリカ本国公開年月日を添えました。

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●10月15日(月)
『ミイラ再生』The Mummy (Universal Studios'32)*73min, B/W; アメリカ公開'32年11月22日
監督 : カール・フロイント
主演 : ボリス・カーロフ、ジタ・ヨハン、エドワード・ヴァン・スローン、デイヴィッド・マナーズ、アーサー・バイロン
大英博物館の調査隊はエジプトで大神官のミイラを発掘するが、ミイラは息を吹き返し、こつ然と姿を消した。10年後、調査隊をなぞのエジプト人が訪れ……。「フランケンシュタイン」のボリス・カーロフが主演した傑作。

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 最初の『魔人ドラキュラ』'31、続く『フランケンシュタイン』'31に継いでユニヴァーサル・ホラー第3の名作となった本作は、『魔人ドラキュラ』のカメラマンだったドイツ映画界出身のカール・フロイントが監督に起用されて作ったもので、映像音声同時収録の光学式録音の時代ですからカメラマンは専任カメラマンに任せていますが、フロイント自身の撮影と言われても通る鋭い映像感覚にあふれています。『魔人ドラキュラ』も成功の大半はベラ・ルゴシの主演とフロイントの撮影にあるような、名手トッド・ブラウニング監督作としてはブラウニングの演出は抑制気味の映画でしたが、本作の場合はボリス・カーロフの主演とカメラが素晴らしいのもフロイントの手腕と納得させられるもので、カーロフのクローズアップなどはあまりの鋭さにぞくぞくします。さて映画は、おどろおどろしい暗い墓地内を背景に女神イシスが太陽神ラーの力で夫オシリスの亡骸を復活させたという「トトの書(Scroll of Thoth)」の存在が字幕説明から始まります。1921年、ジョセフ・ウェンプル卿(アーサー・バイロン)率いる考古学者たちは、アメンテプフ王により封印されたイムホテップ(Imhotep)という古代エジプトの高僧のミイラを発掘します。 ジョセフ卿の友人ミュラー博士(エドワード・ヴァン・スローン)による検査でこのミイラには内臓が除去されていないと判明し、ミュラーはイムホテップが伝統的なミイラと同様に布で包まれてはいるが、生き埋められたと推測します。またイムホテップの棺には呪いの印もあり、神話の通りなら棺にはトトの書も入っているとミュラーから聞いたジョセフ卿の助手ラルフ・ノートン(ブラムウェル・フレッチャー)は、こっそり棺を暴きます。ノートンが古代のものなのにまだ鮮明な巻物、「トトの書」を筆写していると、ミイラが起き上がりトトの書の巻物をつかんで逃げます。ノートンは発狂して狂死します。10年後、イムホテップ(ボリス・カーロフ)は現代エジプト人のアーデス・ベイ(Ardath Bey)の偽名を名乗っています。ベイはジョセフ卿の息子フランク((デイヴィッド・マナーズ)とピアソン教授(レオナルド・ムーディ)を呼び出して、アンケセナーメン(Ankh-es-en-amon)王妃の墓のありかを示します。考古学者は墓を見つけた後、カイロ博物館にその宝物を贈り、にアーデス・ベイに感謝します。王妃の埋葬品の文献から、イムホテップのミイラ死は、恋人であるアンケセナーメン王妃を復活させようとしたための刑罰であることが明らかになります。イムホテップはエジプト人との混血女性でフランクの恋人のヘレン・グロスヴェナー(ジタ・ヨハン)と出会います。ヘレンがアンケセナーメン王妃の生まれ変わりであると信じたイムホテップは彼女をミイラにしてから復活させ、自分の花嫁にする意図で彼女を殺そうとします。ヘレンに近づくベイがイムホテップだとミュラー博士は正体を見抜き、ジョセフ卿にトトの書を燃やすように要請しますが、ジョセフ卿は水鏡で監視していたイムホテップの遠隔超能力で絞め殺され、イムホテップは偽の巻物を暖炉にくべてトトの書の焼失を装います。ヘレンを呼びだしたイムホテップはついに儀式を行い、ヘレンにアンケセナーメン王妃としての過去の生涯を思い出させ、こんどこそ愛を成就させるためにバテスト神に生贄を捧げなければならない、愛の妨害者であるフランクがそれにふさわしい、と宣言します。ミュラー博士はフランクと対策を立ててヘレンを監視しますがイムホテップの遠隔超能力で倒れ、その隙にヘレンはイムホテップのもとにに誘導されます。イムホテップはヘレンに新たな生命を与えようと女神イシスがオシリス復活に使った呪文の儀式を行おうとし、ヘレンは抵抗しますが諦め、儀式の最中ヘレンは女神イシスに祈って救われます。イシスの彫像は腕を上げて光の光を放ち、トトの紋章を火にくべます。イムホテップに不滅の生命を与えた呪文は破れ、イムホテップの体は粉塵に崩れます。ミューラー博士の励ましで駆けつけたフランクはヘレンを現実世界に呼び戻し、トトの書は燃え上がり続けます。
 ――以上が伝説的作品『ミイラ再生』で、本作の世界唯一現存するオリジナル・ポスターは2014年にロン・チェイニー主演のトッド・ブラウニング監督作『真夜中のロンドン(London After Midnight)』'27のやはり唯一現存するオリジナル・ポスターが映画ポスターとしては最高額の47万8,000ドルで落札され、それまで'97年に本作のオリジナル・ポスターが記録した落札価格45万3,000ドルを更新するまでは世界一高価な映画ポスターだったほどで、ドルではピンとこないのであれば1ドル=100円のレートでも4,530万円と言えば開いた口がふさがらないのではないでしょうか。ミイラ男シリーズでの本作の位置づけについて第2作『ミイラの復活』'40以降の作品との相違点を上げると、本作ではミイラ男はボリス・カーロフですが、王妃の亡骸を蘇らせるために禁断の「トトの書」を使った刑罰で生き埋めのミイラ刑にあった高僧イムホテップが本作のミイラ男のカーロフで、冒頭蘇ってジョセフ卿の助手ノートンを殺す短い場面以外はミイラにはならず、10年後にエジプト系の人の姿でロンドンに現れてからも犯行は水鏡の遠隔超能力で行い、王妃の生まれ変わりと見なした女性に儀式をかけて同族にしようというのは後続作にも引き継がれますが(ただし後続作では「王妃の生まれ変わり」でなくても良くなります)、ミイラ化するのは「トトの書」が燃えて呪術が解けオーヴァーラップ・ショットで顔面がみるみる崩壊していくラスト・シーンくらいです。本作のカメラマンは'20年代のドイツ映画黄金時代を築いた、ルドルフ・マテと二分する名カメラマンのフロイントにきびしくしごかれたと思いますが、カメラ・テストではフロイント自らファインダーを覗いたのは間違いないので、モンタージュの結果も計算しつくしたであろう、見事な映像が続きます。物語が最小の登場人物だけで最小限にシンプルなのも成功しており、第2作(というより仕切り直しミイラ男シリーズ第1作)『ミイラの復活』以降も面白いのですが、本作が作られてから8年続編が出なかったのも本作がずばりと1作で完結した作品だったからでしょう。『ミイラの復活』では、もっと続編が可能な設定に変更されることでもそれがわかりますが、完成度の点では本作と競うつもりはさらさらないような作品にもなります。本作の姉妹作の企画が立ちフロイントが監督したら『フランケンシュタインの花嫁』'35くらいの続編になったかもしれませんが、ミイラ男自体1回性の強いオリジナル企画(ドラキュラ、フランケンシュタインと違い映画オリジナル原案)だったのでしょう。

●10月16日(火)
『ミイラの復活』The Mummy's Hand (Universal Studios'40)*67min, B/W; アメリカ公開'40年9月20日
監督 : クリスティ・キャバンヌ
主演 : トム・タイラー、ジョージ・ズッコ、ペギー・モーラン、ディック・フォーラン、ウォーレス・フォード
・市場で王女アナンカの墓を示す陶器を手に入れ、発掘に向かう調査隊。ミイラは発掘できたが、それは王女のものではなく、彼女を慕っていたカリス王子であり、蘇ったミイラは調査隊に襲いかかる……。

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 本作は第1作『ミイラ再生』とは異なる設定の第2作で、前作では高僧イムホテップ自身だったミイラが本作以降からは高僧アドベブやその後継者たちに操られるカリス王子のミイラとなっており、シリーズとしては本作が再スタートの第1作とも言えるもので、本作からの4作は2作単位で連続したシリーズをなしています。映画は、高僧カルナック(エドゥアルド・チアネッリ)の王室に召喚されて、聖域「7つのジャッカルの丘」に行くエジプトのアドベブ(ジョージ・ズッコ)から始まります。死期の近い高僧は、カリス王子(トム・タイラー)のミイラの話をアドベブに説明します。第1作と似ていますが、カリス王子はアメンテプフ王によって埋葬された王女アナンカの亡骸に生命を回復させるために神聖なタナの葉を盗んで処刑され、その刑罰は舌を切除されて生きたまま埋葬されることで、タナの葉はカリス王子のミイラに添えて埋葬されています。タナの葉はカリスの肉体の存続の秘密です。満月と満月の間、3枚のタナ葉を煎じて与えればカリス王子の肉体は保ったまま復活は防げます。しかし9枚の葉を煎じて与えるとカリス王子は蘇生してしまうと注意されますが、アドベブが王妃の墓に入ると、9枚の葉の液体がカリス王子のミイラを蘇生させています。一方、考古学者スティーヴ・バニング(ディック・フォーラン)と仲間のベイブ・ジェンソン(ウォーレス・フォード)は、カイロのバザーで壊れた花瓶の残骸からメダルを発見します。この真正の古代エジプトの遺物は、メダルの象形文字から、アナンカ王女の墓地の場所への手掛かりが含まれていると推定されます。カイロ博物館の名物館長ペトリー博士(チャールズ・トローブリッジ)の支援を得て、博物館に雇われていたアドベブの反対にもかかわらず、バニングたちは発掘のための資金を募ります。バニングとジェンソンはアメリカの魔術師ソルヴァニ(セシル・ケラウェイ)と出会い、意気投合しますが、彼の娘マルタ(ペギー・モーラン)はバニングたちと会う前にアドベブの訪問を受け、王家の墓を暴く冒涜性を聞いていたので、父ソルヴァニがスポンサーになったバニングたちの発掘に反感を持っています。ソルヴァニも含む探検隊は聖域「7つのジャッカルの丘」を探索し、カリス王子の墓を見つけ、タナの葉と一緒にミイラを見つけますが、アナンカ王女の墓と確認できるものは何も見つかりません。アドベブは、ミイラの洞窟にいる館長ペトリー博士のもとに現れ、花瓶は偽物でこちらが本当の王女の墓のメダルと告げ、驚いたペトリー博士にカリス王子のミイラ復活を見せカリスに絞め殺させます。アドベブが9枚のタナの葉を煎じたあと、ミイラはすぐに下僕になったペトリーと、秘密の道を通って山の向こうの寺院に逃げます。アドベブとカリスは、発掘隊を追跡して襲撃をくり返し、エジプトの監督を殺害して、最後にソルヴァニを攻撃してマルタを誘拐します。バニングとジェンソンは後を追い、ジェンソンは山の周りを回り、バニングが攻撃してきたペトリーを狙撃し、ペトリーの所持品のメダルに印された本当のアナンカ王女の墓へ通じる秘密の通路から、カリスの追跡に出発します。アドベブはマルタの美しさに魅了され、自分自身とマルタにタナ液を注入し、両方を不滅にする計画です。ジェンソンは遅れて到着し、バニングがマルタを救出しようとしている間に、寺の外でアドベブを銃撃します。アドベブはアナンカ王女に詫びて絶命します。しかしカリスが現れ、バニングの弾丸は不死のミイラに効きません。 マルタはタナ液の秘密を伝え、カリスにはこれ以上の血清を飲ませてはならないとバニングたちに教えます。ミイラがタナ溶液を唇にあてると、ジェンソンは杯を床に落します。カリスは溶液を摂取しようと床に這います。バニングは燭台を投げつけミイラのカリス王子を燃やします。映画の締めくくりは、アナンカ王女のミイラと墓の財宝と一緒に楽しくアメリカに戻ろうと準備する一行に「カイロ博物館館長の後任を命ずる。私は骨董屋になる」とペトリー館長からバニングに手紙が届き、全員が笑って映画は終わります。
 ――そういう具合に、本作ではようやく操る高僧、操られるミイラ男のカリス王子という具合に『ミイラ再生』ではボリス・カーロフの高僧イムホテップが一人で兼ねていたキャラクターを二人に分けることでミイラ男がミイラの姿で暴れるシーンが作れることになり、王妃の亡骸を蘇らせるために禁断の呪術を使ってミイラ処刑にされたのは高僧ではなくカリス王子ですから高僧アドベブは王妃の生まれ変わりにこだわらず好みの女性を狙うようになり、カリス王子は舌を切られて生き埋めミイラという設定なのでフランケンシュタインの怪物同様しゃべらず、『ミイラ再生』で死者蘇生の呪術は巻物「トトの書」でしたが本作・次作では古代エジプトのタナの葉のエキス、となります。『ミイラ再生』でも本作でもなぜ禁断の呪術を使って処刑した罪人の棺に呪術のタネを入れておくのか古代エジプト人の考えはわかりませんが(それがあったからミイラ蘇生ができたのですが)、罪人ともども悪の源を封印しておくという呪術的なものなのか、掘り起こすと絶対危険というリスクを高めて厳重注意するためか、それとも後世の人間が掘り出して災厄を引き起こすのを想像して楽しむ悪趣味のためか(だったら古代エジプト人もやってくれるものです)その点は『ミイラ再生』でもシリーズ化する『ミイラ復活』以降でも説明がありませんが(『ミイラ再生』でミュラー教授が「神話によると一緒に棺に入れてある」と言うだけです)古代エジプト人は黄泉の国を信じていたといいますから「現世では死刑にするが黄泉の国では蘇ってもよろしい」という心遣いだったのかもしれません。本作の高僧カルナックがアドベブを後継者にしてカリス王子のミイラを使わせるのは西洋人による古代エジプト墳墓の発掘を冒涜として阻止するためですが、これもカイロ博物館でのアナンカ王女の墓の発掘へのアドベブの反対、マルタのもとを訪ねたアドベブの意見に示されている程度で、'21年のツタンカーメン王の発掘以来西洋では古代エジプト文化を墳墓発掘で解明する興味が高まる一方でしたから、政界・財界ともに有力な研究にスポンサーに乗っていた時勢でははっきりと批判的には描けず、結局アドベブもマルタへの愛欲に溺れる悪党に描くことになったようにも見えます。本作の30年後が設定の次作『ミイラの墓場』のアドベブの後継者ムハマット・ベイは古代エジプトへの冒涜にもっと激しく復讐心に燃え、アメリカに渡って本作の主人公たちと一族郎党を皆殺しにする(!)という使命を果たしていくのですが、このあたり娯楽映画が問題映画に踏みこみかねない難しいところなので、本作のテーマはやはり次作に持ち越した観があります。しかし『ミイラの復活』『ミイラの墓場』を前後編とすると、前編の主人公たちを皆殺しにするのが後編とはなかなか大胆な連作なのがわかります。こういうことを平然とするのもハリウッド映画では起こるので、油断のならないところです。
(なお本作は女性監督ではありません)。

●10月17日(水)
『ミイラの墓場』The Mummy's Tomb (Universal Pictures'42)*61min, B/W; アメリカ公開'42年10月23日
監督 : ハロルド・M・ヤング
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ターハン・ベイ、エリーズ・ノックス、ジョン・ハバード
・「ミイラの復活」の続編。調査隊の恐るべき体験から30年後、高僧アドベブがミイラ=カリスを操り、アナンカ王女の墓を暴こうとした調査隊員へ復讐に向かわせる……。ミイラ男役は「狼男」のロン・チェイニー・Jr。

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 本作は前作『ミイラの復活』'40の直接の続編、後日談で、『ミイラの復活』の事件から30年後に、前作の考古学者のスティーヴ・バニング博士(ディック・フォーラン)と相棒のベイブ・ジェンソン改めハンソン(ウォーレス・フォード)やその家族が高僧アドベブの後継者のムハマット・ベイ(ターハン・ベイ)が操るカリス王子のミイラに相次いで殺害され、残った家族にも魔の手が伸びる……というもので、なぜウォーレス・フォード演じる役がジェンソンからハンソンに変わったかは説明もなく公式資料もないそうですが、映画の場合実名クレームで名前が変わるのは映画人口の多いアメリカではままあり、怪奇映画となるとなおさらでしょうからそうした事情があったと思われます。映画はマサチューセッツ州メープルトンの家で、夕食後に家族や友人たちに30年前の事件を話している老考古学者のスティーヴ・バニング博士の姿から始まります。冒頭12分はバニング博士の回想体での前作『ミイラの復活』のダイジェスト映像で、見た者でなければ信じられないような話だね、と12分目から場面はエジプトの寺院に移ります。死を生き延びたアドベブ(ジョージ・ズッコ)は、カリス王子のミイラ伝説を後継者のムハマット・ベイ(ターハン・ベイ)に説明します。タナの葉の使用の指示を受け、バニングと発掘調査隊メンバーとその子孫を滅ぼす任務を命じられ、アドベブは後を託します。ベイとカリス(ロン・チェイニーJr.)はエジプトを出発してアメリカへ旅立ちます。ベイは地元の墓地で管理人の仕事を取り、アジトを作り、カリスのタナ醸造所を管理します。カリスはアナンカ王女の墓の冒涜の復讐のためのものです。最初の犠牲者は、寝室で寝支度をしていた考古学者スティーヴ・バニングになります。さらにバニング家の二人が殺され、保安官(クリフ・クラーク)と検死官(エメット・ヴォーガン)が成果を上げることができないため、新聞社員はメイプルトンに集まり、殺人事件についてもっと知ろうとします。ベイブ・ハンソン(ウォレス・フォード)は、友人の死を知って現場に到着します。ハンソンは、スティーブの妹ジェーン・バニング(メアリー・ゴードン)が殺されたとき、ミイラの仕業と確信します。ハンソンは保安官と会いますが、3,000年前のミイラの犯行とは納得させることができません。ハンソンは地元のバーで新聞記者に話をしてベイに知られ、その後すぐにカリスによって殺されます。スティーヴの息子ジョン・バニング博士(ジョン・ハバード)はノーマン教授(フランク・ライヒャー)の助けを借りて、犠牲者に残る "灰色の傷跡"と包帯の破片のカビと防腐剤を解明します。ノーマン教授による年代鑑定は、ハンソンの主張が正しかったことを証明しています。ミイラによる事件との物証が上がり、ジョンは警察からミイラ事件対策班の隊長を任命されます。一方、ベイはジョンと彼のガールフレンド、イゾベル・エヴァンス(エリーズ・ノックス)が明日、結婚式を控えていることを知って、妨害を決行します。 ベイはイゾベル誘拐の任務にカリスを送ります。 カリスは当初反発しますが、最終的にベイの命令に従います。夜の暗闇の中で、ミイラはエヴァンス家に忍びこみ、気絶するイゾベルを墓地の小屋に拉致します。 ベイはイゾベルに、彼がカルナックの高僧としてイザベルが花嫁になり、イザベルが王家の跡取りの母になると誘惑します。ジョンと町の人々は、エジプト移民のムハマット・ベイを怪しみ、小屋からベイを呼び出します。カリスはイゾベルをさらって裏口から逃げ、ベイはジョンを撃ちようとしますが、ベイは保安官に銃撃されます。イゾベルを抱えたミイラはジョンの館に逃げこみ、町の人々は追跡し、館に多くのたいまつが投げ込まれ始まります。家の中で、ジョンは、ミイラからイゾベルを救い出す間に、カリスをたいまつで足止めしますが、不注意にカーテンに火をつけます。保安官と検死官の助けを借りて、ジョンとイゾベルはバルコニーから脱出します。町民は次々とたいまつを投げつけてミイラが逃げるのを防ぎ、ミイラは炎上した館中で滅びます。ジョンとイゾベルの結婚の報がミイラ事件の終結とともに新聞記事を飾り、車から降りた二人に祝福のクラッカーが浴びせられて、映画は終わります。
 ――と、冒頭12分がまるまる前作『ミイラの復活』のダイジェストでは思いやられると思いきや、その12分で大活躍した若き日のスティーヴ・バニング博士も相棒のベイブも30年分の老けメイクで出てきてあっさり数シークエンスで殺されてしまうのがわざわざダイジェストを持ってきた効果になっているのは、ちょっと気の効いた趣向です。前作でトム・タイラーが扮していたミイラ男のカリス王子は本作から次作『執念のミイラ』'44、次々作『ミイラの呪い』'44と3作続けてロン・チェイニー・Jr.が扮しています。しかし人間体場面があるならともかく『ミイラの復活』以来のミイラ男カリス王子は全身布巻きであり、これは『フランケンシュタイン』『ミイラ再生』『狼男』同様ユニヴァーサルの特殊メイク・アーティスト、ジャック・ピアースによるそうですが、全身を包むメイクには最長8時間かかるのでチェイニーも音を上げたそうで、8時間となれば食事もトイレも必要です。さすがにロングショットでは着脱可能なゴムのマスクとスーツを使ったそうですが。次作と次々作も本作の続編かつ姉妹作ですが、'44年のうちに2作、一応監督は違う作品ですが集中して作ったのは、ロン・チェイニー・Jr.の完全全身布巻きメイクのシーンは2作同時進行で抜き撮り(特定のシーンだけまとめてヴァリエーション撮影する手法)する必要もあったと想像されますし、ちゃんと全身布巻きメイクのミイラ男カリス王子は視界や運動感覚も不自由らしく、歩くのもよろよろしてひたすら獲物の首を絞めるだけです。内容もよく考えれば相当過激な本作ですが、発掘隊皆殺しというのもカルナック宗の高僧アドベブとムハマット・ベイには正義の裁きで筋が通っていますし、前作よりもそこが鮮明で、かつ怪奇俳優ロン・チェイニー・Jr.へのジャック・ピアースのメイクが容赦ないのも前作よりミイラ男の登場・犯行シーンが格段に多いだけ見どころがあります。名優中の名優の父ロン・チェイニーとは比較にできないとは言えJr.もなかなか良い俳優で、怪奇映画でも人間としての演技の見せ場の多い『狼男』の方がJr.の持ち味の生きた役柄ですが、本作のミイラ男カリス王子もロン・チェイニー・Jr.と思うとそれも贔屓したくなるのです。