人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2018年10月26日~27日/アメリカ古典モンスター映画を観る(11)

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 コスミック出版のボックスセット『ホラー映画パーフェクトコレクション~ゾンビの世界』は実にうまいセレクションがされていて、昨年2017年6月の発売時にも再見・未見の作品を含めて一通り観ましたが、今回感想文を書くために製作映画社と年度を調べてみると、全10作中『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』'68だけは年代の新しいインディペンデント映画ですが、対照的にフランス資本のメジャーのイギリス映画でハリウッドのスタッフ・キャストによるゾンビ映画の概念の稀薄な古い時代の多国籍映画『月光石』'33もあれば、ゾンビ映画の嚆矢とされるインディペンデント映画のハルペリン兄弟プロ作品『恐怖城』'32と同プロの『ゾンビの反乱』'36もあり、メジャーのワーナーのマイケル・カーティス監督作『歩く死骸』'36やパラマウントジョージ・マーシャル監督作『ゴースト・ブレーカーズ』'40もあれば、低予算映画専門のマイナー映画社('31年~'53年営業、187本製作)のモノグラム映画社のゾンビ映画『死霊が漂う孤島』'41と『ヴードゥーマン』'44があり、どちらも日本未公開(テレビ放映のみあり)なら『死霊が漂う孤島』は日本初・世界初DVD化になるようです。B級メジャーの観の強いRKO映画社の『私はゾンビと歩いた!』は古典ゾンビ映画の頂点と名高く、やはりRKOの『ブロードウェイのゾンビ』'45は人気凋落期のベラ・ルゴシ主演のタイトル通りの異色作で、メジャー、マイナー、インディペンデント問わずよくこれだけ集めたと感心し、しかも2作ずつ比較対照できるペアになっています。今回は知る人ぞ知る(筆者は知りませんでした)B級映画の低予算映画マイナー映画社('46年8月17日までワーナー、'46年8月18日からMGM配給)のモノグラム映画社の2本です。意外にもこれがけっこう健闘していて、低予算のB級映画で現在ならテレビ用作品のようなものですが、メジャーの凡作よりも出来は良かったりするので隅におけません。――なお今回も作品解説文はボックスセットのケース裏面の簡略な作品紹介を引き、映画原題と製作会社、アメリカ本国公開年月日を添えました。

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●10月26日(金)
『死霊が漂う孤島』King of The Zombies (Monogram Pictures'41)*67min, B/W; アメリカ公開'41年5月14日
監督 : ジーン・ヤーブロー
主演 : ディック・パーセル、ジョーン・ウッドベリ、ジョン・アーチャー、マンタン・モアランド、ヘンリー・ヴィクター
パイロットのマッカーシーとビル、ビルの執事ジェフの三人は飛行機でキューバへ向かっていた。悪天候のため飛行機はある島に不時着するが、そこにはサングレ博士の屋敷があり、恐ろしい儀式が行われていた……。

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 本作は前年'40年のパラマウント作品『ゴースト・ブレーカーズ』のドショウの下を狙った企画だったそうですが、『ゴースト・ブレーカーズ』が見どころのないガタガタの作品だったのに較べるとずっと締まった仕上がりになっています。『ゴースト・ブレーカーズ』に直接倣った部分と言えば主人公に黒人青年の召使いをつけてコメディ・リリーフにしている辺りですが、本作の方がずっと上手く行っているとは何ということでしょうか。また本作はアカデミー賞音楽賞ノミネートまでされており、メジャー配給とはいえ2本立て公開の添え物映画だっただろうマイナー映画社作品としては異例の注目を浴びたようです。映画は1941年、キューバプエルトリコの間を飛行するジェームス・"マック"・マッカーシー(ディック・パーセル)がパイロットのCapelis XC-12輸送機が低燃費で飛行困難になり、同乗していたビル・サマーズ(ジョン・アーチャー)とビルの黒人召使い、ジェファーソン・"ジェフ"・ジャクソンガイ・アッシャー(マンタン・モアランド)が遠方の島に不時着するところから始まります。 マックはカリブ海のラジオ送信を拾うことができず、かすかな無線信号を聞きます。一行は島をさまよい、伯爵ミクロス・サングレ博士(ヘンリー・ヴィクター)と彼の妻エイリス(パトリシア・ステイシー)、不気味な執事モンバ(レイ・ウィッパー)の住む館に着きます。端役も館の雰囲気に怯えていたジェフは、メイドのサマンサ(マルゲリート・ウィットン)と親しくなりますが、ふと地下に幽閉された人々を見かけてすぐにゾンビに憑依されていると確信します。ジェフは何度もゾンビを目撃しますがビルとマックはゾンビ出現には裏があると睨みます。やがてジェフは博士の雇う呪術師にゾンビにされてしまいます。 マックとビルは博士の姪バーバラ・ウィンスロウ(ジョーン・ウッドベリ)の助けを借りて、大邸宅で不思議な出来事が起こっているのを見つけ出します。やがて女性の幽霊が出現し、ビルたちは正体が博士の妻エイリスと疑います。ジェフはサマンサに出された食事によって催眠術にかけられただけで自分はゾンビになっていないと気づきます。探検のすえ、グループは地下室のヴードゥー儀式に行きつきます。サングレ博士は呪術師タハマ(マダム・サル・テ・アン)のヴードゥー呪術によって人々をゾンビ化し、やがてマックもゾンビ化されてサングレ博士の操り人形となり、事件は実は外国のスパイであるサングレ博士によるもので、博士は航空機が墜落して島に捉えられていたアメリカ軍のアーサー・ウェンライト大佐(ガイ・アッシャー)から機密を聞き出そうとしています。マックは術師の呪文にかかっていますが、ビルはマックを気絶させて治します。大佐をゾンビ化することによって大佐の脳内記憶は以前失敗した妻エイリスに替わってバーバラに移し替えられようとしますが、ビルは儀式を阻止します。この阻止により、ゾンビは自分の主であるサングレ博士に殺到します。サングレ博士はマックを狙撃しますが、博士は儀式の燃え上がる祭壇に落ちて死にます。サングレ博士が死んで、すべてのゾンビが術師の呪文から解放されて、映画は終わります。
 ――そんな具合で、ゾンビ映画に軍事スパイを絡ませたといっても焦点はぼやけていないので、小品ながら、または小品にまとめたゆえにこぢんまりとはしていますが、冒頭の輸送機墜落からゾンビ映画への持って行き方にややごたごたした観はあるものの変に凝った作り方ではなく演出の捌き方がざっくりしているので、嫌みなく観て入られる作品になっています。主人公のはずのマックが活躍しないどころか足手まといにになったり、コミック・リリーフ役の黒人召使いの出番の比重が大きすぎたり、結局いちばん事件解決に積極的で有能なのは副主人公役のビルだったりとシナリオ由来か演出の不手際かわからないような登場人物の役割分担の混乱もありますが、別に誰を主役と目す必要もなくヒロインと結ばれる主人公、というのもいませんし、もとよりノー・スター映画なのでそういった登場人物たちの行動力の落差もほとんど気にならないのは怪我の功名といったところでしょう。大した映画でなくても大筋がはっきりしているので、内容的には本作は短編時代を引きずったサイレント映画のような悪人退治映画で、ゾンビという道具立ては退治すべき悪人の悪の手段にすぎないので、'41年にもなってまだ'10年代半ばまでのような活劇悪人退治映画をやっていたのが年末には太平洋戦争も始まる第二次世界大戦真っ最中のこの映画ですが、アメリカは応援軍は中国やヨーロッパ戦線に送っても国家としての参戦は慎重だったので、こういう暢気な映画を楽しんでいたのです。もっとも本格的に連合軍に参戦し、戦争が激化してもアメリカ映画は能天気な作品を送り続けたので、モノグラム社は'43年には本作の続編『Revenge of the Zombies』を公開し、さらに新たなゾンビ映画ベラ・ルゴシ主演!の企画『ヴードゥーマン』'44を製作するのです。

●10月27日(土)
『ブードゥーマン』Voodoo Man (Monogram Pictures'44)*62min, B/W; アメリカ公開'44年2月21日
監督 : ウィリアム・ボーダイン
主演 : ベラ・ルゴシ、トッド・アンドリューズ、ワンダ・マッケイ、ルイーズ・カリー、ジョージ・ズッコ、ジョン・キャラダイン
・マーロウ博士は妻エブリンを生き返らそうと若い女性を誘拐し、実験を重ねていた。ある日、ベティのいとこステラが行方不明になる。ベティが婚約者で脚本家のラルフと博士の家を訪れると、そこには……。

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 本作も日本で輸入映画統制が始まった後の戦時中、しかも終戦前年の戦況激動の時期の作品ですし、敗戦後も日本公開されなかったので幻の映画になっていましたが、2016年に日本盤DVDが初リリースされたのでキネマ旬報の映画データベースには掲載されており、簡略な紹介文ですが、その時のプレス・リリース紹介ともども転載しておきましょう。
[ 解説 ] 怪奇スター、ベラ・ルゴシ主演のゾンビホラー。リチャード博士は若く美しい女性を捕まえ、亡くなった妻に彼女たちのエッセンスを注入していた。だが、妻と完全に一致する女性は未だに見つからない。ニコラスとトビーは博士の手伝いをしていたが…。【スタッフ&キャスト】監督 : ウィリアム・ボーディン/出演 : ベラ・ルゴシジョン・キャラダイン、ジョージ・ザッコ
[ 内容(「Oricon」データベースより) ] 田舎でガソリンスタンドを営むニコラスは、若く美しい女性を捕まえるリチャード・マーロウ博士の手助けをしていた。博士は彼女たちのエッセンスを亡くなった妻に移し替えていたのだ。だが、ドナーの女性は中々見つからず失敗を繰り返していた。一方、博士の手伝いをするもうひとりの男トビーは、抜け殻となったゾンビガールの世話をしていたが…。ベラ・ルゴシがゾンビマスターとなって暗躍するゾンビ・ホラー。2016/9/2DVD発売。
 ――これももっとあらすじを追うと、ガソリン・スタンド主サム・ニコラス(ジョージ・ズッコ)は若い女性がガソリン・スタンドで給油したのを電話で知らせます。女性は襲われて誘拐され、失踪事件が報道されます。車がガソリン切れになった脚本家ラルフ(トッド・アンドリューズ)は偶然通りかかった婚約者ベティー(ワンダ・マッケイ)の従姉妹ステラ(ルイーズ・カリー)の車に拾われますが、停車中にステラはさらわれてしまいます。リチャード・マーロウ博士(ベラ・ルゴシ)の館に連れ込まれたステラは22年前に死んでそのままの容貌を保った博士の妻エヴリン(エレン・ホール)に対面させられ、エヴリンの魂を取り戻すにはランプーナの呪術による若い女性が必要なのだ、とステラを呪縛にかけます。徒歩で帰宅したトッドはベティーにステラとの偶然の出会いと謎の誘拐を告げます。マーロウ博士はニコラスの呪術で一瞬蘇ったエヴリンに歓喜しますが蘇生は続かず、エヴリンへの適合者の女性を見つけるまで試みを続けるのを決意します。一方ステラの誘拐を警察に届け出たトッドとベティーは手がかりの乏しさにあしらわれますが、保安官はマーロウ博士の館を訪ねます。保安官は探りを入れますが博士はとぼけ、一方魂を失ったステラを博士の助手トビー(ジョン・キャラダイン)は守ろうとします。館を抜け出して発見されたステラは実家に保護されますが、トッドとベティーの見守る中、マーロウ博士が診察と治療を装って訪ねてきます。マーロウ博士は貧血性の疲労と無難な診断をして帰りますが、トッドとベティーはマーロウ博士に対面した瞬間のステラの表情に疑惑をかんじます。博士はニコラスに命じてランプーナの呪術でステラを呼び戻させ、再度のステラ失踪にベティーとトッドはマーロウ博士を訪ねます。博士の電話中に階段に故人という博士の夫人の肖像画の女性が姿を一瞬現し、二人が辞去したあと博士はベティーにエヴリンとの適合を確かめようとランプーナの呪術をかけて呼び寄せます。ベティーの失踪に気づいたトッドは保安官とマーロウ博士邸に駆けつけ、地下の呪術室で女性のゾンビたちの円陣の中でエヴリンにベティーの魂を移す呪術が行われようとしているのを発見しますが手下にのされます。保安官たちが助手を連れて到着し、マーロウ博士を撃ち、すべての呪術は解けます。エヴリンが一瞬蘇生しマーロウ博士に「リチャード……」と呼びかけ、マーロウ博士は「エヴリン、すぐ君のもとへ行くよ」と息絶えます。場面変わってハリウッドのオフィス、「映画の原稿です。信じがたいが全部実話ですよ。じゃ、2週間の休暇を楽しんできます」すると上司が原稿の表紙を見て「"ヴードゥーマン"は誰にする?」トッドはナンシーと去ろうとして振り返り、「ベラ・ルゴシです。他にいません」そしてエンドマークが出ます。
 ……と本作は、『魔人ドラキュラ』'31と『恐怖城』'32のベラ・ルゴシ(1882-1956)、ユニヴァーサル映画でルゴシのあとにドラキュラ伯爵役者になったジョン・キャラダイン(1906-1988)、ユニヴァーサルのミイラ男シリーズで死者蘇生術でミイラのカリスを操るアルカム宗の高僧アドベブ役だったジョージ・ズッコ(1886-1960)がルゴシを妻エヴリンの蘇生のためにキャラダインを助手にしてゾンビ術師ズッコの転生術で次々誘拐した若い女性から魂を抜き取る、しかしなかなか適合者の若い女に当たらないので館の地下室には魂を抜かれてゾンビ化した犠牲者の若い女性たちがうようよいて、キャラダインはその世話係もしているというゾンビという言葉が出てこなければ死んだ若い女たちを蘇らせてゾンビ美女のハーレムを作っているのでもありませんので、死者蘇生の怪奇映画ではあってもゾンビ映画と言えるかどうかは微妙です。しかしゾンビ映画の嚆矢『恐怖城』から古典ゾンビ映画のゾンビとは肉体的に死んでいるのと魂が抜き取られて生ける屍になっているのが同義になっているので、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』'68のゾンビ映画の刷新とゾンビの再定義以前にはゾンビ映画はドラキュラ伯爵の催眠術能力やミイラ男シリーズの死者蘇生(不死化)呪術とあまり違いのないものだったのが古典ホラー映画時代('30年代~'40年代)のゾンビ映画を観るとわかるので、コスミック出版の古典ホラー映画ボックスセット『フランケンシュタインvs狼男』『ドラキュラvsミイラ男』『ゾンビの世界』に収録された29本で本当に泣けるのは『フランケンシュタイン』'31で、本当に怖いのは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』くらいで、異色の傑作『私はゾンビと歩いた!』を別格とすれば『ミイラ再生』と『歩く死骸』『狼男』が次点くらいですが、サイレント時代のロン・チェイニー主演作などはもっと映像・情動的にもショッキングな作品がずらりと並ぶので、サウンド・トーキーはサイレント映画よりも音声が乗っただけでぐっと生々しくなった分、かえってグロテスクすぎたりヴァイオレントすぎたりする扇情的内容は自粛されたのかもしれません。本作も小粒なりにテーマを絞ってよくまとまった作品ですが、最初は『タイガー・マン』というタイトルでアンドリュー・コルヴィン原案で企画が開始し『ヴードゥーマン』と改題されてコルヴィンもノンクレジットになったそうで、おそらく原案から脚色への改変が大きくオリジナル脚本ということになったのでしょう。撮影期間は7日間だったそうで、アメリカのマイナー映画社はのちの日本のピンク映画級の早撮りもやってのけたということです。『魔人ドラキュラ』で49歳にして一躍映画スターになったルゴシは『フランケンシュタイン』'31は台詞のない役は嫌だと断り、インディペンデント映画で予算5万ドルの『恐怖城』には週給3,500ドル(最安レートで35万円、当時のレートならその3倍以上)を要求するも'30年代末には人気凋落し、『狼男』'41には端役出演、『フランケンシュタインと狼男』'43ではフランケンシュタイン役も引き受けたので(その前の『フランケンシュタインの復帰』'39、『フランケンシュタインの幽霊』'42では怪物蘇生を企むせむし男の犯罪者イーゴリ役でした)、ルゴシの名前こそ浸透していても、ユニヴァーサル作品やマイナー映画社作品、インディペンデント映画まで意欲的に活動していたキャラダインやズッコとは事情が違ったでしょう。本作のルゴシも貫禄と風格のある存在感で良いのですが、ボリス・カーロフのようにほとんど台詞のない演技にも悲しみや孤独を感じさせるような内面からの情感を表現するタイプではルゴシはないので、出番は少ないですが魂のない女たちを世話して呪術の儀式では沈鬱な無表情で鈴を振り鳴らす知的障害者役のジョン・キャラダインはカーロフに通じるタイプの俳優なのが対照的に見え、ルゴシと下僕キャラダインに確執を作ってカタストロフに持ちこむ手もあったと惜しまれます。それでは映画が複雑になってしまうので恋人をマッド・ドクターにさらわれたハリウッドのシナリオライターの冒険譚にしたのもマイナー映画社らしい見識で、食い足りないのも小品ならではの味と割り切るべきでしょう。ちなみに作中ではずっとゾンビ呪術はランプーナと呼ばれていますが、ラストだけなぜかシナリオタイトルが「ヴードゥーマン」となります。この辺も突っこむだけ野暮でしょう。