人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2019年1月1日~3日/短編・中編時代のハロルド・ロイド(1)

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 1913年から各社に映画出演し、'13年に短編7編、'14年には短編5編の助演を経ながら初めてハル・ロイド名義で出演クレジットされたハロルド・ロイド(1893-1971)は翌'15年に初めて主演に起用されます。これは盟友ハル・ローチ(1892-1992)が独立プロダクション「ハル・ローチ・プロダクション」を起こして看板俳優として友人ロイドを迎えたためで、'15年前半の短編14編にはロイドの役柄にはまだ固定したキャラクターがありませんでしたが、7月からロイドは「ロンサム・リューク」のキャラクターでシリーズ作品の主役を勤めることになり、'15年後半だけで15編の「ロンサム・リューク」ものに主演しています。ロンサム・リュークは当時ビリー・ウェスト(1892-1975)を第一人者に陸続と登場して活躍していたチャップリンのフォロワーの放浪紳士キャラクターによるコメディ短編で、ウェストと並んで成功を収めたのは'15年後半の14編に続いて'16年には34編、'17年には20編(最終作は'17年12月公開)ものロンサム・リューク・シリーズが製作・公開されていたことでもわかります。これはチャップリンがエッサネイ社から'15年~'16年に15編、ミューチュアル社から'16年から'17年に12編の短編を製作・公開していた時期に当たり、チャップリンの寡作に対する観客の飢餓感に乗じて成功したのがビリー・ウェスト、ロンサム・リュークらのフォロワー作品でした。
 しかしロイドにとって転機となったのは'17年9月公開の短編からハロルド・ロイド自身の名義での眼鏡のシティ・ボーイのキャラクターで出演するシリーズを始めたことで、この新キャラクターは大人気を呼び'17年にはロンサム・リューク・シリーズと平行して11編にとどまりましたが、眼鏡キャラクターに徹した'18年からは'18年に34編、'19年に39編、'20年には「犬の生活」'18(ファースト・ナショナル社)以降のチャップリン同様に中編化して中短編6編を数え、'21年には中短編4編を経て初長編『ロイドの水兵』(12月公開)を発表、翌'21年からはロイドは引退まで長編映画に徹することになります。遺族主宰のハロルド・ロイド財団によるレストア版定本ハロルド・ロイド全集『ハロルド・ロイド・コレクション』は『ロイドの水兵』からメジャー最終作『ロイドの牛乳屋』'36までの全16長編(『ロイドの牛乳屋』以降の独立プロ長編2作は未収録)の集成が主眼で、中短編は眼鏡キャラクター以降の'19年度の短編4編、'20年度の中短編5編、'21年度の中短編4編の13編しか収録されていませんが、サイレント時代にロイドより寡作だった後輩バスター・キートン(1895-1966)の方が'17年映画デビューで助演時代の短編が'20年までに15編(うち現存作品8編)、主演短編が'20年~'23年に19編(トーキー以降メジャーのMGMを馘首されてから、トーキー短編をエデュケーショナル社に'34年~'37年に16編、コロンビア社に'39年~'41年に10編、その他各社に単発短編10編ほどを残し、特筆すべきインディー映画にサミュエル・ベケット脚本の「フィルム」'65、遺言的なサイレント短編「キートンの線路工夫」'65があります)と短編時代の作品を重視されており、ロイドは短編時代の多作と長編時代の目覚ましい成功からあまり短編・中編時代は顧みられる機会の少ない喜劇人です。
 また監督・脚本を兼ねたチャップリンキートンに対してロイドはハル・ローチと組んだ親密なプロダクション・チームで分業集団製作制を採っており、実質的にロイドが陣頭指揮をして映画製作していても監督・脚本クレジットは専任監督・脚本家の名義を優先表示しました。そのためロイド作品は作家性が稀薄に見られるのもチャップリンキートンに較べて今日的な視点からの評価があまりなされない要因となっていますが、眼鏡キャラクターを確立してからのロイドの個性は鮮やかで、驚異的な反射神経・身体能力を生かした視覚的ギャグの多彩さ・豊富さではチャップリンキートンをしのぐのではないかとすら思わせます。そうしたロイド映画のアクション性はチャップリンのテーマ性やキートンの奇想よりさらにスラップスティックに徹しているだけ、批評的対象になりづらいとも言えそうです。ましてや設定と視覚的ギャグだけがすべてとさえ言える短編となると、長編16作の感想文の時よりさらに苦労しそうで、これは切り口が見つけやすいチャップリンキートンの映画にはない困難です。

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●1月1日(火)
「ロイドの父に聞いて<未>」Ask Father (製作=ハル・ローチ、Hal Roach Production'19.Feb.9)*13min, B/W, Silent : https://youtu.be/eddYUEgWuYA
「ハート張り」Billy Blaze, Esq. (監督=ハル・ローチ、Hal Roach Production'19.Jul.6)*10min, B/W, Silent : https://youtu.be/5mSKk8nuxj8

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 短編時代のロイド作品の日本公開は正確なデータがなく、「ロイドの二挺拳銃(Two Gun Gussie)」'18と「ロイドの猛獣結婚(The Non-Stop Kid)」'18が製作年代ではもっとも古い短編時代のロイド作品になるようですが公開年月は不詳ですし、'17年以前の80編近いロンサム・リュークものが短編喜劇の寄せ集め上映(戦前「ニコニコ大会」と呼ばれました)で日本公開されていてもおかしくありません。'18年以降の短編も未DVD化の前記2作以外にはDVDボックス『ハロルド・ロイド・コレクション』所収の13編しかデータがありませんが、それ以外の日本公開作品もない方が不自然でしょう。「ロイドの父に聞いて」は日本未公開、「ハート張り」は日本公開作品とされていますが、どちらも1巻もの(スチール写真は「ロイドの父に聞いて」より)ですから'19年度の39編にも及ぶロイドの短編はもっと公開されていそうです。「ロイドの父に聞いて」は求婚コメディ、「ハート張り」は西部劇のパロディで、ジャケット裏に作品紹介がありますからキャストを割註してそれをご紹介します。まず'19年度の第3作「ロイドの父に聞いて」から。
○愛と借金に追われる男(ハロルド・ロイド)。憧れの女性(マリー・モスキーニ)に求婚するも、彼女の答えは「父に聞いて」。ところが彼女の父親(ウォレス・ハウ)は多忙を極める会社社長。返事を聞こうにもなかなかチャンスがつかめない。会社に押し掛けてみたものの、邪魔者扱いされるばかり。あの手この手で社長との面会を試みている間に、彼女は別の男(ジェイムズ・パロット)と結婚してしまう。
 また、'19年度の第21作「ハート張り」は、
○とある西部の鉱山町。無法者たちが銃をぶっ放すのが日常茶飯事のこの町に、突如現れたカウボーイ・ヒーロー、ビリー・ブレイズ(ハロルド・ロイド)。彼は町を牛耳る悪人(サミー・ブルックス)に囚われた酒場の娘(ベイブ・ダニエルズ)を見事に救い出す。
 ――と、設定とストーリーはこんな具合ですが「ロイドの父に聞いて」も実際のヒロインで結末で結ばれるのはロイドの奮闘に同情して協力していた優しいオフィスのタイピスト嬢のベイブ・ダニエルズ(1901-1971)で、調べるとダニエルズは'15年の作品からロイド短編のヒロインを勤めていたようです。のちにデミルの『男性と女性』'19や『アナトール』'22に出演し、トーキー以降にはロイド・ベーコンの『四十二番街』'33でヒロインを演じて生涯最大のヒット作となった、とむしろ長編時代以降に大成した女優で、「ロイドの父に聞いて」でもロイドがオフィスを叩き出されるたびに尻餅をつくロイドをタイピスト椅子のクッションで受ける、という息のあった芸をみせます。求婚者多数の商社社長令嬢、そこに山ほどの花束とプレゼントの包みを持って(後ろからは追いかけてくる借金取りの大群)、ロイドが他の求婚者を押しのけ令嬢にプロポーズしますが「父に聞いて」。その父は「面会には2か月前の予約が必要な多忙な実業家」。貸しビルにオフィスを構えてガードマンまで雇っており、ロイドは何度もダニエルズがタイプを打つ応接間を抜けて社長室に入りますが、ごますりの社長秘書(スナッブ・ポラード、のちに独り立ちの人気コメディアンになります)やボディーガードの妨害や、社長室に仕掛けられたさまざまな邪魔者排除装置(ローラー式の床、デスク前の落とし穴)と奮闘することになります。たかだか1巻の短編に凝った装置を作ったもので、短編時代のチャップリンにはほとんどない(「チャップリンの替玉」のエレベーターくらい)メカニカルな趣向のギャグです。ロイドは女性客なら予約なしでも通されるのに気づき、貸しビル内の隣の貸し衣装屋で女装してきますがすぐにバレて叩き出され(何度目かにロイドの尻餅をクッションで受けるダニエルズ)、ついに甲冑で全身を覆い無敵の防御力で社長室に乗りこみますが、電話が鳴ってロイドが取ると社長令嬢「父に伝えて。ウィリーと結婚したからフロリダに2週間新婚旅行してくるわ」。引き返すロイド、ダニエルズと目が合い、「君のお父さんはどんな人?」「父は数年前に亡くなったの」ソファーに座って寄り添うロイドとダニエルズ。ダニエルズがロイドの肩に頭を持たせかけようとして甲冑に頭をぶつけ、ロイドは金槌を取り出して甲冑の肩にくぼみをつけ、ダニエルズが頭をもたせかけて、エンドマーク。スチール写真はその場面に出演者たち全員を背後に集合させたものですが、こういう明朗さもロイドらしい都会的で親しみあるセンスです。
 西部劇のパロディ「ハート張り(Billy Blaze, Esq、「ビリー・ブレイズ殿」)」は「6分ごとにしか銃声が響かないのどかな西部の町」と字幕に続いて無法者たちの銃撃戦が描かれ、「平和主義の保安官」とスナッブ・ポラードが銃を大事そうに確かめ悠然と煙草をくゆらす姿が映ります。「ピエールの酒場は紳士の社交所」と温厚な初老の店主ピエールとその娘(ベイブ・ダニエルズ)が映り、柄の悪い客たちを押しのけてピエールの借財のかたに悪党のボス(サミー・ブルックス)率いる一団がピエールの娘を誘拐して監禁します。そこに「名にしおうビリー・ブレイズ登場」と正義のカウボーイのロイドが現れ、あとは視覚的ギャグの連発でダニエルズ救出と町を平和にしたロイドのくつろぐ姿までが描かれます。「ロイドの父に聞いて」は監督クレジットがなくハル・ローチ製作としか表記されませんでしたが「ハート張り」ではハル・ローチが監督とクレジットされています。しかし片手で紙巻き煙草を一瞬で巻く、さらに煙草を使ったギャグへの流れ、隙をついての銃でのホールド・アップ合戦など、たたみかけてくる視覚的ギャグはロイドを中心としたかけ合いのアクションによるロイドの反射神経と身体能力次第のもので、舞台設定と大まかなプロットこそ準備されたものであれ、細部はみんなロイドの芸によるギャグがそのままストーリーを運び、映画の実質になっていると見なせます。「ロイドの父に聞いて」では早くも(社長室に入れてもらえないので、窓から忍びこもうと)ビルの外壁を3階までするすると登る、とのちの傑作『要心無用』で披露する壁登りギャグをやっており、もうこの頃にはロイドの芸のレパートリーは揃っていたのはロンサム・リューク時代に80編、眼鏡キャラクターになってから36作目の多作と、親密なチームでアイディア集団のローチ・プロを持ったロイドの努力と幸運でしょう。1巻ものの小品短編にすら製作費と労力、アイディアを惜しまない姿勢はすでにロイド作品の人気・収益の確立とその高さを実感させるものになっています。

●1月2日(水)
「ロイドのブロードウェイ<未>」Bumping Into Broadway (監=ハル・ローチ、Hal Roach Production'19.Nov.2)*26min, B/W, Silent : https://youtu.be/uR_G7ZJ0rXU

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 前2作は1巻ものでしたが、ロイドの'19年度の短編第37作の本作は2巻もので、ロイド短編にとって初の2巻ものになるそうです。ボックスセット収録の本作以降のサイレント作品には美しい染色が施されています。ジャケット裏の紹介文にキャストを割註すると、
○ブロードウェイに住む貧しい脚本家(ハロルド・ロイド)が、売れない女優(ベイブ・ダニエルズ)に恋をした。彼女が女たらしの金持ち男(ノア・ヤング)に劇場から連れ出されたのを見た彼は、ひそかに彼を追いかける。辿りついたのは会員制の高級クラブ。どさくさ紛れに自分もクラブに潜り込んだ脚本家は、思いがけずカジノで大儲けする。だが、喜びも束の間、警察の手入れが始まって……。
 ――本作の構成はかなり中編化が進んで、壊れたタイプと奮闘する売れない劇作家ロイドの新作売り込み失敗談とスナッブ・ポラードのステージ・マネージャーにしごかれるしがないバック・ダンサー中のダニエルズの苦労が平行して描かれ、失敗して失意の二人が出会うとダニエルズは家賃滞納で大家の婆さん(ヘレン・ギルモア)と取り立て人(マーク・ジョーンズ)に追われ、ロイドがダニエルズを逃がす手助けをします。職場に戻ったダニエルズは連勝中に別の舞台のマネージャー(ウィリアム・ギレスピー)に大役を勧誘されますが、契約金に大金の移籍料が必要になってしまいます。劇場に出入りしては一夜の相手を物色する名物男の女たらし(ノア・ヤング)の甘言に乗せられたダニエルズはヤングについて高級会員用カジノに連れて行かれ、ロイドはあとを追ってクラブに紛れこみます。ヤングが取り巻きと騒いでダニエルズを放りっぱなしの間にロイドはカジノに挑戦し、大勝ちして家賃滞納やダニエルズの移籍料に十分以上の大金を手に入れます。そこに警察が手入れに来ますが、ロイドはクラブ内を駆け回り警察を上手く巻いてダニエルズの手を取って逃げ出します。場面は溶暗し、数年後幸福な家庭を築いているロイドとダニエルズの姿で、エンドマーク。あらすじを追うとこんな具合で、1巻ものよりプロットとストーリーの組み立てが立体的になり、ドラマ的な要素も充実しています。ロイドが警官を巻く手にやはり『要心無用』で出てくる、壁にかかったフロックコートの中にさっともぐって隠れる手を使っており、探す警官を気絶させて自分の服と変えて身代わりにし、警官隊が身代わりを引っ立てて引き上げてからダニエルズとクラブから脱出するという手段で、警官隊をコミック・リリーフに使うのはキーストン社のマック・セネットの発明ですが、セネット門下生のチャップリンよりキーストン社のフォロワーから始めたハル・ローチ・プロダクションの方にキーストン社流の警官隊ギャグの拡大発展がある(次の「其の日ぐらし」もそうです)のは面白い現象で、そのあたりも面白いものはパクりであっても自己流に消化して上手く使うロイド作品のおおらかさが感じられます。チャップリンはあえてキーストン社から移籍してからの作品では独自性確立のためにセネット的なセンスからは離れようとしていたので、かえってロイドの方に融通無碍な有利さがあったのは皮肉でもあります。

●1月3日(木)
「其の日ぐらし<未>」From Hand To Mouth (監=ハル・ローチ/アルフレッド・グールディング、Hal Roach Production'19.Dec.28)*24min, B/W, Silent : https://youtu.be/cJo7Wyq-ka8

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 ロイドの'19年度の短編全39作の最後の本作も美しい染色の2巻もので、ベイブ・ダニエルズは前作「Captain Kidd's Kids」'19.Nov.30を最後にロイドの相手役を降板し、本作からはロイドの長編第4作『ロイドの要心無用』'23.Apr.1を最後にロイドと結婚し引退するヒロイン女優のミルドレッド・デイヴィス(1901-1969)の出演が注目されます。これもジャケット裏の紹介文にキャストを割註すると、
○食べるものにも困っている貧乏青年(ハロルド・ロイド)が、窮地を救ってくれた心優しい金持ちの女性(ミルドレッド・デイヴィス)に一目惚れしてしまう。そして、遺産を相続する予定となっている彼女が悪人(ノア・ヤング)に狙われていることを知ると、彼女を救うべく大奮闘する。
 ――本作のロイドはレストランの窓から客たちの食事風景を見ながら大事にハンカチに包んだ骨に塩をふりかけて舐め、またハンカチにしまうという極貧ぶりで、「ロイドのブロードウェイ」の貧乏劇作家も水瓶のほんの数滴の水を水皿に移して顔を洗うという貧乏ぶりでしたが、ロイドの場合チャップリンのような浮浪者キャラクターではないのでシティ・ボーイなのに貧乏、というのが皮肉になっているおかしさがあります。レストラン窓に貼りついたロイドに、気づくと野良犬を連れた5、6歳の浮浪者の少女(ペギー・カートライト)が一緒にレストランの中をじっと見ている。他方、弁護士(ウォレス・ハウ)に今日中に証明書がないと遺産の相続権は親戚の方に渡ります、と告げられている上流階級の女性(ミルドレッド・デイヴィス)が紹介されます。ロイドは少女と犬が着いてくるので舗道に並んで腰を下ろすと、隣に座った労働者がビスケットのおやつを食べている。ロイドはよそを向いた時にビスケットをかじり、袋に穴を空けてくすねて少女に分けてやりますが少女は先に犬にやり、ロイドの持ったビスケットも取って逃げて行ってしまう。ロイドが追いつくと犬が財布を道端から見つけていて、ロイドと少女は大喜びします。ロイドと少女は食品店で食品を沢山レジに持っていきますが、店主に偽札だと言われ警官(チャールズ・スティーヴンソン)を呼ばれてしまいます。弁明するも逮捕されそうになったロイドと少女を、通りかかったデイヴィスが「私が払いますわ」と助けます。ここまででも本作がチャップリンの「犬の生活」'18の焼き直しなのは明らかですが、浮浪者の5、6歳の少女を絡めているのはチャップリンの『キッド』'21より早く、こうしたアレンジに長けているので単なる「犬の生活」の模倣にはなっていないのはさすがです。浮浪者役の少女の子役が良く、これがチャップリンなら妙に少女がエロティックになってしまうところですが、ロイドの場合はキャラクター本人に清潔感があるので少女との交流も嫌みがないのです。さて、デイヴィスは家系証明書を揃え弁護士事務所に提出しようとしていますが、デイヴィスが相続権を失うと相続権が転がりこんでくる親戚の男ウォーリング(ガス・レオナルド)が共謀者(ノア・ヤング)にデイヴィス誘拐を指示します。またしてもロイドと少女と犬は、今度は本物らしい婦人用の財布を拾いますが、財布を持った少女は財布ごと人さらい(スナッブ・ポラード)にさらわれてしまい、ロイドと犬は必死で追跡し少女を助け財布を奪還しますが、またさっきの警官が通りかかり、そこにデイヴィスが来てロイドに私の財布を見つけてくれてありがとう、とお礼の高額コインを渡して立ち去ります。デイヴィスにお礼を言おうと後を追おうとしたロイドはヤングに命じられた強盗団に目をつけられ、仕事をやるからと強盗と知らずにデイヴィスの館に押し入りますが、デイヴィスの館と知ると強盗たちを締め出します。一方召使いと女中がスパイしてデイヴィスが家系証明書を身につけているのを知ったウォーリングはヤングにデイヴィスを証明書ごとさらうように司令し、デイヴィスと再会したロイドはデイヴィスへの不意の来客の様子に怪しみ、車に乗せられ連れ去られたデイヴィスを乗せた自動車を追って、消防隊の自転車を拝借し投げ縄でタクシーのバンパーに縄をかけて追跡し、途中で転倒すると併走していたオープンカーに飛び乗る、という具合にタクシーの行き先まで追跡し、案の定デイヴィス(家系証明書を身に着けています)がノア・ヤングに監禁される様子を見つけます。この監禁救出劇は「チャップリンの勇敢」'17と似ていますがロイドはもっとスマートな知恵を働かせた救出法で救い出し、デイヴィスとともに弁護士事務所にタクシー運転手(ディー・ランプソン)を急がせて駆けこみ、親戚のウォーリングとグルになっていた弁護士の鼻をあかします。溶暗し、エピローグにカウンター式の大衆食堂で満足げにごちそうを食べている少女と犬とロイド、そしてロイドの隣に並んでにこやかな相続人のデイヴィスが映されて、エンドマーク。'19年のロイドは1月~10月に「ロイドの父に聞いて」「ハート張り」に代表される1巻ものの短編を36編、11月~12月に「ロイドのブロードウェイ」や本作など2巻ものの短編3作を製作・公開したので、この多作には目を見張ります。チャップリンがデビュー年の'14年に1巻もの31編・2巻もの2編・1/2巻もの2編・6巻の例外的長編1作から'15年には1巻もの2編・2巻もの11編、'16年には2巻もの10編、'17年には2巻もの4編と力作化した代わりに激減したのに代わって、ロイドは'18年には1巻もの34編、'19年に1巻もの36編・2巻もの3編、'20年には2巻もの6編、'21年には3巻ものの中編4編を経て初の4巻ものの長編『ロイドの水兵』にいたるので、チャップリンは'18年には中編の名作2編「犬の生活」「担え銃」で新たなステージに上がりますが、代わりに大衆はロイドの短編喜劇を迎えたとも言えるでしょう。ロイドの軽やかさな明るさはチャップリンの辛辣さ、重さと対照をなすもので、歴史とは作ったみたいに実によくできたものです。