人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2018年5月28日・29日/B級西部劇の雄!バッド・ベティカー(1916-2001)監督作品(7)

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 いよいよバッド・ベティカー監督の代表作「ラナウン・サイクル」7連作も後半に入ってきました。今回ご紹介する2作のうち『ライド・ロンサム(孤独に馬を走らせろ)』はジョン・ウェイン主宰のバトジャック・プロ製作の『七人の無頼漢』の路線をとハリー・ジョー・ブラウン製作、ランドルフ・スコット主演、バッド・ベティカー監督で立ち上げられた『反撃の銃弾』以降のプロデューサーズ&アクターズ・カンパニー名義の製作プロダクションが「ラナウン(Ranown)・ピクチャーズ」と改名してからの初作品で、ベティカーの映画界引退とともにスコット62歳の『決闘コマンチ砦』でシリーズは終わったので、最終的なプロダクション名から取って後世にはベティカー&スコットの連作は「ラナウン・サイクル」と呼ばれるようになりました。脚本にバート・ケネディが正式に復帰したこともあり『ライド・ロンサム』は日本未公開がもったいないような快作になりましたが、前々作『ディシジョン・アット・サンダウン』が迷走気味を感じさせ日本未公開となり、次の『ブキャナン・ライズ・アローン』では相当な持ち直しを見せたのにやはり日本未公開となっては、同時期5年遅れで'58年作品とサバを読んで新作に見せかけ日本公開されていたベティカーのユニヴァーサル時代の旧作の不評もあって快作『ライド・ロンサム』も公開を見送られたと思えます。ベティカーの西部劇作品中日本で初めて劇場公開された『七人の無頼漢』すらも日本の映画誌の評では「スコット久々の良作」とされながらも「60点」(双葉十三郎『ぼくの採点表』)とB級西部劇の域での評価、外国映画全体の中ではむしろ悪評でしたから、次のワーナー作品『決斗ウエストバウンド』が『反撃の銃弾』以来日本公開された真の新作になります。同作はワーナー企画・製作で主演のスコットの指名でベティカーが監督に起用されたもののブラウン製作・ケネディ脚本でもないためスコット、ベティカーとも連作とは別と見なしていますが、後世の批評家・観客は前後作との関連からこれも「ラナウン・サイクル」に含めています。メジャーのワーナー作品らしく70分強の小品ながら独立プロ製作の他のシリーズ諸作より予算の余裕も内容の明快さも感じられますが、意識的に5作あまりも連作に取り組みさらに次作の製作予定もあっただけにスコット主演・ベティカー監督とそろえば自然と「ラナウン・サイクル」出張版みたいな仕上がりになったのがうかがえる作品で、独立プロのバトジャック・プロ製作の『七人の無頼漢』もワーナー配給作品でしたし、監督または発言力の強いスコットによる起用からか『ディシジョン~』では目立ちませんでしたが『ライド・ロンサム』ではヒロイン女優として目覚ましい再登場を果たしたカレン・スティールが『決斗ウエストバウンド』でもクレジット上ではメイン・ヒロインのヴァージニア・メイヨより実質的なヒロイン役を勤めており、スティールの存在も同作を「ラナウン・サイクル」連作に含めて観る観点の由来になっています。そうした面でも今回の2作はいずれも好作と言えそうです。

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●5月28日(火)
『ライド・ロンサム(孤独に馬を走らせろ)』Ride Lonesome (ラナウン・ピクチャーズ=コロンビア'59.Feb.15)*73min, Eastmancolor, Widescreen : 日本劇場未公開(テレビ放映・映像ソフト発売) : https://youtu.be/yoryPfTMAqc (Trailer)

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 ベティカー西部劇、というよりランドルフ・スコットの西部劇が復讐者=捜索者(追究者)型主人公の場合のドラマと受動的巻きこまれ型主人公のドラマに大別されるのは、スコットに限らず西部劇の主人公のたいがいのパターンでもありますが、スコットは若い頃はたいそう特徴のない二枚目の優男だった面影が60歳前後の主演作「ラナウン・サイクル」でも残っていて、復讐・捜索者役ではどこか頼りなく、反撃に転じるとわかっていても受動的巻きこまれ型主人公を演じるとますますあぶなかっかしいのが西部劇好きの映画観客に愛される理由でもあればカリスマ性を欠いて一般映画の大スターまでにはなれず「B級西部劇のスター」にとどめていたのでもあって、バート・ケネディジョン・ウェイン主演のジョン・フォード監督の大傑作『捜索者』'55にインスパイアされてバトジャック・プロの作品用にオリジナル脚本を書いた『七人の無頼漢』がロバート・ミッチャム、プロダクション主宰者のウェイン自身の主演いずれも流れて57歳のスコットとフリーランス監督になっていたベティカーで作られた時にまさに歯車が噛み合ったので、同作はスコット演じる復讐・捜索者型主人公が意外なはまり方を見せてアリゾナ・ロケの荒涼とした舞台設定とともに画期的作品になりました。プロデューサーのハリー・ジョー・ブラウンがスコットと組んで『七人の無頼漢』を継ぐシリーズ化を企てベティカー監督、ケネディ脚本で再度アリゾナ・ロケでこんどは受動的巻きこまれ型主人公のスコットの反撃ドラマを描いたのが『反撃の銃弾』で、この2作で基本的なヴァリエーションは提示されたとも言えます。つづく2作『ディシジョン・アット・サンダウン』『ブキャナン・ライズ・アローン』はチャールズ・ラング脚本になり、荒野ではなく西部のスモール・タウン劇で善悪・敵味方のはっきりしない設定という意欲的とも野心的とも言える内容になりますが、『ディシジョン~』は凝りすぎた異色作にとどまり、『ブキャナン~』はだいぶ持ち直すもノンクレジットで脚本に協力したケネディの手腕と思われて全体的には艶の薄いものでした。ケネディ正式復帰の本作は前2作を一挙に挽回したと目せる快作であり、復讐=捜索者型主人公のスコットは懸賞金稼ぎの流れ者として登場し、指名手配犯を連行するうちに駅馬車籠城の無法者コンビ(パーネル・ロバーツ、ジェームズ・コバーン)と遭遇して、指名手配犯の連行者は前科に恩赦を与えられる特権を狙う無法者コンビ、また駅馬車宿駅が先住民に襲撃されたことから駅長で出張中の夫のもとに知らせるため駅長の妻(カレン・スティール)とともにサンタ・クルスの町に向かうことになる、と巻きこまれ型の展開も仕込んであり、しかも主人公スコットの真の目的はクライマックスの直前で明かされます。原案・脚本のバート・ケネディはさすが『七人の無頼漢』『反撃の銃弾』も手がけただけあって冴えており、失礼ながら前2作は脚本のチャールズ・ラングの不手際に問題があったのではないかと思われ、スコット自身は『ディシジョン~』も熱望した企画だったそうですし、ベティカーの指向からして白人とメキシコ人の対立もの『ブキャナン~』はこれも乗り気だったと思われる。『ブキャナン~』が女っ気がまったくない映画になったのはベティカー自身には映画で女を描く気がまるでないからで、これは脚本家がベティカーでも活かせる女性キャラクターを提供しなくてはなりません。『ディシジョン~』では結婚式をぶち壊されてどうも新夫が訳ありの男と判明し激怒して花束を池に放り投げて見限る役しかなかったカレン・スティールが、本作では危険な男たちとともに町に出張中の駅長の夫に宿駅の襲撃を伝えに行く気丈な人妻役を演じてドラマ上でも非常に重要な役でもあれば作劇上の話法でも要となる役割を果たしており、これなら女性キャラクターを描くのが苦手なベティカーでもきちんと描かないではいられない。ケネディ脚本の優れる由ですが、本作も日本初DVD化の際のプレス資料を引いておきます。
○解説(メーカー・インフォメーションより) 西部劇ファン待望の傑作ウエスタン、本邦初公開! 【スタッフ】監督・脚本:バッド・ベティカー、製作:ハリー・ジョー・ブラウン、脚本:バート・ケネディ、撮影:チャールズ・ロートン・Jr.、音楽:ハインツ・ロームヘルド 【キャスト】ランドルフ・スコット、カレン・スティール、リー・ヴァン・クリーフジェームズ・コバーン
○あらすじ(同上) 賞金稼ぎのベン・ブリゲイド(ランドルフ・スコット)が、手配中の殺人犯ビリー・ジョン(ジェームズ・ベスト)を捕えた。サンタ・クルスへ連行する道中、ウェルズ駅に立ち寄るが管理人は逃げた馬を追って留守で、代わりにいたのは無法者の二人組ブーン(パーネル・ロバーツ)とウイット(ジェームズ・コバーン)、そして管理人の妻(カレン・スティール)だけだった。 そこへ先住民のメスカレロ族の攻撃を受けた馬車が飛び込んできた。馭者は殺されており、危険を感じたベンは朝まで駅舎で過ごすことを決めた。その夜ブーンは、ビリーの逮捕者に与えられる恩赦を受けたいことを伝え、そして先住民の攻撃に加えてビリーの仲間チャーリー(ダイク・ジョンソン)の報せで兄フランク(リー・ヴァン・クリーフ)も追ってくることから、行動を共にしようとベンに持ちかける。一方、ベンもある思いを胸に秘めていた。やがて朝を迎え、ベンたちのサンタ・クルスへの命がけの旅が始まった。「七人の無頼漢」(56)「反撃の銃弾」(57)「決闘コマンチ砦」(60)など、西部劇の傑作群を世に送り出した、製作ハリー・ジョー・ブラウン、監督バッド・ベティカー、主演ランドルフ・スコットというゴールデン・コンビに加え、脚本はバート・ケネディという傑作ウエスタン。本邦未公開ながら、無駄のない完成度の高さで西部劇ファンの間では話題となっていた。本作が劇場デビュー作のジェームズ・コバーンや、リー・ヴァン・クリーフも見逃せない。
 ――先にカレン・スティールの役割の重要性を書きましたが、映画は冒頭でスコットがお尋ね者のジェームズ・ベストを岩山地帯で見つけ、追いつめられたベストはどこへ連行されるのか訊くと岩山の向こうの仲間に兄のフランク(リー・ヴァン・クリーフ)の助けを呼んでくれ、と叫んで伝え、スコットに捕縛されます。スコットは馬に乗せたベストを引いて駅馬車宿駅に着くのですが、明らかに無法者の2人組(パーネル・ロバーツ、ジェームズ・コバーン)が寝城にしていて、駅長夫人のカレン・スティールは駅長はサンタ・クルスの町に出張中だという。駅馬車宿駅に無法者が陣取っているのは西部劇でよくある駅馬車強盗のために待機しているシチュエーションですが、駅長夫人がそれを黙認しているのはこの宿駅が先住民の襲撃の危機にさらされているからで、そのボディガードになっているからだとわかる。先住民の襲撃を避けてひとまず宿駅に泊まらせてもらうことにしたスコットは、スコットの捕縛した凶悪犯のベストには懸賞金だけでなく連行した者には恩赦がかけられる、おれたちは前科者の無法者だが更正したいのでボディガードを勤めるから手を組まないかと2人組から持ちかけられる。そのあと、宿駅に馬車が着くとともに先住民の襲撃があって主人公たちは自衛でせいいっぱい、馬車は全滅してしまうのですが、もう宿駅にはいられない、駅長夫人もサンタ・クルスの町の夫に駅馬車宿駅襲撃を伝えに行かねばならないと一同出発することになって、このあたりから視点人物はカレン・スティール演じる駅長夫人になるのです。というのも主人公スコットも無法者2人組もたがいに隠していることがあり、腹のさぐり合いになっていく。無法者2人組、主人公スコットとも訊かれて素直に打ち明けるのは駅長夫人なので、カレン・スティールが事態の全体を知る視点人物になっていく。無法者たちはサンタ・クルスに着く前にスコットを始末して恩赦ばかりか懸賞金も独占しようという腹ですし、スコットに対してもベストの兄のリー・ヴァン・クリーフが追跡してくるボディガードの役目が終わったら自分たちを殺すか懸賞金目当てに突き出すか(この2人組にも少額ながら懸賞金がかかっています)と疑念を抱いている。スティールはスコットをそんな人じゃないと思う、とかばいながら、スコット本人に訊いてみる。そしてスコットの本当の狙いはベストの懸賞金などではなくて、かつて保安官時代に逮捕したベストの兄のリー・ヴァン・クリーフが、釈放後スコットの留守宅に押し入ってスコットの妻の首を吊した、という話を聞き出す。スティールから話を聞いた2人組はベストの兄との対決の援護をしようと買って出、もうすぐサンタ・クルスの町でベストを助けに仲間たちが来る頃に、荒野で絞首用に恰好の裸木を見つけたスコットはベストを馬に乗せて首を縊り、ロバーツとコバーンに小物を迎え撃ちさせながら兄のリー・ヴァン・クリーフと対決して倒します。馬が暴れてベストは木から吊されますがスコットは銃弾一発で縄を切ってベストを落とし、ロバーツたちに俺の用は済んだ、やるよとベストを渡します。ロバーツはスコットと握手し、スコットは彼女を頼む、とスティールのボディガードを委ね、スティールはあなたはサンタ・クルスには来ないの、ああ、それじゃまたいつか(Soon)、いつか、と別れを交わし、ロバーツ、スティール、コバーン、ベストを乗せた4匹の馬は去っていきます。先ほどベストを吊した首吊りの裸木が燃え上がる背後にスコットが立ち尽くし、燃える裸木に沿って構図が上昇するショットで映画は終わります。本気を出した時のベティカーの監督、ケネディの脚本、スコットの主演ががっちり組みあい、少数の主要人物だけの緊密なドラマに無駄も隙もなく意外性にも富み、『七人の無頼漢』『反撃の銃弾』にもひけをとらない本作は今後もっと注目されていい作品でしょう。

●5月29日(水)
『決斗ウエストバウンド』Westbound (ワーナー'59.Apr.25)*72min, Technicolor, Widescreen : 日本公開昭和33年('58年)11月7日 : https://youtu.be/CtZ2sdQfQso (Slide Scenes)

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 本作はヘンリー・ブランク製作、バーン・ギラー脚本・原案(共同原案アルバート・シェルビー・ル・ヴィノ)によるワーナーの企画で、主演のスコットの指名によりベティカーが監督しましたが、ベティカー自身はバトジャック・プロで製作されたバート・ケネディ脚本の『七人の無頼漢』のシリーズ化をとハリー・ジョー・ブラウン製作、ランドルフ・スコット主演、ベティカー監督、脚本にバート・ケネディの『反撃の銃弾』(ケネディは『ディシジョン・アット・サンダウン(日没の決闘)』には不参加でしたが)以降続けてきたシリーズと本作は別物と見なしているものの、スコット主演・ベティカー監督で前後作がラナウン・ピクチャーズ作品であるため本作も批評家・観客には「ラナウン・サイクル」連作に含めて観られています。南部・西部については辛辣な視点を向けるベティカー西部劇ですが本作のように南北戦争中の北軍視点、と歴史上の勝ち組視点なのもベティカーらしくないと言えるので、そうしたいかにも南北戦争歴史時代劇らしい設定も主人公のスコットが公人ではなくあくまで自由人(元保安官設定はありますが)かつ私的動機のために行動するのが原則の「ラナウン・サイクル」連作には不似合いかもしれません。逆に一週間に日曜日があるように7作もあれば1作くらい例外があってもいいので、70分強の小品とはいえ大会社ワーナーの設備を使っているなあ、とラオール・ウォルシュの諸作やハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』'59などの西部の町のオープンセットや美術を思い出したりしてしまうのですが、ウォルシュやホークスが撮ったら本作のようにこぢんまりとした仕上がりになるとは思えませんし、監督キャリアの最初がスコット西部劇だったヘンリー・ハサウェイや実に何でも撮るジョージ・マーシャルと違ってウォルシュやホークスはジョン・フォード同様たしかランドルフ・スコット主演作は撮っていないはずで、スコット主演というだけで映画が小粒になってしまうという点ではこの俳優は並みのスターよりも引きの力の強い、普通の俳優ならマイナスに働くような面が合わさってランドルフ・スコットになっている存在で、本作は軍人役で身なりが端正な北軍大尉の制服なので実年齢が60歳を越えたか、というのも容貌に表れているのですが、二枚目→特徴がない、長身でスタイル良い→特徴がない、演技力が自然→特徴がないと実に平均的アメリカ人白人男性の平均的に好ましい風貌を体現しているような特徴のなさで、アメリカじゅうからランドルフ・スコットそっくりさんコンテストで集めたらスタジアムがランドルフ・スコットでいっぱいになってしまうのではないか、とさすがかつてはアステア&ロジャース映画のロマンス・パート担当やスクリューボール・コメディの好漢助演担当に重宝されただけはあります。もともとワーナーとスコットに主演映画の契約があり、スコットが近作のイメージを崩さないためにベティカーの監督起用をワーナーに提示したそうで、すると本作のカレン・スティールの起用も『ライド・ロンサム』で好演した実績からスコットが提案したキャスティングでしょう。クレジット上はワーナーのスターのヴァージニア・メイヨがスコットにつづくキャストのトップですが、メイヨはかつてスコットの恋人、現在はジュールスバーグ町の顔役のアンドリュー・デュガンの妻という設定ですが、スコットと戦友マイケル・ダンテ(カレン・スティールはダンテの妻役で、独身のスコットはダンテ夫妻の家のやっかいになります)の着任早々デュガンの手下によって北軍の資材運搬のための駅馬車が次々と襲撃される。それでも駅馬車運行を強行するデュガンは無法者のマイケル・ペイトとジョン・デイの2人を差し向けて駅馬車妨害を激化させ、デュガンの手下の仕業と知ったスコットとダンテは証拠を押さえようとしますが突然襲撃されてダンテは重傷を負い、スコットは無法者のリーダー2人のうちデイを射殺しますが、これをきっかけにペイトが暴走してデュガンの目論見以上に事態を悪化させます。ワーナー製作だからか本作は『反撃の銃弾』以来のベティカー&スコットの新作で数作ぶりに日本公開された作品になりました。日本初公開時のキネマ旬報の紹介を引いておきましょう。
○解説(キネマ旬報新着外国映画紹介より)「暴力部落の対決」のランドルフ・スコットが「死の砦」のヴァージニア・メイヨと共演する西部劇。監督は「七人の無頼漢」のバッド・ボーティカー。バーン・ギラーとアルバート・シェルビー・ル・ヴィノの共作の原作をバーン・ギラーが脚色、「翼よ!あれが巴里の灯だ」のJ・ベヴァーレル・マーレイが撮影を監督した。音楽はデイヴィッド・バトルフ。他の出演者は「ロケットパイロット」のカレン・スティール、マイケル・ダンテ等。製作ヘンリー・ブランク。
○あらすじ(同上) 南北戦争中の1864年北軍は軍資源の金塊を運ぶため大陸横断駅馬車会社の支配人に騎兵大尉ジョン・ヘイス(ランドルフ・スコット)を任命、彼は戦いで片腕を失ったロッド・ミラー(マイケル・ダンテ)とともにミラーの妻ジーニイ(カレン・スティール)の待っているジュールスバーグの町へ旅立った。町には会社を経営するクレイ・パトナム(アンドリュー・デュガン)がいた。彼はかつてのヘイスの女友達ノーマ(ヴァージニア・メイヨ)を妻にしていたが、ことごとに挑戦的態度を示した。馬車の駅は彼等の手でことごとく破壊された。ヘイスが片腕のロッドの農場を駅にして、強硬に駅馬車運行を計ったので、パトナムは配下の殺し屋メイス(マイケル・ペイト)とラス(ジョン・デイ)をさしむけた。町を立ち去ろうとしていた配下の口から、駅を破壊し、馬を奪った犯人がラスであり、馬は彼の手で南軍に渡されることを知ったヘイスとロッドは、急行して馬をとり返すことに成功した。しかしその夜、ロッドは襲撃をうけて重傷を負い、応戦したヘイスはラスを倒した。翌日には、御者を撃たれた駅馬車が転覆し、全乗客が死亡する事件が起こった。ロッドは傷が元で死んだ。ノーマが来て、一味の企みを説いたが、ヘイスは単身ジュールスバーグの町に乗りこんだ。まずヘイスとメイスが対決した。しかし仲裁に入ったパトナムが、最初にメイスの凶弾によってうち殺された。これを機会に決闘の火ぶたは切られ、メイスはヘイスの一弾に眉間をうち抜かれて死んだ。こうして大陸横断駅馬車は、無事に運行出来ることとなった。
 ――メイヨは夫のデュガンが手下たちに指示したり報告を受けたりする様子を見聞きしていたので、ついにダンテが狙撃され、相棒をスコットに射殺されたペイトがデュガンの命令など訊かず勝手にカタをつけると息巻いて、ペイトが去ったあと収拾のつかなくなった状況にデュガンがやけ酒を飲んでいるのをなじります。メイヨは出ていき、デュガンはグラスと酒瓶を叩き割ります。72分の尺ではやむを得ませんが、デュガンの演技もあってこの町の顔役・有力者役は深みのあるキャラクターで、利権のために北軍のこれ以上の進出は妨害したいが町の秩序も安定させていなければならない、という立場が手下の暴走によって危機にさらされるので、自業自得ではありますが決して悪役一辺倒のキャラクターではありません。メイヨは事態を報せにカレン・スティールの家を訪ね、スティールとスコットはメイヨに感謝します。翌日またしてもペイト率いる無法者集団による馬車の襲撃事件が起き(「女子供もいるぜ」「いいからやるんだ」)、御者の爺さんはスコットと親しい様子が描かれていましたが射殺されていまいますし、この阿鼻叫喚の馬車襲撃の丘からの壊れながらの転覆は派手に撮影されています(後半から馬車の中が無人なのがはっきりわかりますが)。駆けつけたスコットは全員死亡を確認し、家に戻ると重態だった戦友ダンテの死をスティールから知らされます。再びメイヨが訪ねてきますがスコットはジュールスバーグ町に向かってペイトとの対決に望みます。街中で対峙したスコットとペイトの間に馬車を駆ったデュガンが割って入りますが、デュガンはペイトに狙撃されます。スコットはペイトを射殺し、デュガンは抱き起こしたスコットに「止めようとした、と妻に伝えてくれ」と言ってスコットから伝えると聞いて息を引き取ります。映画の最終シーンは復旧した大陸横断駅馬車に乗って去っていくスコットとスティールが手を振りあい、スティールが遠くまで視線を向けながら微笑んで振った手を上げるショットで終わります。本作の真のヒロインはカレン・スティールなのはこの最終ショットでも明らかで、さすがに未亡人になったばかりなので亡夫の戦友とのロマンスまでは描かれませんが、ムードとしてはロマンスです。本作のマイケル・ダンテは左手を失った隻腕ながら雨の中の銃撃戦で片手でライフルを回転させ薬莢を払いながら次々と撃つ、とアクションもかっこ良ければ実年齢もスコットの息子ほど若いでしょうし短髪黒髪で凛々しいなかなかの存在感ですし、凶悪な無法者役のマイケル・ペイトもふてぶていしい悪役が見事で、当時のB級西部劇の悪役専門の俳優だそうですが、スコットやベティカーが本らしく「ラナウン・サイクル」連作ではないとしているにもかかわらず批評家にも観客にも好評でこれも連作中の佳作ではないかと人気が高いのはスティール、デュガン、ダンテ、ペイト、デイ(先に射殺される無法者)、ウォリー・ブラウン(御者の爺さん)など助演の俳優たちも好演で、ペイトなどは本作の無法者役がベスト・アクトではないかと賞賛されています。うつ伏せに倒れたペイトをスコットがブーツの足であお向けにすると鯰のような顔で死んでいるのですが、こういう短いショットだけでも強烈な印象を残すのは俳優の好漢はもちろん、美術やメイク、カメラマンや監督の腕前もばっちり冴えていたからこそで、本作のような小品をきっちり仕上げるのも大作映画とは違った手腕でしょう。ヴァージニア・メイヨのキャスティングは、これも華を添えたことにはなるでしょう。