人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ニック・ドレイク Nick Drake - ピンク・ムーン Pink Moon (Island, 1972)

ニック・ドレイク - ピンク・ムーン (Island, 1972)

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ニック・ドレイク Nick Drake - ピンク・ムーン Pink Moon (Island, 1972) Full Album : https://youtu.be/XSCekWkMUc0
Recorded at Sound Techniques Studio, London, 30–31 October 1971
Released by Island Records ILPS 9184, 25 February, 1972
Produced by John Wood
All songs written and composed by Nick Drake.
(Side 1)
A1. Pink Moon - 2:06
A2. Place to Be - 2:43
A3. Road - 2:02
A4. Which Will - 2:58
A5. Horn - 1:23
A6. Things Behind the Sun - 3:57
(Side 2)
B1. Know - 2:26
B2. Parasite - 3:36
B3. Free Ride - 3:06
B4. Harvest Breed - 1:37
B5. From the Morning - 2:30
(Total length : 28:22)

[ Personnel ]

Nick Drake - vocals and acoustic guitar; piano on "Pink Moon"
[ Production ]
John Wood - engineer, producer
[ Design personnel ]
Michael Trevithick - artwork
Keith Morris - inner sleeve photography
C.C.S. Associates - typography

(Original Island "Pink Moon" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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[ ニック・ドレイク ]

 ニック・ドレイク(Nick Drake・1948年6月19日-1974年11月25日)は、ビルマ(現ミャンマー)生まれのイギリス人シンガーソングライター。フォークの分野で活動。生前は商業的成功に恵まれず、3枚のアルバムを残して他界するが、死後に評価が高まった。

●基本情報

○出生名=Nicholas Rodney Drake
○生誕=1948年6月19日・ビルマ、ラングーン
○死没=1974年11月25日(26歳没)・イングランド、ウォリックシャー州
○ジャンル=フォーク、フォークロック
○職業=シンガーソングライター
○担当楽器=アコースティック・ギター、ピアノ、クラリネット、サックス
○活動期間=1969年~1974年
○レーベル=アイランド・レコード

●来歴

 ビルマのラングーン(現ヤンゴン)で生まれる。父は、1930年代にラングーンに移ってきたイングランド人。姉のガブリエル・ドレイク(Gabrielle Drake)は、テレビドラマ「謎の円盤UFO」等に出演した女優。幼少時に家族でイングランドに戻り、ウォリックシャー州で育つ。短距離走の才能も持っていたが、やがて音楽に夢中になる。
 ケンブリッジ大学フィッツウィリアム・カレッジに在学中、フェアポート・コンヴェンションのアシュレー・ハッチングスに見出され、アイランド・レコードと契約。1969年9月にアルバム『ファイヴ・リーヴス・レフト』でデビュー。同作のタイトルは、「Rizla」というブランドの手巻きタバコ用の巻紙の最後から5枚目に印刷されている文言に由来する(「残り5枚」の意味)。ニックによるギター(一部の楽曲ではピアノ)弾き語りを中心としているが、一部の楽曲にリチャード・トンプソン(フェアポート・コンヴェンション)やダニー・トンプソン(ペンタングル)が参加。また、ストリングスのアレンジを、ケンブリッジ大学でニックと親交のあったロバート・カービーが担当している。
 デビュー後、ニックはケンブリッジ大学を中退し、ロンドンに引っ越す。1970年11月には2作目『ブライター・レイター』発表。同作のレコーディングにはフェアポート・コンヴェンションのメンバーや、ジョン・ケイル(元ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)等が参加した。ニックの音楽は評論家からは高い評価を得ていたものの、アルバムの売り上げは伸びず、『ブライター・レイター』も、発表当時は15,000枚程度しか売れなかった。
 失意のニックはロンドンを離れ両親の許に戻るが、これと前後してかねてより患っていた鬱病が悪化。1971年に3作目『ピンク・ムーン』のレコーディングを行った頃には会話をすることさえ困難になっていたという。同作は、ニックの「飾りは何もいらない」という意向により、ニック自身の歌とギターとピアノだけで制作され、1972年2月に発表された。
 その後ニックは、短期間だけ録音スタジオの仕事に就き、コンピューター・プログラマーにも挑戦したが、音楽活動も細々と続け、1974年2月には4曲のレコーディングも行っている。その際の音源は、ニックの死後に未発表曲集『タイム・オブ・ノー・リプライ』に収録され日の目を見た。
 1974年11月25日、自宅のニックの部屋で、母モーリーがベッドの上で息絶えているニックを発見する。死因は抗鬱薬の過剰服用。遺書はなく、自殺か事故なのかは明らかになっていない。部屋にあったレコードプレーヤーには、バッハの「ブランデンブルク協奏曲」のレコードが乗っていたという。

●再評価

 1980年代以降、ニックの再評価が高まり、ニックからの影響を公言するミュージシャンも多い。ドリーム・アカデミーが1985年に大ヒットさせた楽曲「ライフ・イン・ア・ノーザン・タウン」は、ニックに捧げられた。また、ブラック・クロウズのリッチ・ロビンソンは、ニックの影響でギターのオープンGチューニングを使うようになったと語っている。
 2000年、NMEが、当時の現役ミュージシャンからの投票で「最も影響力のあるミュージシャン」を選ぶ調査を行い、ニックが9位に選ばれた。また、生前に発表された3枚のアルバムは、いずれも2003年に、ローリング・ストーン誌によってオールタイム・ベストアルバム500に選ばれた(『ファイヴ・リーヴス・レフト』283位、『ブライター・レイター』245位、『ピンク・ムーン』320位)。2004年には、未発表音源とリミックスを収録したアルバム『メイド・トゥ・ラヴ・マジック』が、全英アルバム・チャートの27位に達した。
 2006年のアメリカ映画『イルマーレ(The Lake House)』で、ニックの楽曲が使用された。また、ニックの楽曲のカヴァーとしては、ブラッド・メルドーによる「River Man」、チャーリー・ハンターによる「Day Is Done」(ヴォーカルはノラ・ジョーンズが担当)、マーズ・ヴォルタによる「Things Behind The Sun」等がある。

●作品(生前発表)

『ファイヴ・リーヴス・レフト』Five Leaves Left (1969年)
『ブライター・レイター』Bryter Layter (1970年)
『ピンク・ムーン』Pink Moon (1972年)

●作品(没後発表)

『タイム・オブ・ノー・リプライ』Time Of No Reply (1986年、未発表曲集)
『メイド・トゥ・ラヴ・マジック』Made To Love Magic (2004年、未発表音源&リミックス集)
(日本語版ウィキペディアより)

 ニック・ドレイクほど生前に注目されず(最初の2作の好評はもっぱら参加ミュージシャンやアレンジャーの手腕を讃えたものでした)、没後10年あまりを経て絶大な評価を得たシンガー・ソングライターは稀でしょう。厳密に言えばアメリカ戦前のデルタ・ブルースではドレイクのような存在は当たり前で、白人リスナーが1960年代にようやくブルースに気づいた頃には戦前に録音を残したブルースの黒人シンガー・ソングライターたちのほとんどは逝去していました。'60年代末のデビューからほんの5年間の活動(ファースト・アルバムのタイトルが予告したかのように)で亡くなったニック・ドレイクは、まさに戦前ブルースマンのように、注目された頃にはもう故人だったのです。生前もごく内輪だけの合同コンサートか、ドレイクを見いだした実力派人気フォーク・ロック・バンドのフェアポート・コンヴェンションの前座を勤めた程度のライヴ実績しかなく、当時すでに鬱病を患っていたドレイクは、アルバム第2作の発表後に所属プロダクションとの契約更新を辞めてミュージシャンとしての成功を諦め、裕福だった実家に帰って陰棲してしまいます。

 第3作『ピンク・ムーン』は前2作のようにゲスト参加ミュージシャンもアレンジャーも招かず、ドレイクのギター弾き語り(アルバム・タイトル曲のみピアノをオーヴァーダビング)だけで1971年10月30日・31日の2晩で録音されました。LPのAB面合わせて全11曲・28分22秒しかない、短い曲ばかりで、4行しか歌詞がない曲まである小品ですが、この楽曲単位の短さがアルバム全体を組曲のような濃厚なムードに凝縮させています。このアルバムは前2作のような話題性もなかったため批評家からも注目されず、当時まったく反響を呼びませんでしたが、現在ではドレイクの3作中もっとも人気の高い、英語圏シンガー・ソングライター作品の古典的名作と目されているアルバムです。日本語版ウィキペディアのドレイクの項目はほぼ英語版ウィキペディアの抄訳ですが、英語版ウィキペディアで本作への評価として上げられている主要メディアでのランクは以下の通りです。

Nick Drake - Pink Moon (1972)

[ AllMusic (US) ] ★★★★★
[ Hi-Fi News & Record Review (UK) ] A
[ Q (1990) (UK) ] ★★★★
[ Q (2000) (UK) ] ★★★★★
[ Pitchfork (US) ] 10/10
[ Rolling Stone (2000) (US) ] ★★★★
[ Rolling Stone (2003) (US) ] ★★★★★
[ Uncut (UK) ] ★★★★★

 2003年のローリング・ストーン誌による古典的名盤500選の順位では『ファイヴ・リーヴス・レフト』283位、『ブライター・レイター』245位、『ピンク・ムーン』320位(2013年版では321位)ですが、評価の上昇が見られるのは上掲の通りで、アメリカでも2000年刊行のコリン・ラーキン編『All Time Top 1000 Albums(The Third Edition)』では本作が131位、イギリスではメロディー・メイカー誌の「All Time Top 100 Albums」(2000年)で48位、アンカット誌の「200 Greatest Albums of All Time」(2016年)では126位と、ドレイクのアルバムではゲスト・ミュージシャンの参加の一切ない本作が代表作とされています。ニューヨーク・パンクのテレヴィジョンがデビュー・アルバム『マーキー・ムーン(Marquee Moon)』1977を録音した際に、リーダーのトム・ヴァーレインがイギリス人プロデューサーのアンディ・ジョーンズにリクエストした音色も「ニック・ドレイクの『ピンク・ムーン』のようなサウンド」だったという逸話もあるほど、心ある人には大事に聴かれてきたアーティストですが、本作を含めてニック・ドレイクのアルバムが初めて日本盤でリリースされたのは1995年になってからでした。ドレイクも同世代のデイヴィッド・ボウイ、マーク・ボランらと同じく19世紀フランスのボヘミアン詩人やボブ・ディランに憧れてシンガー・ソングライターになった人でしたが、楽曲も歌詞も「俳句のようだ」(ローリング・ストーン誌の評)というくらい簡潔で飾り気のない作風です。

 ただしドレイクの作風はあまりに個人的すぎていて、やりたいことと売れることを両立させたデイヴィッド・ボウイやマーク・ボランのようなポップ・スター向きの資質ではなかったのはともかく、音楽自体に戦前ブルースのブルースマンたちのような普遍性を欠いているのではないか、という疑問も残ります。それがドレイクを生前にはリスナーの共感を得られないアーティストにしていた限界だったのではないか。これはイギリスのブルジョワ階級の孤独感に普遍性があるかないかの問題ではなく、またそれをアメリカのアパルトヘイト時代の人権すら認められていなかった黒人ブルースマンと比較しても仕方ないのですが、ドレイクの場合は早逝によってアーティスト生命が完結したことがドレイクの限界を棚上げしたからこそ比較的再評価が早かったとも言えるので、今回歌詞を日本語訳するために集中して聴き返していて、歌詞の世界の狭さだけでなく音楽にリズム面の革新がないのも気づかずにはいられず(ジャズやロックを含むブルース系の音楽にとって、これは決定的な限界になります)、そうしたことが初めて気になりました。アルバムから数曲の歌詞をご紹介します。

[ Pink Moon ]

I saw it written and I saw it say
Pink moon is on its way
And none of you stand so tall
Pink moon gonna get ye all
It's a pink moon
Yes, a pink moon

Pink, pink, pink, pink
Pink moon
A pink, pink, pink, pink
Pink moon

ぼくはそれが書かれ語るのを見た
ピンクの月がついに上がるのを
そして誰もがもう背伸びできない
ピンクの月がすべてを飲みこむ
それがピンクの月
そう、ピンクの月

ピンク、ピンク、ピンク、ピンク、ピンクの月
ピンク、ピンク、ピンク、ピンク、ピンクの月

[ Know ]

Know that I love you
Know I don't care
Know that I see you
Know I'm not there

きみを愛しているのは知っているはず
どうでもいいと知っているはず
きみのことはわかっていると知っているはず
ぼくがもういないのも知っているはず

[ Parasite ]

Lifting the mask from a local clown
Feeling down like him
Seeing the light in a station bar
And travelling far in sin
Sailing downstairs to the northern line
Watching the shine of the shoes
Hearing the trials of the people there
Who's to care if they lose?

Take a look, you may see me on the ground
For I am the parasite of this town

Dancing a jig in a church with chimes
A sign of the times today
Hearing no bell from the steeple tall
People all in dismay
Falling so far on a silver spoon
Making the moon for fun
Changing a robe for a size too small
People all get hung

Take a look, you may see me coming through
For I am the parasite who travels two-by-two

Take a look, you may see me in the dirt
For I am the parasite who hangs from your skirt

田舎のピエロの顔をぶらさげて
気分までピエロのように落ちこむ
駅前酒場の灯を見ながら
罪の意識に遠のいていく
靴の照り返しを見ながら
北へ向かう地下鉄の階段を降りる
人びとの争うざわめきが聞こえても
誰が勝ち負けを気にするだろう?

ごらん、ぼくが倒れているのが見えるから
なぜならぼくはこの町の寄生虫だから

教会の鐘にあわせて踊るのが
近頃の流行だったのに
もう塔からは鐘が鳴らないので
人びとはとまどっている
銀の匙に乗ってすべり落ち
お月さまをからかいながら
きつ苦しい衣装に着替えて
人びとは息を詰まらせる

ごらん、ぼくがやってくるのがわかるから
だってぼくは二足歩行の寄生虫だから

ごらん、薄汚いぼくが見えるから
だってぼくはきみのスカートにしがみつく寄生虫だから

[ From The Morning]

A day once dawned
And it was beautiful
A day once dawned
From the ground
Then the night she fell
And the air was beautiful
The night she fell
All around

So look see the days
The endless colored ways
And go play the game
That you learned
From the morning

And now we rise
And we are everywhere
And now we rise
From the ground
See she flies
And she is everywhere
See she flies
All around

So look, see the sights,
The endless summer nights
And go play the game that you learned
From the morning

夜明けが訪れた
とても美しい夜明けが
大地から夜明けが訪れた
そして夜になると
空気は澄みきって美しく
夜の底いっぱいに
夜明けはひそんだ

だからごらん、毎日を
終わりなく色づいた道を
そして遊びに行こう
きみがこの朝に
教わった遊びを

そしてぼくたちは起きる
そしてぼくたちはあらゆるところで
いま大地から
ぼくたちは起きあがる
そして夜明けが飛ぶのを見る
そして夜明けが
あらゆるところで
飛びまわるのが見える

だからごらん、あの眺めを
終わりのない夏の夜を
そして遊びに行こう
きみがこの朝に
教わった遊びを