人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

出会い(不倫の始まり)

そうだ、グレアム・グリーンの「情事の終わり」もあったな、多分今は絶版だが伊藤整の「小説の認識」に詳細な分析がある。再読してみよう。全集が書架にある。伊藤整ジョイスユリシーズ」とロレンス「チャタレー夫人の恋人」の初訳をこなしたシゾイド型の作家、小説の代表作を読むと明らかに躁鬱資質だと解る。「鳴海仙吉」など。
なぜ「情事の終わり」というと、ぼく自身が1ヶ月前にほぼ1年の人妻との恋愛を打ち切ったからでもある。ぼくは彼女が通ってくるようになってから何度も交際を断った。でも彼女はひるまなかった。「入院で出会ったのは特別ではないと思っています。これから行ってもいいですか?」断れない。
「読んだことはある?「犬を連れた奥さん」、チェーホフの。このままじゃきみとぼくはそうなるよ」
彼女は読書家で、入院中に村上春樹の「1Q84」を貸してくれた。小川洋子を愛読して、言語感覚は豊かだった。退院祝いにプレゼントしたヴァージニア・ウルフ灯台へ」もしっかり読んだ。同じ高校の7つ後輩だったのも彼女には結びつきを感じさせたのだろう。公立高校なのにかなり変わった学校だった。
彼女はほとんど毎日来るのでぼくは文庫のプレゼントをした。晩にはメールが来る。「あなたがくれた本を読むとあなたと一緒にいるようです。あなたの過去の恋人もみんな読んだのでしょうか?」
ヤバイな、と当然思った。もう来ないでくださいとメールを送った。ぼくは誰とも会いたくない。「私もですか?そんな一方的なのはフェアじゃない」「あなたが決めてください。どうでもいい。ぼくは従うだけです」「あなたは私を試したの?胸が苦しい」
ぼくはピンポイントを刺した。「あなたを愛しているからです」。
翌朝彼女は来た。ぼくは鬱状態だった。「鬱ってこんな風になるんだ」と鬱期の日記や原稿を見せた。ほとんど判別できない。
「もう帰らなきゃ。娘たちが帰ってくる…私があなたにしてあげられることならなんでも言って」
「…じゃあ、ハグしてくれないか」
ハグではなかった。彼女は両手を白鳥のように広げて、ぼくを抱きしめた。ぼくは首筋に顏を埋め、両耳に交互に囁いた。「愛しているって言ったよね」