人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

バカ話(3・序説3)

手元に本がないので記憶で再現するが松田道弘の名著「とりっくものがたり」にこんな話があった。
「ある男が人を殴って警察で取り調べを受けました。「なぜ殴ったんだ?」「あの男が私をカバと言ったからです」「それは何年も前のことだそうじゃないか?」「私は昨日初めてカバを見たのです」(この小咄をそのまま作品化したようなアガサ・クリスティの長篇があります。晩年のクリスティは「過去」というテーマに異様に執着していました)」
「とりっく~」は元々「ミステリ・マガジン」の人気連載(1977~78)で、毎号再読三読するほど面白かった。引用箇所をなぜ覚えているかというとどの作品かすぐ判って嬉しかったのと松田道弘のエッセイストとしての手腕に舌を巻いたからだ。小咄の引用だけではなくクリスティを持ってきて締める。しかも晩年のクリスティのテーマを簡潔に指摘する。
ぼくが「とりっく~」からの引用で始めたのは、しかし「過去」がテーマではない。「カバ」に喩えられた男の立腹の方だ。

たとえば「ホームレスのような~」と言えばそれは相手に対する侮蔑や差別的表現になるのか。「子供じゃあるまいし」だってそうだ。差別意識は喩えられたホームレスや子供の方に向いている。「年寄り臭い」「女の腐ったような~」喩えに使われるのは大概社会的弱者だ。例を挙げればきりがない。
職業や境遇(ホームレスはこっちか)、肉体的・精神的疾患なども差別的表現として使われる。あえて具体例は挙げない。
動物。先ほどの「カバ」は実はいまいちピンとこないのだが(容貌がカバに似ていると気にしている男が指摘されて怒るのなら判る)やはり豚に尽きるだろう。これは人格的侮辱まで含んでいる。
豚は「資本家の豚!」から独裁的共産主義を寓意したジョージ・ローウェル「動物農場」まで応用範囲が広い。失礼なことだ。豚ほど愛らしく清潔で従順で食べても美味い動物はない。
無機物もある。ロボットとか歯車とかコピーとか。人間の恩知らずたるや嘆かわしいばかりだ。

…やっと前回の続きになる。要するに「殺しのドレス」のアメリカ人の大爆笑は「この女優がこんな役やって正気か?」ということで、それが「日本で言えばさしずめ黒柳徹子」という小林信彦の発見だった。確かに徹子の濡れ場など想像するだに可笑しい。だがそんな言い方ってありか?