人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

日記・横浜地方裁判所相模原支部

6月30日木曜。廊下の照明はひとつおきに消してある。エレベーター脇に張り紙。「近隣階への移動はできるだけ階段をご利用ください」「東日本大震災に端を発する夏季の電力不足を補うため大幅な節電対策を行っております」「節電にご協力ください」うーん、裁判所くらい堂々としていてもいいじゃないか、と思っていると弁護士のT先生が戻ってきた。手には「お~いお茶」2缶。お金を渡そうとすると、
「私がごちそうするよ。裁判所のは80円だし。どんな権力使ってるのかね」と一笑し、
「こりゃ冷えすぎだね。どこが節電なんだ(笑)」
ぼくも笑い、お礼を言って飲み物を受け取った。すいません、常用薬のせいで喉が渇くもので。先生にこれから受ける裁判官の審査を説明され、精神状態を気遣われたが、「落ちついています」とにこやかに答えた。

そうありたかった。実際は虚勢で、前日の宵から夕食も摂れず(服薬はした)頭が重くて寝込んでいた。悪夢で数回中途覚醒した。攻撃的で残虐かつ被害妄想的な、残鼻極まりない夢だった。もしこれがぼくの内面の反映なら、ぼくは(ボードレールを引用するなら)「おれは傷口でナイフ、殴る手で頬、拷問具で手足、死刑囚で処刑人!」みたいに陰惨だ。だからこそぼくは自信を持たなければ。自分に向きあえず、「闇の恐怖に踏み出す一歩」(出典忘失)にも立ち向かえなければ、再起不能はすぐその先だ。

横浜地方裁判所川崎支部では、条令違犯で逮捕された時に取り調べを受けました。これ(手首を合わせ手錠のミミック)でしたけど」
ぼくは逮捕状況と拘置期間を話した。T弁護士は唖然として「何でそんなに長く…普通じゃ考えられない」「刑事と検事と裁判官が代わるがわる夏休みを取ったので裁判が遅れたそうです」「通常の倍だよ」「そうらしいですね」
先生はため息をついて、「病気の時でなければあなたは、学校ならば級長さんになれる人なのにね」
いや、とぼくは顔には出さずに自嘲した。先生、ぼくは級長さんになったら病気になるような人間です。自分で自分を支えきることもできなかった。だから今こうして先生とここに来ている。
その時ちょうどいいタイミングでぼくの前のヴィジターが裁判官室から出てきて、内側からドアを開けた女性がぼくの名前を呼んだ。ぼくは先生と顔を見合わせ、それから踏み出した。
恐怖はなかった。