人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

そば処さか本

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ぼくもライターのはしくれだった男だから、細かいところは文脈に都合よく処理する。たとえばデイケアは(リハビリ施設)、「編プロ」は「出版社」で済ませる。素数に生まれた男でも、時には割りきりが必要なのだ。
だから昨日のエッセイで「駅前ラーメン屋はチェーンTかサンマー麺屋の2軒」と書いたのも実は正確ではなく、ちょっと路地裏に入ったところに今回のお題、「そば処さか本」があるのだった。
このお店、なんといっても店名がいい。「そば処さか本」倒置法だ。なぜまたそば屋が倒置法で名乗るのかわからないが、ビリー・ザ・キッドジャック・ザ・リッパーみたいでかっこいい。「さか本」というひらがな・漢字混合表記の真意も不明だが、間抜けの風がすがすがしく吹き抜けている。ローマ字表記ならSAKAmotoといったところか。たしかに「そば処坂本」よりはアイキャッチになるが、そこまで考えているか?(電話帳掲載を考えると、あり得る)
左右には豆腐屋洋品店があり、有線放送でこの3軒とお向かい(寿司屋、法律事務所、スナック)のエリアだけ一日中、ずっと童謡が流れている。もちろん今どきのテレビ童謡などではない。梅雨時には「雨ふりくまのこ」、夏になれば「われは海の子」が流れる。季節汎用の「からすの子」なんかも夕暮れの街をさびしくする。
洋品店は公立小中学校指定用品だけでなりたっているような店で(だから童謡?)半紙に筆書きの取扱い品目が店頭にべたべたと貼ってある。いまはいつでここはどこなの?
昭和2年だ。1927年。そば処さか本の店内にちゃんと「昭和2年創業」とプレートが飾ってある。この町は小田急沿線だから、電鉄開業と同時にこの駅前そば屋が開店したのだと推定される。
メニューはそば、うどん、各種丼もの、定食、揚げ物にラーメンもある。要するにそば屋じゃなくて和食ならなんでもあるのだ。昨日のエッセイでラーメン屋のうちに含めなかったのはそれも理由だし、ここは話題をヤキトリ屋とサンマー麺屋の暗闘にしぼったままにしたいという面白半分な動機もある。
それに、この創業昭和2年のお店にはちゃんとお客が入っているのだ。座敷とテーブル合わせて20席もないが、6割程度に埋まった客がテンポよく入れ替わる。真夏でも鍋焼うどん、真冬でも冷し中華がある。創業85年を去来するお客の影は幽霊みたいなものだ。ぼくもまた。