このアルバムで数少ないラブ・ソングとしては今回の曲になるが、歌詞はとっても地味だし曲調も地味で、演奏も歌も地味。アルバムのなかの箸休めみたいなのだが、ホークス(ザ・バンド)がバックの1966年ライブのロック・ヴァージョン、さらに「激しい雨」の野外ライブ・ヴァージョンを聴くと実はいい曲だったのがわかる。では訳詞を。
『いつもの朝に』
道端では犬が吠えつづけ
一日は次第に暗くなる
そして夜のとばりが下りると
犬は吠えるのをやめるだろう
そしてぼくの心のなかの音で
夜の静けさは砕け散る
だってぼくはひとつだけ多すぎる朝と
千マイルをすごしてきたんだから
ドアの前の十字路から
ぼくの目はかすみ始める
ぼくは部屋を振り向いて
恋人を見つけて一緒に横になった
そしてまたじっと通りの
歩道と看板を凝視する
だってぼくはひとつだけ多すぎる朝と
千マイルをすごしてきたんだから
それは落ち着かず満たされない気持で
だれにもいいことなんかない
ぼくが言うことだったらなんでも
きみは同じくらいうまく言える
きみの立場からはきみは正しい
ぼくの立場からはぼくは正しい
だってぼくたちはひとつだけ多すぎる朝と
千マイルをすごしてきたんだから
(前記アルバムより)
この渋い歌詞にはギター弾き語りよりダイナミックなバンド・サウンドが必要で、まだ23歳、白面のディランには背伸びしすぎた、というところだろう。おそらく意図的に抑制している。感情表現とは難しいものだ。