人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ロード・サッチの霊柩車(連作2)

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…救急車はあまりに快適で驚いた。赤信号も渋滞も退けているんだから運転がスムーズなのも当然だが、ベッドの枕が車体全体の中心の位置なので、頭への震動が一切ない。窓の覆いの隙間を流れる夜の灯りが色とりどりの虹のように綺麗だった。
救急車は快適だった。ピアノや美術品専用車でもこれほどではないだろう。

では霊柩車はどうか?霊柩車の乗り心地など考えもしなかったが、遺体こそ生きた人間よりデリケートだ。

映画「吸血鬼」(ドライヤー)に仮死状態の主人公が柩に納められ墓場へ運ばれるのを、主人公の視点から撮影した異様なシーンがあった。伊丹十三の「お葬式」で遺体の一人称ショットのシークエンスは監督命令で「吸血鬼」鑑賞会を開いてから撮影したそうだ。

さて何を隠そう霊柩車はブリティッシュ・ロックの名物男、スクリーミング・ロード・サッチの紹介の前振り。ロード(伯爵)は法改正で登録した自称で、実は貴族でもなんでもない。
ジョン・レノンと同年生まれだがデビューは早く、ビートルズ以前はロード・サッチ&ザ・サヴェージがロンドン一の人気バンドだったという。ステージは派手で、ユニオン・ジャックに塗られたロールス・ロイスがクラブに乗り込み棺桶が引き出されると突然吸血鬼メイクのサッチが現れる、というのがおはこだった。だからシングルをたまに出すくらいで、芸人的ロックンロール・バンドだったのだ。

ところが1970年、突然アルバムが出た(図版上)。メンバーはジミー・ペイジ、J・P・ジョーンズ、ジョン・ボーナム、ニッキー・ホプキンズ、ノエル・レディングジェフ・ベック。しかも全曲サッチ&ペイジのオリジナルとなっている。これが大嘘で、サヴェージ時代のリハーサル・テープに曲名と歌詞を差し替えただけの、ツェッペリンやベック人気の便乗商品だった。サッチのヴォーカルはジャイアンのようだ。
さらにグラム・ロックの元祖を主張し、アリス・クーパーを告訴して、翌71年にはお蔵出し第二弾(図版下)。今回はリッチー・ブラックモア、マシュー・フィッシャー、ノエル・レディングキース・ムーン。「何年前のテープだよ?」(リッチー)
セックス・ピストルズのプロ・デビューもサッチの前座だった。80年代は下降線、90年代は母の逝去により活動がなく、99年6月16日縊死した。あの霊柩車に帰って行ったのだ。