人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - ヴェルヴェット・アンダーグラウンドIII Velvet Underground (MGM, 1969)

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド - III (MGM, 1969)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - ヴェルヴェット・アンダーグラウンドIII Velvet Underground (MGM, 1969) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLKMmPITagSpM5pGbAmbhCggvX5spBgZOs
Recorded at T.T,G. Studios, Hollywood, November-December, 1968
Released by MGM Records SE 4617, March 1969
Engineerd by Val Valentin
Produced by The Velvet Underground
All Songs written by Lou Reed
(Side 1)
A1. Candy Says - 4:04
A2. What Goes On - 4:55
A3. Some Kinda Love - 4:03
A4. Pale Blue Eyes - 5:41
A5. Jesus - 3:24
(Side 2)
B1. Beginning to See the Light - 4:41
B2. I'm Set Free - 4:08
B3. That's the Story of My Life - 1:59
B4. The Murder Mystery - 8:55
B5. After Hours - 2:09

[ The Velvet Underground ]

Lou Reed - vocals, guitars
Starling Morrison - guitars
Doug Yule - organ, bass, vocals (A1)
Maureen Tucker - drtms, percussion, vocals (B4, B5)

(Original MGM "The Velvet Underground" LP Liner Cover & Side 1 Label)
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 本作はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオリジナル・スタジオ・アルバム4作のうち第1作『The Velvet Underground & Nico』(Verve, 1967.3)、第2作『White Light / White Heat』(Verve, 1968.1)に続く第3作で、前作のあとマネジメントが変わり1968年3月にはオリジナル・メンバーのジョン・ケイル(ベース、ヴィオラ、オルガン)が脱退、1968年4月からは間髪入れず21歳のダグ・ユールが加入し、マネジメントの方針からライヴ活動を活発化するとともに契約レーベルもヴァーヴからヴァーヴの親会社のMGMに移籍して発表されました。このサード・アルバムはアンディ・ウォホールがパトロンだった時期の前2作からの仕切り直しの意味で単に『The Velvet Underground』とタイトルされ、アルバム・チャート171位のファースト、199位のセカンドよりもさらに成績は悪くチャートインしませんでした。バンドはMGMからの次作のために1969年4月~5月にデモテープ録音を続けますが、半ばMGMからクビ、半ば強引なマネジメントの画策でアトランティック・レコーズ傘下のコティリオンに移籍、制作された第4作『Loaded』(Cotillion, 1970.9)の発売前前の8月にルー・リードは脱退してケイル同様ソロ・アーティストに転向します。のちに1980年代になってサード・アルバムと『Loaded』の間のデモ・テープ集『VU』(Verve, 1985.2)と『Another View』(Verve, 1985.2)が発掘発売され、『Loaded』はMGMでの未発表デモ・テープとは重複しない新曲集で、『VU』『Another View』は独立したルー・リードの初期のソロ・アルバム『Lou Reed』(RCA, 1972.4)、『Transformer』(RCA, 1972.11)、『Berlin』(RCA, 1973.7)の収録楽曲がすでにヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代にデモ録音されていたのが判明します。「今や1960年代のロック・バンド中2番目(1位はビートルズとしても)と認められるようになった」と称される(1995年のボックスセット『Peel and Slowly』解説ブックレット)ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの活動歴と全アルバムについては、セカンド・アルバム『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』をご紹介した際に概略しましたので、そちらをご参照いただければ幸いです。

 実験音楽指向のジョン・ケイルの脱退はヴェルヴェットをより商業的な活動に向かわせるためのマネジメントの画策だったようですが、事実上双頭リーダーだったルー・リードとの確執もあったようです。マネジメントはバンドに若いダグ・ユールを新メンバーに加入させ、本拠地ニューヨークのみならず毎月のようにボストン、テキサス、アメリカ西海岸にツアー巡業させています。リードはのちにゲイを公言しますが、美青年のユールをいたく気に入ったようでオリジナル・メンバーのスターリング・モリソン、モーリーン・タッカーらもユールの優遇に不満を抱いたほどでした。しかしこの時期リードの作曲力は絶好調で、本作は佳曲を満載した名盤になりました。ヴェルヴェットのスタジオ盤4作はどれを聴いても聴いている間はこれこそ最高傑作ではないかと陶酔感をもたらすものですが、本作は4作中もっとも穏やかなサウンドのアルバムで、A1「Candy Says」から静謐なアシッド・フォーク曲、A4「Pale Blue Eyes」B2「I'm Set Free」などしっとりとした名曲が並び、ダグ・ユールが歌うA5「Jesus」は前2作では麻薬密売人やジャンキー、マゾヒズムや乱交パーティーを歌っていたバンドとは思えないほど純真な信仰心を歌った曲で、かえって裏読みを誘うような仕上がりです。

 一方A2「What Goes On」やB1「Beginning to See the Light」(デューク・エリントンのスタンダード曲とは同名異曲)などのロックンロール曲、カントリー・ブルース調のA3「Some Kinda Love」やB3「That's the Story of My Life」があり、モーリーンとリードがデュエットする前衛的なB4「The Murder Mystery」もあれば、アルバム最終曲はモーリーンが歌うポップス「After Hours」と捨て曲がなく、もっともヴェルヴェットの全アルバムに捨て曲はありませんが、ロック曲やカントリー・ブルース曲、実験的な曲や脳天気なポップスまであってもアルバム全体の印象はA1「Candy Says」やA4「Pale Blue Eyes」、A5「Jesus」やB2「I'm Set Free」のかもし出す、バッド・トリップ後の虚脱感さえ感じさせる美しいバラード曲です。

 欧米諸国のリスナーが日本のアンダーグラウンド・ロックのグループ、例えば裸のラリーズを聴くと「セカンド・アルバムのヴェルヴェット直系ではないか」と思うようですが、実際に裸のラリーズ(1968年結成)はブルー・チアーやヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響下に作風を形成したことを認めています。また欧米諸国のリスナーが日本のジャックスを聴くと「ヴェルヴェットのサード・アルバムではないか」と連想するようですが、ジャックスは1968年3月にデビュー・シングル「からっぽの世界」、5月にセカンド・シングル「マリアンヌ」を発表しており、ヴェルヴェットのサード・アルバムに比較されるデビュー・アルバム『ジャックスの世界』は1968年9月のリリースでした。ラリーズヴェルヴェット・アンダーグラウンドやアモン・デュールII、ホークウィンドらアメリカ、ドイツ、イギリスのアンダーグラウンド・ロックの影響下に作風を確立したバンドでしたが、ジャックスはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの初期2作が日本に紹介される前にすでにヴェルヴェット・アンダーグラウンド的なサウンドでデビューしてもいれば、類似点がもっとも多いヴェルヴェットのサード・アルバムの作風に関して言えばジャックスの方が先駆をなしていたのです。しかもジャックスは日本のアンダーグラウンド・シーンを二分する存在とされたフォーク・クルセダースと違って、ビートルズヴェンチャーズの大ファンが結成したフォーク・ロックのバンドながら、同時代のグループ・サウンズともまったく違う、英米ロックからの影響を完全に拒否したバンドでした。フリー・ジャズとアシッド・フォークを融合した嵐のような「マリアンヌ」、またマルチプレイヤーのドラマーがフルートにまわり、ドラムレスの異様なサウンド空間でサイケデリックなリード・ギターとフルートにフリー・ジャズ的なベース、アコースティック・ギターアルペジオで淡々と虚無的心象風景をつぶやくように歌う「からっぽの世界」は異常なリズム・アレンジ、説得力のあるヴォーカルでヴェルヴェットの「Candy Says」や「Jesus」、パールズ・ビフォア・スワインの「Another Time」や「Morning」をしのぐ独創的なアシッド・ロックの突然変異的な名曲でした。ジャックスより少し遅れて活動を開始し、作風の確立の遅かった裸のラリーズはジャックスからの影響は完全に否定しているほどです。

 とまれヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオリジナル・アルバム4作『The Velvet Underground & Nico』、『White Light / White Heat』、本作『The Velvet Underground』、そしてリード在籍時の最終作『Loaded』はロック名盤リスト500枚などではすべて上位に上げられるもので、本作のA面5曲は多くのカヴァー・ヴァージョンを生む'60年式ロックのスタンダード・ナンバーとなっています。多彩な曲の並ぶB面も佳曲揃いで非常に完成度の高く、聴き飽きのしない元祖オルタネティヴ・ロックの名盤としてロサンゼルスのラヴやドアーズ、テキサスの13thフロア・エレベーターズの諸作に並ぶものです。このアルバムを流すと、部屋の湿度が一気に数度下がったと錯覚するほどに体感温度が下がります。ヴェルヴェットの4作の中でも不穏な穏やかさという点では本作は際だっており、このぎりぎりのバランス感覚が本作をポップなフォーク・ロックとは分けています。未体験の方はぜひ本作ならではの奇妙な音楽体験をお楽しみください。音響的にも脳内に直接響いてくるような本作のサウンドは病みつきになるようなもので、商業的ポップス(も当然良いものですが)とは一線を画すようなものです。また本作からジャックス、カン、アモン・デュール、裸のラリーズを結ぶ線はロックの裏街道をなしており、それもまたオルタネティヴ・ロックの元祖とされるゆえんです。

入沢康夫「哀切たるエピローグ」昭和46年(1971年)

入沢康夫昭和6年(1931年)11月3日生~
平成30年(2018年)10月15日没(享年86歳)
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哀切なるプロローグ

 ――またしても回り来った年のはじめに――
 入沢康翁

この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
 註1 誰によって、と君は問うのか。「読者」よ、君によってだ。「詩人」よ、君によってだ。

この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
 註2 「詩」は、であって「詩人」ではないというこの侮辱。このことによって詩は二重におとしめられ、「詩人」も実はいっそう深くはずかしめられている。

この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
 註3 ジャンルとしての「詩」を言っているのではない。ジャンルというなら、いずこも同じではあるまいか。

この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。
この国では、詩は、今日完全に
 註4「それは今にはじまったことではない」と、今、君は言うのか。

 侮辱された!
 註5 これを確認したまえ、ここに立ちたまえ、「詩」よ、君が憤死の道を選ぶなら、ぼくが介錯してあげる。けれども生きて、恥をそそぐというのなら、どんな道を通るのか、「詩」よ。これは見ものだ。いずれにもせよ、ぼくは君について行き、君の行方を見とどけよう。来週からを楽しみに。

この国では、詩は、今日完全に侮辱されている。


(「朝日ジャーナル」昭和46年=1971年1月1日・8日合併号)


 本作は週刊誌「朝日ジャーナル」が昭和46年に一年間に渡って第一線の詩人の新作詩を連続掲載する際、その第一弾として詩人・入沢康夫が「入沢康翁」名義で発表した作品です。この詩はのちの入沢康夫の詩集には収録されず、思潮社の「新選・現代詩文庫」の「109・新選入沢康夫詩集」昭和53年(1978年)3月刊の詩人・高橋睦郎(1937-)による書き下ろし巻末解説「排除された『詩』から」で全篇引用再録され、論じられるまで単行本未収録詩篇のままでした。詩集未収録詩篇、しかも「入沢康翁」名義による戯作の本作に焦点を当てたのは高橋睦郎の鋭い着眼点がうかがえ、またこの巻末解説に引用再録されることで初めて本作「哀切なるプロローグ」は場所を得たとも言えます。この詩は詩論の詩として明快そのものですから、それだけに詳細に検討することもできますし、高橋睦郎氏の批評で仔細に解読されていますから、屋上屋を重ねる必要はないでしょう。島崎藤村萩原朔太郎三好達治の詩から現代詩がいかに遠くに振り切れたかを本作は示してあまりあります。しかもこの「哀切なるプロローグ」すらすでに発表から50年を迎える詩なのです。

サン・ラ1979ライヴ映像&ディスコグラフィー

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Sun Ra Arkestra - North Sea Jazz Festival 1979 : https://youtu.be/3ZwW3tw86SY
Broadcasted Live at PWA ZAAL, Congresgebouw, Den Haag, Netherlands, July 15, 1979
(Tracklist)
00:06 - Space Is The Place
13:00 - Springtime Again
19:25 - The Sky Is A Sea Of Darkness When There Is No Sun
26:16 - They'll Come Back

 サン・ラのアルバム紹介の連載を始める前にも掲載しましたが、新春最初のサン・ラ紹介はライヴ映像とディスコグラフィーをお送りします。上掲の30分ほどのライヴ映像でサン・ラ&ヒズ・アーケストラ絶頂期のゴスペル・ファンク的なムードにあふれた、グルーヴィーなステージが堪能できます。特にヴォーカル曲の代表曲「Space is The Place」を「アーケストラの歌姫」ジューン・タイソン(1936-1992)とサン・ラ自身(1914-1993、当時65歳)がリード・ヴォーカルを分けあってデュエットする姿は絶品かつ必見で、バンド全員のコーラス・アンセム「They'll Come Back」(同曲はサン・ラの葬儀でも歌われ、今なおサン・ラ没後のサン・ラ・アーケストラのステージ定番曲になっています)で終わるこの30分に、サン・ラ&ヒズ・アーケストラの魅力は凝縮されています。

 サン・ラは「土星生まれの宇宙人を自称し、奇妙な"宇宙ジャズ"を主張する奇人ジャズマン」といまだに際物視されがちな大バンドリーダー兼作編曲家・ピアニストですが、その出自はデューク・エリントン楽団やカウント・ベイシー楽団に先立ってスタイルを確立し、ルイ・アームストロングコールマン・ホーキンスを輩出した「黒人ビッグ・バンドの父」フレッチャー・ヘンダーソン(1897-1952)晩年のヘンダーソン楽団の譜面係・アレンジャー・舞台/音楽監督からプロの音楽家キャリアを始めており、20世紀の黒人ジャズの歴史を体現したジャズマンでした。'50代半ばまではシカゴ~デトロイトの黒人音楽界の裏のボスとして、あらゆるジャンルのポピュラー音楽のプロデュースをこなしていた背景もあります。サン・ラに天啓が訪れたのは自分自身のバンド「サン・ラ・アンド・ヒズ・アーケストラ(Arkestra=Ark+Orchestraの造語、「箱舟楽団」)」を立ち上げる構想を得た1952年で、それまで本名のハーマン・プール・ブラウントだったサン・ラは土星人の転生者と自称するようになり、正式に戸籍名をル・ソニー・ラ(Le Sony'r Ra)と改名し、略してサン・ラ(またはラー、古代エジプトの太陽神)を以降の生涯の芸名としました。

 アーケストラの創設~絶頂期のレギュラー・メンバーには'50年代の新進気鋭奏者ジョン・ギルモア(テナーサックス、1935-1992)、パット・パトリック(バリトンサックス、1929-1991)、マーシャル・アレン(アルトサックス、サン・ラ没後の現役アーケストラ・リーダー、1924-)、ロニー・ボイキンス(ベース、1935-1980)らが参加しましたが、リーダーのサン・ラは1914年生まれであり、'40年代のビ・バップのジャズマンたちより少し年長なだけでした(ケニー・クラークと同年生まれ、ディジー・ガレスピーセロニアス・モンクは1917年生まれ、チャーリー・パーカー1920年生まれです)。ビ・バップのミュージシャンはモダン・ビッグバンド出身だったのに対して、サン・ラは'20年代ジャズ~'30年代の古典的ジャズに基礎教養があったことが結果的には自身のバンドでのデビューを遅らせていましたが、'50年代半ばになってビ・バップ以降の若手メンバーを見いだし、1955年にマネジメントのアルトン・エイブラハムとの契約によってサン・ラ&ヒズ・アーケストラを結成し、翌年42歳にしてようやく念願のバンドリーダーとしてデビューします。アルバム第1作『Jazz By Sun Ra』'57('56年録音)はハーヴァード大学法学科出身のインテリ黒人インディペンデント音楽プロデューサー、トム・ウィルソンの自主レーベル「Transition」から発売されたもので、トランジションは10数枚のアルバムをリリース後活動停止しましたがサン・ラ、セシル・テイラードナルド・バードらをデビューさせた功績は大きく、その後ウィルソンはニューヨークの独立プロデューサーになりサン・ラやセシル・テイラーのニューヨーク進出を後押ししたのちはフォーク/ロック畑に転じ、初期のボブ・ディランやサイモン&ガーファークル、アメリカ進出後のアニマルズ、さらにフランク・ザッパヴェルヴェット・アンダーグラウンドをデビューさせた人物です。

 サン・ラ&ヒズ・アーケストラは地元シカゴで人気を固めつつニューヨーク進出と全国的認知の獲得まで5~10年以上をかけた一方、'50年代から'80年代まで自主レーベルの「サターン(Saturn)」でのアルバムの制作・流通・販売をすべてメンバーでこなしていましたから、アーケストラのアルバムは制作と発売の時期が非常に錯綜しています。ビッグバンド維持のための多作('70年代以降は少なくとも年間4枚以上、多い時には8枚あまり)とサン・ラ生前未発表に終わったスタジオ盤とともに膨大な発掘ライヴ・アルバム(大半はCD2枚組以上、多い時では6~9枚組、最多で28枚組ものヴォリュームに上ります)が残されており、そのため作品の年代順が定めがたいので、通常のジャズマンの数倍に上る多産と旺盛な活動・創造力がなおさらサン・ラとサン・ラ&ヒズ・アーケストラの全体像をつかみづらくしています。

 プロデューサーからアーティストに転身後のサン・ラは享年までの約40年に180作あまりのアルバムを制作しており、音楽的変遷は5期に分けてとらえるのが妥当でしょう。

●第1期-1956年~1961年・シカゴ時代(デビュー・アルバムからニューヨーク進出準備まで)=約15作

●第2期-1961年~1969年・ニューヨーク潜伏時代(本拠地移転後60年代いっぱいのアルバム)=約30作

●第3期-1970年~1976年・国際メジャー進出時代(ヨーロッパ進出、メジャー契約成功期)=約55作

●第4期-1977年~1979年・国際メジャー定着時代(メインストリーム・ジャズ認知浸透期)=約30作

●第5期-1980年~1993年・メインストリーム浸透~総合晩年期=約60作
(通算没後発掘・編集盤、第1期~第5期通算没後発表80作以上)

 音楽的には第1期を中型モダン・ビッグバンド~エキゾチック・ジャズ期、第2期を小編成のフリージャズ期、第3期をエレクトロニクス導入と大編成のフリージャズ~ゴスペル・スペース・ジャズ・ファンク期、第4期をソロから小編成~大編成、アコースティック・ジャズからエレクトロニクス・ジャズまで様々な編成で完成度を高めた時期と言え、'80年代~享年に至る最後期の第5期は第1期~第4期までのあらゆる作風をアップ・トゥ・デイトした、もっとも円熟しきったサン・ラのジャズが聴けます。かつて筆者は2019年に閉鎖されたヤフーブログでサン・ラの全アルバムの約9割をご紹介しましたが、数の上でも膨大なだけにサン・ラの発掘アルバムは増え続けており、索引代わりに改めてサン・ラの全アルバムのディスコグラフィーをまとめ直しました。サン・ラはここに上げたアーケストラ結成以前の未発表音源や各年代の発掘音源も毎年数枚ずつリリースされており、それらも数え上げればこのディスコグラフィーもまだ80枚あまりを加えて総数240作以上に改訂することもできますが、サン・ラ没後も継承活動しているサン・ラ・アーケストラの公式サイトでのディスコグラフィー掲載アルバムはすべて網羅し、各種文献と手持ちのアルバムからまとめたのが以下のリストです。

 前記のサターン盤の自主制作事情から、メジャーのレコード会社作品ではあり得ないほどサン・ラのアルバムには正確な録音データが残っていないものも多く、中には意図的に録音・制作時期のサバを読んで発表されたアルバムもあるため、同年録音・制作とされるアルバムにも発表年の違いばかりかレコード番号も制作順・発表順の参考にならない場合があまりに多いのもサン・ラのサターン盤の特徴です。便宜上録音・制作・完成順を推定して通し番号をふりましたが、たとえば1973年のアルバム『Deep Purple』は1973年の最新録音を含みながら収録曲の大半はアーケストラ結成当初の1953年の未発表音源だったりと、ディスコグラフィー上の位置づけに問題のある作品も多数あります。同作についてはサン・ラ側としては20年前の録音をあえて最新作として発表する意図があったと思われ、何しろ宇宙人の時間感覚で活動していた人ですから録音時期や発表時期の混乱も時には無頓着、時にはわざとリスナーを煙に巻いていた節もあり、そこは1作1作を丁寧に聴いて見分けをつけるしかありません。録音・制作後すぐ発表されたアルバムは◎、発表の遅れたアルバムは○、サン・ラ没後の発掘盤は※を付しましたが、初期ほど一旦お蔵入りになっていたアルバムが多いのもわかります(1956年~1961年のアルバムで即時発売されたのは4作しかありません)。さらに今後も発掘音源が発見され、それらを足していくとなると完全なリストにはほど遠いのですが、サン・ラの作品群は20世紀ジャズ至極の秘宝と言えるものです。ご参考、お役立ていただければ幸いです。

[ Sun Ra and his Arkestra 1956-1961 Album Discography ]
●第1期-1956年~1961年・シカゴ時代(デビュー・アルバムからニューヨーク進出準備まで)=15作
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘盤
◎1. Jazz By Sun Ra (Sun Song) (Transition TRLP J-10, rec.1956/rel.1957)
◎2. Super-Sonic Jazz (Saturn H7OP0216, rec.1956/rel.1957)
○3. Sound of Joy (Delmark DS-414, rec.1956/rel.1968)
○4. Visits Planet Earth (Saturn LP No. 9956-11, rec.1956-58/rel.1966)
○5. The Nubians of Plutonia (Saturn LP-406, rec.1958-59/rel.1966)
◎6. Jazz in Silhouette (Saturn LP5786, rec.& rel.1959)
○7. Sound Sun Pleasure!! (El Saturn SR 512, rec.1959/rel.1970)
○8. Interstellar Low Ways (El Saturn SR 9956-2-M/N, rec.1959-60/rel.1966)
※9. Music For Tomorrow's Mood (Atavistic USM/ALP-237CD, rec.1969/rel.2002)
○10. Fate In A Pleasant Mood (Saturn Research LPSR99562B, rec.1960/rel.1965)
○11. Holiday For Soul Dance (Saturn Research ESR508, rec.1960/rel.1970)
○12. Angels and Demons at Play (Saturn 407, rec.1956-60/rel.1965)
※13. Spaceship Lullaby (Atavistic UMS ALP-243CD, rec.1955-1960, rel,2003)
○14. We Travel The Space Ways (Saturn LP409, rec.1956-61/rel.1967)
◎15. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy MG-12169, rec.1961/rel.1962)

[ Sun Ra and His Arkestra 1961-1969 Album Discography ]
●第2期-1961年~1969年・ニューヨーク潜伏時代(本拠地移転後60年代いっぱいのアルバム)=29作
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘盤
○1. (16) Bad and Beautiful (Saturn LP-532, rec.1961/rel.1972)
○2. (17) Art Forms of Dimensions Tomorrow (Saturn LP-9956, rec.1961-1962/rel.1965)
◎3. (18) Secrets of the Sun (Saturn London404, rec.1962/rel.1965)
○4. (19) What's New? (Saturn 52735, rec.1962/rel.1975)
◎5. (20) When Sun Comes Out (Saturn LP-2066, rec.1963/rel.1963)
◎6. (21) It's Limbo Time (Dauntless DM-4309, rec.&rel.1963) as "Ron Croney, Queens of Limbo, with Orchestra and Chorus"
○7. (22) Cosmic Tones for Mental Therapy (Saturn LP-408, rec.1963/rel.1967)
○8. (23) When Angels Speak of Love (Saturn LP-1966, rec.1963/rel.1966)
◎9. (24) Other Planes of There (Saturn KH-98766, rec.1964/rel.1966)
○10. (25) Featuring Pharoah Sanders & Black Harold (Saturn IHNY-165, rec.1964/rel.1976)
※11. (26) Other Strange World (Roaratorio roar33, rec.1965, rel.2014)
◎12. (27) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One (ESP-Disk 1014, rec.1965/rel.1965)
◎13. (28) The Magic City (Saturn lPG-711, rec.1965/rel.1966)
◎14. (29) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two (ESP-Disk 1017, rec.1965/rel.1966)
※15. (30) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Three (ESP-Disk ESP 4002, rec.1965/rel.2005)
◎16. (31) Impression of A Patch of Blue (MGM SE-4358, rec.1965/rel.1966) Walt Dickerson Quartet
※17. (32) The Ark And The Ankh (CD IKEF-02, rec.1966/rel.2001)
○18. (33) Nothing Is (ESP-Disk 1045, rec.1966/rel.1966)
※19. (34) College Tour Vol,I~Complete Nothing Is... (ESP-Disk ESP4060, rec.1966/rel.2010)
※20. (35) Space Aura (Art Yard AY10001, rec.1966/rel.2013)
◎21. (36) Strange Strings (Saturn LP-502, rec.1966/rel.1967)
◎22. (37) Batman and Robin - The Sensational Guitars of Dan and Dale (Tifton 78002, rec.1966/rel.1966)
◎23. (38) Monorails and Satellites, volumes 1 (Saturn SR-509, rec.1966/rel.1968)
◎24. (39) Monorails and Satellites, volumes 2 (Saturn LP-519, rec.1966/rel.1967)
○25. (40) Our Spaceways Incorporated (Saturn 14300A/B, rec.1966-1968/rel,1974) Various Sessions
◎26. (41) Continuation (Saturn ESR-520, rec.1968/rel.1969)
◎27. (42) A Black Mass (Jihad Productions 1968, rec.1968/rel.1968)
○28. (43) Picture of Infinity (Black Lion 30103, rec.1967-1968/rel,1971)
◎29. (44) Atlantis (Saturn ESR-507, rec.1967-1969/rel.1969)

[ Sun Ra & His Arkestra 1970-1976 Album Discography ]
●第3期-1970年~1976年・国際メジャー進出時代(ヨーロッパ進出、メジャー契約成功期)=53作
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘盤
◎1. (45) My Brother the Wind (Saturn LP-521, rec.1969-1970/rel.1974)
◎2. (46) The Night of the Purple Moon (Saturn LP-522, rec.1970/rel.1970)
◎3. (47) My Brother the Wind Volume II (Otherness) (Saturn LP-523, rec.1969-1970/rel.1971)
○4. (48) Space Probe (aka A Tonal View of Times Tomorrow, Vol.1) (Saturn Sun Ra 14200A/B, rec.1963-1970/rel.1974) Various Sessions
◎5. (49) The Invisible Shield (aka Janus, A Tonal View of Times Tomorrow, Vol. 2, Satellites are Outerspace) (Saturn LP-529, rec.1962-1970/rel.1974) Various Sessions
○6. (50) Out There A Minute (Brast First BFFP-42, rec.1969-1970/rel.1989) Various Sessions
◎7. (51) Solar Myth Approach Vol.1 (BYG Around 40-529340, rec.1969-1970/rel.1974)
◎8. (52) Solar Myth Approach Vol.2 (BYG Around 41-529341, rec.1969-1970/rel.1974)
○9. (53) Nuits de la Fondation Maeght, Volume I (Shandar SR-10.001, rec.1969-1970/rel.1974)
○10. (54) Nuits de la Fondation Maeght, Volume II (Shandar SR-10.003, rec.1969-1970/rel.1974)
◎11. (55) It's After the End of the World (MPS 2120748, rec.1970/rel.1971)
※12. (56) Black Myth/Out in Space (Complete '"It's After the End of the Worlds" Sessions, Motor Music 557656-2, rec.1970/rel.1998)
※13. (57) Live In London 1970 (Transparency 0317, rec.1970/rel.1990)
※14. (58) The Creator of The Universe(The Lost Reel Collection Vol.1) (Transparency 0301, rec.1971/rel.2007)
◎15. (59) Universe In Blue (Saturn LP-200, rec.1971/rel.1972)
※16. (60) The Paris Tapes - Live at Le Theatre Du Chatlet 1971 (Art Yard KSAY 6N, rec.1971/rel.2010)
※17. (61) Helsinki 1971 The Complete Concert And Interview (Transparency 0314, rec.1971/rel.2010)
※18. (62) Intergalactic Research (The Lost Reel Collection Vol.2) (Transparency 0302, rec.1971&1972/rel.2007)
※19. (63) Calling Planet Earth (Freedom CD-741071, rec.1971/rel.1998)
◎20. (64) Nidhamu (Saturn Thoth Intergalactic KH-1272, rec.1971/rel.rel.middle 70's)
◎21. (65) Live in Egypt 1 (Dark Myth Equation Visitation) (Saturn Thoth Intergalactic 7771, rec.1971/rel.middle 70's)
◎22. (66) Horizon (Saturn 1217718, rec.1971rel.middle 70's)
※23. (67) Space Is the Place (soundtrack) (Evidence 22070-2, rec.1972/rel.1993)
※24. (68) The Shadows Took Shape (The Lost Reel Collection Vol.3) (Transparency 0303, rec.1972/rel.2007)
◎25. (69) Astro Black (Impulse! As-9255, rec.1972/rel.1973)
※26. (70) Live At Slug's Saloon (Transparency 0313, rec.1972/rel.2008)
※27. (71) The Universe Sent Me (The Lost Reel Collection Vol.5) (Transparency 0305, rec.1972&1973/rel.2008)
◎28. (72) Discipline 27-II (Saturn 538, rec. 1972/rel.1972)
※29. (73) Life Is Splendid (Alive/Total Energy NER-3026, rec.1972/rel.1999)
◎30. (74) Space is the Place (Blue Thumb BTS-41, rec.1973/rel.1973)
○31. (75) Crystal Spears (Impulse!, rec. 1973/rel.2000)
○32. (76) Cymbals (Impulse! AS-9297, Rec.1973/rel.2000)
○33. (77) Deep Purple (Saturn LP-485, rec.1953-1973/rel.1973) Various Sessions
◎34. (78) Pathways to Unknown Worlds (Impulse! ASD-9298, rec.1973/rel.1975)
○35. (79) Friendly Love (Evidence EDC 22218-2, rec.1973/rel.2000)
※36. (80) What Planet Is This? (Leo Golden Years of New Jazz GY 24/25, rec.1973/rel.2006)
※37. (81) Untitled Recordings (Transparency 0309, rec.1973/rel.2008)
※38. (82) Outer Space Employment Agency (Alive/Total Energy NER-3021, rec.1973/rel.1999)
◎39. (83) Live in Paris at the "Gibus" (Atlantic 40540, rec.1973/rel.1975)
※40. (84) The Road To Destiny (The Lost Reel Collection Vol.6) (Transparency 0306, rec.1973/rel.2010)
※41. (85) Concert for the Comet Kohoutek (ESP 3033, rec.1973/rel.1993)
※42. (86) Planets Of Life Or Death: Amiens '73 (Art Yard STRUTCDJ123, rec.1973/rel.2015)
◎43. (87) Celebration For Dial Times (Saturn unknown number, rec.&rel.1973or1974)
◎44. (88) Out Beyond the Kingdom Of (Saturn 61674, rec.1974/rel.1974)
◎45. (89) The Antique Blacks (Saturn 81774, rec.1974/rel.1974)
※46. (90) It Is Forbidden (Alive/Total Energy Total NER3029, rec.1974/rel.2001)
◎47. (91) Sub Underground (Saturn 92074, rec.1974/rel.1974)
※48. (92) Dance of The Living Image (The Lost Reel Collection Vol.4) (Transparency 0304, rec.1974/rel.2007)
※49. (93) United World In Outer Space-Live In Cleveland (Leo Golden Years of New Jazz GY 29, rec.1975/rel.2009)
◎50. (94) What's New? (Saturn LP-539, rec.1975/rel.1975)
◎51. (95) Cosmos (Cobra COB-37001, rec.1976/rel.1976)
◎52. (96) Live at Montreux (Saturn MS-87976, rec.1976/rel.1976)
※53. (97) A Quiet Place in the Universe (Leo CD LR-198, Rec.1976&1977/rel.1994)

[ Sun Ra & His Arkestra Album Discography 1977-1979 ]
●第4期-1977年~1979年・国際メジャー進出時代(メインストリーム・ジャズ認知浸透期)=28作
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘盤
◎1. (98) Solo Piano, Volume 1 (Improvising Artists Inc., rec.1977.5.20/rel.1977)
◎2. (99) St. Louis Blues (Solo Piano vol.2) (Improvising Artists Inc., rec.1977.7.3/rel.1978)
◎3. (100) Somewhere Over the Rainbow (also "We Live to Be") (Saturn, rec.1977.7.3/rel.1978)
◎4. (101) Some Blues but not the Kind That's Blue (also "Nature Boy" & "My Favorite Things") (Saturn, rec.1977.7.18/rel.1977)
◎5. (102) The Soul Vibrations of Man (Saturn, rec.1977.11/rel.1977)
◎6. (103) Taking a Chance on Chances (Saturn, rec.1977.11/rel.1977)
◎7. (104) Unity (Horo, rec.1977.10.24&29/rel.1978)
◎8. (105) Piano Recital - Teatro La Fenice, Venezia (Leo, rec.1977.11.24/rel.2003)
◎9. (106) New Steps (Horo, rec.1978.1.2&7/rel.1978)
◎10. (107) Other Voices, Other Blues (Horo, rec.1978.1.8&13/rel.1978)
※11. (108) The Mystery of Being (klimt mjj, rec.1978.1/rel.2011)
◎12. (109) Media Dreams (Saturn, rec.1978.1/rel.1979)
◎13. (110) Disco 3000 (Saturn, rec.1978.1.23/rel.1978)
◎14. (111) Sound Mirror; Live in Philadelphia '78 (Saturn, rec.1978.1/rel.1978)
◎15. (112) Of Mythic Worlds (Philly Jazz, rec.1978/rel.1980)
※16. (113) Live at the Horseshoe Tavern, Toronto 1978 (Transparency, rec.1978.3.13,9.27,11.4/rel.2008)
◎17. (114) Walt Dickerson & Sun Ra; Visions (Steeplechase, rec.1978.7.11/rel.1979)
◎18. (115) Lanquidity (Philly Jazz, rec.1978.7.17/rel.1978)
※19. (116) Springtime in Chicago (Leo, rec.1978.9.25/rel.2006)
◎20. (117) The Other Side of the Sun (Sweet Earth, rec.1978.11.1, 1979.1.4/rel.1979)
○21. (118) Song of the Stargazers (Saturn, rec.middle'70's/rel.1979)
◎22. (119) Sleeping Beauty (also "Door of the Cosmos") (Saturn, rec.1979.6/rel.1979)
◎23. (120) Strange Celestial Road (Rounder, rec.1979.6/rel.1979)
◎24. (121) God Is More Than Love Can Ever Be (also "Blithe Spirit Dance", "Days of Happiness" & "Trio") (Saturn, rec.1979.7.25/rel.1979)
◎25. (122) Omniverse (Saturn, rec.1979.9.13/rel.1979)
◎26. (123) On Jupiter (also "Seductive Fantasy") (Saturn, rec.1979.5, 1979.10.16/rel.1979)
※27. (124) Live From Soundscape (DIW, rec.1979.11.10,11/rel.1994)
◎28. (125) I, Pharaoh (Saturn, rec.1979-probably1980.6.6/rel.1980)

[ Sun Ra and his Arkestra Album Discography 1980-1993 ]
●第5期-1980年~1993年・メインストリーム浸透~総合晩年期)=57作
◎制作後すぐ新作として発売されたアルバム
○発表の遅れたアルバム
※サン・ラ没後の発掘盤
◎1. (126) Sunrise in Different Dimensions (hat Hut 2R17, 2 LPs, rec.&rel.1980)
※2. (127) Live in Rome (Transparency 0315, 2CD, rec.1980, rel.2010)
◎3. (128) Voice of the Eternal Tomorrow (The Rose Hue Mansions of the Sun) (Saturn 91780, rec.&rel.1980)
◎4. (129) Aurora Borealis (Ra Rachmaninov) (Saturn 10480, 12480, rec.&rel.1980)
◎5. (130) Beyond the Purple Star Zone (Immortal Being) (Saturn 123180, rec.&rel.1981)
※6. (131) God's Private Eye (No label, double CD, rec.1981, rel.2000)
◎7. (132) Dance of Innocent Passion (Saturn Sun Ra 1981, rec.1980/rel.1981)
◎8. (133) Oblique Paralax (Journey Stars Beyond) (Saturn IX SR 72881, rec.&rel.1982)
※9. (134) The Complete Detroit Jazz Center Residency Dec. 26th, 1980 - January 1st. 1981 (Complete Oblique Paralax, Transparency 0307, 28CD, rec.1981, rel.2007)
※10. (135) Myron's Ballroom - Audio Series Volume One (Transparency 0236, 3CD, rec.1982, rel.2006)
◎11. (136) Nuclear War (Saturn 1984-A / 1984-C, rec.1982/rel.1984)
◎12. (137) A Fireside Chat with Lucifer (Saturn Gemini 19841; A/B 1984SG-9, rec.1983/rel.1984)
◎13. (138) Celestial Love (Saturn Gemini 19842; C/D 1984SG-9, rec.1983/rel.1984)
◎13. (139) Ra to the Recue (Saturn IX/ 1983-220, rec.1983/rel.1984)
◎14. (140) Just Friends (Saturn XI Saturn 1984A/B, rec.&rel.1983)
◎15. (141) The Sun Ra Arkestra Meets Salah Ragab in Egypt (Praxis CM 106, rec.&rel.1983)
※16. (142) Sun Rise in Egypt vols. 1, 2 and 3 (Sphynx Records, Cairo, ECD 25735, rec.1983/rel.2006)
※17. (143) Sun Ra All Stars Milan, Zurich, West Berlin, Paris (Transparency 0311, 5CDs. rec.1983/rel.2008)
◎18. (144) Love in Outer Space: Live in Utrecht (Leo LR-154, rec.1984/rel.1988)
◎19. (145) Live at Praxis 84 Vol. I (Praxis CM 108, rec.&rel.1984)
◎20. (146) Live at Praxis 84 Vol. II (Praxis CM 109, rec.1984/rel.1985)
◎21. (147) Live at Praxis 84 Vol. III (Praxis CM 110, rec.1984/rel.1986)
※22. (148) Astral Planes & New Moonbeams Live in Atlanta 1984 (Jewells of Jazz, no date, rec.1984/rel.2003) Bootleg LP
◎23. (149) Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1) (Saturn 10-11-85, rec.1983/rel.1985)
◎25. (150) Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2) (Saturn Gemini 9-1213-85, rec.1983/rel.1985)
◎26. (151) When Spaceships Appear (Cosmo-Party Blues) (Children of the Sun) (Saturn Sun Ra 101485 A/B, rec.1983-1985/rel.1985)
◎27. (152) Cosmo Sun Connection (Saturn/Recommended SRRRD 1, rec.1984/rel.1985)
※28. (153) Club Lingerie - Audio Series Volume Two (Transparency 0237, 2CD, rec.1985/rel.2006)
◎29. (154) Un"Sung Stories" (Slash Records LP 25481-1, rec.1985/rel.1986)
◎30. (155) John Cage Meets Sun Ra (Meltdown MPA-1, rec.1986, rel.1987)
※31. (156) Live At Red Creek, Rochester, NY (Sagittarius A-Star 03, Italy, rec.1986, rel.2010)
◎32. (157) A Night in East Berlin (Saturn cassette, no number; track 1 only, rec.&rel.1986)
◎33. (158) Reflections in Blue (Black Saint 101, 120 101, rec.1986/rel.1987)
◎34. (159) Hours After (Black Saint 120 111, rec.1986/rel.1990)
◎35. (160) Bratislava Jazz Days 1987 (Opus 9115 2080-81, rec.1987/rel.1988)
◎36. (161) Hidden Fire 1 (Saturn Sun Ra 13188III/ 12988II, rec.&rel.1988)
◎37. (162) Hidden Fire 2 (Saturn Sun Ra 13088A/ 12988B, rec.&rel.1988)
◎38. (163) Stay Awake (A&M AMA3918, rec.&rel.1988)
◎39. (164) Live at Pit-Inn (Cosmo Omnibus Imagiable Illusion) (DIW 824 1988-CD, rec.&rel.1988)
◎40. (165) Blue Delight (A&M CD 5260, rec.1988/rel.1989)
◎41. (166) Somewhere Else (Rounder 3036, rec.1988-1989/rel.1993)
※42. (167) Other Thoughts (ZUW 0001, rec.1989/rel.1993)
○43. (168) Second Star to the Right (Salute to Walt Disney) (Leo LR 230, rec.1989, rel.1995)
○44. (169) Stardust from Tomorrow (Leo LR 235/236, rec.1989/rel.1996)
◎45. (170) Purple Night (A&M 75021 5324 2, rec.1989/rel.1990)
◎46. (171) Live in London 1990 (Blast First BFFP 60, rec.&rel.1990)
◎47. (172) Beets: A Collection of Jazz Songs (Elemental/TEC 90901, rec.&rel.1990)
◎48. (173) Mayan Temples Black Saint 120 121-2, rec.1990/rel.1992)
◎49. (174) Destination Unknown (Enja 7071, rec.1990/rel.1992)
◎50. (175) Pleiades (Leo LR210/211, rec.1990/rel.1993)
※51. (176) Live at the Hackney Empire (Leo LR 214/215, 2CD, rec.1990/rel.1994)
◎52. (177) Friendly Galaxy (Leo LR 188, rec.1991/rel.1993)
○53. (178) Cosmos Visions (Brast First BFFP CD-101, rec.1991/rel.1994)
◎54. (179) At the Village Vanguard Rounder 3124, rec.1991/rel.1993)
※55. (180) Live In ULM 1992 (Leo GY 30/31, rec.1992/rel.2014)
◎56. (181) Destination Unknown (ENJA-7071, rec.&rel.1992)
◎57. (182) A Tribute to Stuff Smith (Soul Note 121216- 2, rec.&rel.1993)遺作
※58. (183) The Singles (Evidence ECD-22164-2, 2CD, rec.1954-1982/rel.1996) Various Sessions 既発表シングル集
※59. (184) The Eternal Myth Revealed Vol.1 (Transparency 0316, 14CD Boxset, rec.1921-1976/rel.2012) Various Sessions 未発表音源ボックス・セット
※60. (185) Wake Up Angels (Live At The Ann Arbor Blues & Jazz Festival 1972-73-74) (ARTYARD CD012, 2012) "Life is Splendid", "Outer Space Employment Agency", "It's Forbidden"収録

2021年新作冬アニメ(1月~3月)放映予定表・首都圏版

 2020年はもともとオリンピック予定で新作放映予定自体が少なかった上に、春アニメ(4月~6月)以降は感染病禍による製作遅延から大幅に放映予定が急遽変更される作品が相次ぎ、何とか放映にこぎつけた作品も禍中の製作進行によって品質の低下が指摘されるものが大半という惨状でした。2020年を代表するアニメには劇場版『鬼滅の刃』がありましたが、感染病禍以前から製作されていた同作の記録的大ヒットを明とすれば、2020年の惨状を記念するとんでもない「暗」を代表するのは放映中からカルト化する盛り上がりを見せた怪作『ジビエート』だったでしょう。

 今季も2021年冬(1月~3月)の深夜テレビアニメ放映予定を一覧表にしました。掲載は新作のみ、首都圏地上波と無料BS放映の日程だけ載せましたが、全国各地域でも地方局・キー局で放映されると思いますので目安にご覧ください。固定ファンを持つ人気作品の続編・第二期放映も多いので、それなりに手堅い印象を受ける反面、新味に乏しい観もありますが、2020年の春~夏~秋アニメよりは充実したラインナップかもしれません。ご利用いただければ幸いです。また、放映曜日・時間帯の変更、再放映作品については放映が始まったら随時訂正・追加していきますので、現時点で間違いがありましたらご容赦ください。これがほとんど今年最後の記事(まだ明日がありますが)になるとは年甲斐もなく少々恥かしいですが、ヒマ人一人暮らしの筆者はこのリストの新作は全部観る、面白ければ行幸で、つまらない作品でもくまなく観る予定でございます。それでは、みなさまにおかれましても、よいお年をお迎えになられますように。

●日曜日
◎魔道祖師(日本語吹替版)
TOKYO MX:01/10(日) 21:30~
BS11:01/10(日) 22:30~
弱キャラ友崎くん
TOKYO MX:01/10(日) 22:00~
BS11:01/09(土) 22:00~
◎スケートリーディング☆スターズ
TOKYO MX:01/10(日) 22:30~
BS11:01/12(火) 24:00~
◎怪物事変
TOKYO MX:01/10(日) 23:00~
BS11:01/12(火) 24:30~
◎IDOLY PRIDE
TOKYO MX:01/10(日) 23:30~
BS日テレ:01/10(日) 23:30~
無職転生-異世界行ったら本気だす-
TOKYO MX:01/10(日) 24:00~
BS11:01/10(日) 24:00~
◎EX-ARMエクスアーム
TOKYO MX:01/10(日) 25:05~
>BSフジ:01/12(火) 24:00~
のんのんびより のんすとっぷ(第3期)
テレビ東京:01/10(日) 25:35~
BSテレ東:01/11(月) 24:30~
進撃の巨人 The Final Season
NHK総合:12/06(日) 24:10~
◎じみへんっ!!~地味子を変えちゃう純異性交遊~
TOKYO MX:01/03(日) 25:00~

●月曜日
◎ゲキドル ACTIDOL SCHOOL 新春スペシャル(第1話&劇中劇「アリスインデッドリースクール」特別版)
TOKYO MX:01/04(月) 21:00~
7SEEDS 第2期※Netflix配信済
TOKYO MX:01/04(月) 22:30~
◎たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語
TOKYO MX:01/04(月) 23:00~
BS11:01/04(月) 23:00~
ウマ娘 プリティーダービー Season2
TOKYO MX:01/04(月) 24:00~
BS11:01/04(月) 24:00~
◎裏世界ピクニック
TOKYO MX:01/04(月) 24:30~
BS11:01/04(月) 24:30~
アズールレーン びそくぜんしんっ!
TOKYO MX:01/11(月) 25:00~
BS11:01/11(月) 25:00~
◎真・中華一番! 第二期
TOKYO MX:01/11(月) 25:10~
BS日テレ:01/13(水) 24:00~
◎WAVE!!~サーフィンやっぺ!!~(※劇場公開済)
テレビ東京:01/11(月) 26:00~

●火曜日
転生したらスライムだった件 第2期 第1部
TOKYO MX:01/12(火) 23:00~
BS11:01/12(火) 23:30~
文豪ストレイドッグス わん!
TOKYO MX:01/12(火) 24:30~
BS11:01/13(水) 24:00~
◎ワールドウィッチーズ発進しますっ!
TOKYO MX:01/12(火) 24:45~
BS11:01/13(水) 24:15~
ワンダーエッグ・プライオリティ
日本テレビ:01/12(火) 25:35~
BS日テレ:01/13日(水) 25:00~

●水曜日
七つの大罪 憤怒の審判※初回事前特番
テレビ東京系:01/06(水) 17:55~
BSテレ東:01/06(水) 24:30~
銀魂 THE SEMI-FINAL(新作アニメ特別編)全2話
>dTV:01/15(木) 19:00~
ログ・ホライズン -円卓崩壊-(第3期)
NHK Eテレ:01/13(水) 19:25~
魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編 (第2期)
TOKYO MX:01/20(水) 22:00~
>BSフジ:01/21(木) 24:30~
Re:ゼロから始める異世界生活 第2期後半クール
TOKYO MX:01/06(水) 23:30~
BS11:01/06(水) 25:00~
◎アイ★チュウ
TOKYO MX:01/06(水) 23:00~
BS11:01/10(日) 23:30~
◎装甲娘戦機
TOKYO MX:01/06(水) 24:00~
BS11:01/06(水) 25:30~
◎オルタンシア・サーガ
TOKYO MX:01/06(水) 24:30~
BS11:01/06(水) 24:30~
BEASTARS(ビースターズ) 第2期
>フジテレビ:01/06(水) 24:55~
>BSフジ:01/--(-) ~

●木曜日
SHOW BY ROCK!!STARS!!
TOKYO MX:01/07(木) 22:00~
Dr.STONE(ドクターストーン) 第2期
TOKYO MX:01/14(木) 22:30~
BS11:01/14(木) 24:00~
>BSフジ:01/07(木) 25:05~
ゆるキャン△ SEASON2
TOKYO MX:01/07(木) 23:30~
BS11:01/07(木) 23:30~
天地創造デザイン部
TOKYO MX:01/07(木) 24:00~
>BSフジ:01/08(木) 24:30~
ひぐらしのなく頃に 業(新作) 14話以降
TOKYO MX:01/07(木) 24:30~
BS11:01/07(木) 24:30~
◎2.43 清陰高校男子バレー部
>フジテレビ:01/07(木) 24:55~
◎回復術士のやり直し
TOKYO MX:01/13(水) 25:05~
BS11:01/13(水) 25:00~
約束のネバーランド 第2期
>フジテレビ:01/07(木) 25:25~
>BSフジ:01/13(水) 24:30~
◎五等分の花嫁∬ (第2期)
>TBS:01/07(木) 25:28~
BS11:01/08(金) 23:30~

●金曜日
蜘蛛ですが、なにか?
TOKYO MX:01/08(金) 22:30~
BS11:01/08(金) 23:00~
◎バック・アロウ
TOKYO MX:01/08(金) 24:00~
BS11:01/08(金) 24:00~
WIXOSS DIVA(A)LIVE
TOKYO MX:01/08(金) 24:30~
BS11:01/08(金) 24:30~
◎おとなの防具屋さん 第2期
TOKYO MX:01/08(金) 25:00~
◎プレイタの傷[PROJECT SCARD]
>TBS:01/08(金) 25:55~
BS-TBS:01/08(金) 26:30~
◎俺だけ入れる隠しダンジョン
>TBS:01/08(金) 26:25~
BS-TBS:01/08(金) 27:00~

●土曜日
はたらく細胞 第2期
TOKYO MX:01/09(土) 23:30~
BS11:01/09(土) 23:30~
はたらく細胞 BLACK
TOKYO MX:01/09(土) 24:00~
BS11:01/09(土) 24:00~
ホリミヤ
TOKYO MX:01/09(土) 24:30~
BS11:01/09(土) 24:30~
◎Levius レビウス
TOKYO MX:01/09(土) 25:00~
BS11:01/09(土) 25:00~
◎怪病医ラムネ
TOKYO MX:01/09(土) 25:30~
BS11:01/09(土) 25:30~
ワールドトリガー 2ndシーズン
テレビ朝日系:01/09(土) 25:30~
◎SK∞ エスケーエイト
テレビ朝日系:01/09(土) 26:00~

●放映日未定
◎闇芝居 第8期
テレビ東京:01/--(-) ~

バートン・グリーン・カルテット Burton Greene Quartet (ESP, 1966)

バートン・グリーン・カルテット (ESP, 1966)

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バートン・グリーン・カルテット Burton Greene Quartet (ESP, 1966) : https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_nf3mRd6mtnXPUIEM5wnJOTqybHVdAgYX8
Recorded in January 1966.
Released by ESP Disk ESP 1024, 1966
All written by Burton Greene
(Side A)
A1. Cluster Quartet - 12:08
A2. Ballade II - 10:34
(Side B)
B1. Bloom In The Commune - 8:04
B2. Taking It Out Of The Ground - 13:02

[ Burton Greene Quartet ]

Burton Greene - piano
Marion Brown - alto saxophone
Frank Smith - tenor saxophone (B2 only)
Henry Grimes - bass
Dave Grant - percussion (A1, B1, B2)
Tom Price - percussion (A2 only)

(Original ESP "Burton Greene Quartet" LP Liner Cover & Side A Label)
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 年末年始でもこのブログはかまわず平常運転でいきます。本作の主役、バートン・グリーンは1937年イリノイ州シカゴ生まれで、ご覧のジャケット写真の通り19世紀のデカダン詩人のような容貌が目を惹く白人ジャズマンとしてフリー・ジャズ界から活動を始めた珍しいピアニストでした。白人ジャズ・ピアニストでフリー・ジャズに移り、やはりESPディスクからフリー・ジャズ作品を発表した先輩格にはポール・ブレイがいましたが、ブレイはハード・バップ時代にチャールズ・ミンガスマックス・ローチの共同レーベルのDebutからデビューし、ビル・エヴァンスとピアノ・デュオ作品で共演し、ソニー・ロリンズのサイドマンも勤め、オーネット・コールマンをバンドメンバーに迎えた実績があり、いわば出自のしっかりしたジャズマンでした。グリーンはと言えば最初からフリー・ジャズのピアニストとしてデビューしたので、このアルバムや当時のライヴでもマリオン・ブラウンやヘンリー・グライムズ、ゲストに迎えたファロア・サンダースら黒人メンバーのプレイはいいのにグリーンのピアノは駄目、とジャーナリズムの不評をこうむることになりました。結局グリーンはフリー・ジャズに見切りをつけて新発明のムーグ・シンセサイザーに活路を見出し、メジャーのコロンビアにシンセサイザー音楽のアーティストとして迎えられ、シンセサイザー・アルバム『Presenting Burton Greene』で再デビューし、'70年代はグリーン自身の創設した自主レーベルで順調に新作を発表する実験音楽家になります。

 グリーンが不運だったのは、当時フリー・ジャズ支持者のインテリのジャズ批評家やリスナーの大半は白人黒人問わずフリー・ジャズを急進的かつ尖鋭的な黒人ジャズ運動と考えていたことで、一部の白人ジャズマン(主に黒人ジャズマンのサイドマン出身者)を除いては認められるのが難しかった事情があります。フリー・ジャズというと滅茶苦茶や出鱈目という安易なイメージがありますが、実際のフリー・ジャズのほとんどは調性もあれば和声も旋律(音階)もある音楽なので、西洋楽器を使っている以上当然そうなり、フリー系のジャズマンは演奏に肉声やノイズ的ニュアンス、または逆に極端な抽象性・幾何学性を与えることで新しい響きを出そうとしました。本作のオープニング曲A1「Cluster Quartet」などはABA'B'=26小節(先のABが14小節、後のA'Bが12小節)のシンプルでオーソドックスな変型ブルース曲で、楽曲自体に新しいアイディアはまったくありませんし、グリーンだけでなく駆け出し時代のマリオン・ブラウンもまだまだ稚拙な演奏で、凄腕ベーシストのグライムズでもっているような演奏です。しかしこれは稚拙だからこそチャーミングな演奏で、この曲ならではの輝きがあります。アルバム全編がA1の水準を保てなかった弱味が本作の愛嬌で、5分過ぎないとピアノが出てこないバラードのA2、幾何学的テーマの喧騒ナンバーB1、B2も悪くないのですが、肝心のグリーンの演奏はピアノのクラスター奏法(拳や手の平で打鍵する)、内部奏法(ピアノの弦を直接爪で弾く)、打撃奏法(ピアノ本体を叩いたり蹴飛ばしたりする)など前衛音楽的手法を駆使すればするほど、やや年長のセシル・テイラーポール・ブレイ、アンドリュー・ヒルらに較べてセンスがぞんざいでサウンドが雑というか、素人くさい演奏になってしまうのです。ライヴではマリオン・ブラウンら黒人メンバーが生彩を放っていたのにグリーンはまるで冴えなかった、ただの前衛気取りにすぎないと評されていたのも何となく納得のいくもので、アイディア倒れの白人ジャズと言っては身も蓋もありませんが、ESPディスク自体もけっこう山師的な側面も強い新興フリー・ジャズ・レーベルでしたからグリーンのようなピアニストがデビューする余地があったということです。グリーンはのちジャズ界に復帰して、本作よりぐっと落ち着いたピアニストになりましたが、ESP作品らしいうさんくささと処女作ならではの若気のいたりの良さがあるこのデビュー作はジャケットのムードも伴って今でもひっそりと長く細く愛聴されていて、巻頭曲A1と全編に漂う何となくぎくしゃくした「これじゃない」雰囲気だけでも忘れがたいアルバムになっているのはジャズ史の片隅の美談でしょう。こういうあまり出来の芳しくないアルバムほど訴えかけてくるようないじらしさがあり、馬鹿な子ほど可愛いという人情の機微に触れるものがあります。凡人や悪人だって人間には違いないように二流のフリー・ジャズだってジャズには違いないではないかとしみじみ感じいらせてくれる滋味のあるアルバムで、グリーンにはこれが本気の全力だったと思われるだけに、ますます身につまされる力作には違いありません。

与謝野鉄幹「誠之助の死」、佐藤春夫「愚者の死」明治44年(1911年)

与謝野鉄幹明治6年(1873年)2月26日生~
昭和10年(1935年)3月26日没(享年62歳)
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誠之助の死

大石誠之助は死にました。
いゝ気味な、
機械に挟まれて死にました。
人の名前に誠之助は沢山ある、
然し、然し、

わたしの友達の誠之助は唯一人。
わたしはもうその誠之助に逢はれない、
なんの、構ふもんか、
機械に挟まれて死ぬやうな、
馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の誠之助。

それでも誠之助は死にました、
おお、死にました。

日本人で無かつた誠之助、
立派な気ちがひの誠之助、
有ることか、無いことか、
神様を最初に無視した誠之助、
大逆無道の誠之助。

ほんにまあ、皆さん、いい気味な、
その誠之助は死にました。

誠之助と誠之助の一味が死んだので、
忠良な日本人は之(これ)から気楽に寝られます。
おめでたう。

(「三田文學」明治44年=1911年4月)


 与謝野鉄幹(1873-1935)の第七詩歌集『鴉と雨』(大正4年=1915年8月刊)より。この詩篇明治43年(1910年)5月から6月にかけて「天皇暗殺」「国家転覆」を企てたとして検挙された、幸徳秋水らを中心とする社会主義運動家26名のグループにあって、翌明治44年1月18日に行われた判決で2名を除く24名が死刑を宣告され、早くも同月24日、25日には半数の被告が死刑執行された中に加わっていた和歌山県紀伊新宮町の医師、大石誠之助(1867-1911)の死を追悼して創作・発表されたものです。この「大逆事件」と呼ばれる事件は完全な捏造検挙・判決・処刑であることが当初から知識人階級には知れ渡っており、大逆事件被告の検挙に続いて明治43年には国家の「安寧秩序紊乱」を名目に思想・言論統制が強化され、一般的な文芸誌から「ホトトギス」「新思潮」に至る純粋な文学誌までが発禁処分を受けるとともに明治30年代~40年代の社会主義文献・社会主義文学も禁書になりました。陸軍軍医総監(将軍に相当します)だった森鴎外すらこの官憲の強権には反発し、「フアスチエス」「沈黙の塔」「食堂」(「三田文學」明治43年9月、11月、12月)などの屈折した権力批判的作品を連続発表しているほどです。また慶応大学教授にあってこの年創刊の「三田文學」を主宰した永井荷風大逆事件をきっかけに明治以降の国家体制に決定的な不信感を抱いて作風を転換させており、この年デビューした新人・谷崎潤一郎の耽美的作風も体制批判的な背景を持ったものでした。

 与謝野鉄幹明治39年(1906年)11月に主宰する新詩社・「明星」(のち「スバル」)同人の茅野蕭々、吉井勇北原白秋らとともに紀伊に遊び、新宮町でアメリカ留学の経験もあり、短歌研究家でもあった同町きっての文化人の医師、大石誠之助に町内を案内され、それ以降大石の教養と人格に尊敬の念を抱いていました。大逆事件の時には新詩社同人の弁護士、平出修が特別弁護人に就きましたが、平出は事件が完全な捏造冤罪事件であることを仔細に調査し、当時朝日新聞社校正係だった石川啄木(1886-1912)は新詩社友人の平出から幸徳秋水を始めとする被告たちの陳述書を閲覧する機会を得て大逆事件の捏造経過を追究したノート「日本無政府主義者陰謀事件経過及び付帯現象」をまとめていますが、啄木は明治45年4月には26歳で病死し、このノートは太平洋戦争敗戦後の啄木全集で公表されるまで陽の目を見ませんでした。その代わり大逆事件を隠れたテーマとした未完詩集『呼子と口笛』が啄木没後翌年の『啄木遺稿』に収録されて、啄木の大逆事件への関心は早く知られることになります。

 鉄幹はそうした大逆事件の裏側を周辺の文人たちの証言からも早くから周知しており、また大石誠之助の人物像からも事件の捏造冤罪を確信していましたが、専門家の弁護士・平出修の弁論すら法廷は無視して揉み消し死刑判決を決定、一週間後には異例の早急な死刑執行を知ったのです。ジャーナリズムに影響力を持つ知識人・徳富芦花ですら天皇への減刑嘆願書を新聞発表したのに死刑は強行されたので、知識人・文化人全般への衝撃と落胆は甚大なものでした。特に新詩社・「明星」「スバル」~「三田文學」関係の文学者は弁護士・平出修を通じてあからさまに事件の過程を知ったので、幸徳秋水・大石誠之助らが処刑された直後の明治44年には3月の「スバル」に木下杢太郎「和泉屋染物店」や佐藤春夫「愚者の死」、4月の「三田文學」に「誠之助の死」を含む与謝野鉄幹の「春日雑詠」、7月の「創作」には石川啄木の『呼子と口笛』に収録される詩篇6篇などが一斉に発表されます。

 啄木も16歳の明治35年(1902年)、与謝野鉄幹の新詩社・「明星」によって新進詩人・歌人としてデビューした人でしたが、和歌山県出身の詩人・小説家、佐藤春夫(1892-1964)も明治41年(1908年)、16歳で「明星」への投稿短歌が選者の啄木に選ばれ、翌明治42年1月には「明星」廃刊に伴う新詩社の「スバル」創刊号に短歌の発表が認められています。佐藤は明治43年に郷里の新宮中学校を卒業して新詩社に出入りし、慶応大学に学んで永井荷風に師事するようになりました。佐藤の実家は代々新宮町で医業を営んでおり、佐藤春夫の父・豊太郎は同じ町の開業医同士で大石誠之助と親交がありました。佐藤春夫明治44年3月の「スバル」に発表したのが、のちの昭和27年(1952年)の『定本佐藤春夫全詩集』のうちの「初期習作拾遺篇」に初めて収められた「愚者の死」です。

愚者の死

 佐藤春夫

千九百十一年一月二十三日
大石誠之助は殺されたり。

げに厳粛なる多数者の規約を
裏切る者は殺さるべきかな。

死を賭して遊戯を思ひ、
民族の歴史を知らず、
日本人ならざる者
愚なる者は殺されたり。

『偽より出でし真実(まこと)なり』と
絞首台上の一語その愚を極む。

われの郷里は紀州新宮。
渠(かれ)の郷里もわれの町。

聞く、渠が郷里にして、わが郷里なる
紀州新宮の町は恐怯(きょうきょう)せりと。
うべさかしかる商人(あきんど)の町は歎かん。

――町民は慎めよ。
教師らは国の歴史を更にまた説けよ。

(「スバル」明治44年3月)

 佐藤春夫は別件の事件で収監中だったため大逆事件検挙から免れた大杉栄と親交を持ち、また大正12年(1923年)には高橋新吉の第一詩集『ダダイスト新吉の詩』の刊行に書店を取り持ち、序文を寄せた人ですが、昭和12年(1937年)には「日本浪漫派」の同人となり戦時下には『戦線詩集』(昭和14年)、『日本頌歌』(昭和17年)、『大東亜戦争』(昭和18年)、『奉公詩集』(昭和19年)などの戦争翼賛詩集のほか多数の翼賛文集を発表しています。昭和23年には前年の土井晩翠に続いて蒲原有明とともに芸術院会員になっており、すでに70代になっていた晩翠、有明よりも佐藤春夫は20歳あまり年少で芸術院会員に推挙・入会したことになります。「日本浪漫派」の同人の多くは当時戦争翼賛の文業が戦犯扱いになって公職追放になっており、それを思うと佐藤が多数の戦時中の翼賛詩・翼賛文集刊行にもかかわらず芸術院会員に任命されたのは知識階級とジャーナリズムによる免罪符的な意味の強いものでした。佐藤は文壇全体に「門人三千人」と呼ばれるほどの影響力を持っており、『定本佐藤春夫全詩集』も斎藤茂吉の『ともしび』、高村光太郎の『典型』(茂吉、高村とも戦時下の戦争翼賛詩歌集の第一人者でした)に続いて読売文学賞を受賞しています。与謝野鉄幹昭和10年に亡くなったため大東亜戦争翼賛詩歌集はありませんが長命を得れば翼賛詩歌の時代に直面したに違いなく、、佐藤春夫の例を見ると「誠之助の死」「愚者の死」ともに思想的な骨格は意外ともろく、国家総動員規模の戦時体制に直面するといかがだったかと懸念されます。石川啄木の親友で啄木の最晩年まで公私ともに啄木の面倒を見た国文学者・金田一京助によると最晩年の病床、啄木は国粋主義者に転向していたという証言もあり、国家権力と民衆への絶望の後は極端な国粋主義に振れる例は三島由紀夫を上げるまでもありません。「誠之助の死」「愚者の死」はそれ自体は反骨精神に富んだ立派な詩ですが、動機は友人、同郷の大先輩への迫害という個人的な契機に基づいており、これをいかにして貫き、さらに尖鋭的な思想詩(または反思想詩)に到達できるかは、家族主義の延長にとどまる明治刀自的な与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」同様心もとない印象もぬぐえません。

ポポル・ヴー Popol Vuh - ヨーガ Yoga (PDU, 1976)

ポポル・ヴー - ヨーガ(PDU, 1976)

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ポポル・ヴー Popol Vuh - ヨーガ Yoga (PDU, 1976) : https://youtu.be/N6Yom735gP8
This album was the results of a session recorded at Studio 70, Munich in 1974, and was never intended to be released as a Popol Vuh release.
Released by PDU Records Pld. SQ 6066, Italy, 1976
(Lato A)
A1. Yoga 1 - 22:10
(Lato B)
B1. Yoga 2 - 18:30

[ Personnel ]

Florian Fricke - Indian Harmonium
Beena Chatterjee - vocals
Al Gromer - Sitar
Pandit Sankha Chatterjee - tabla
Peter Müller - sarangi

(Original PDU "Yoga" LP Liner Cover & Lato A Label)
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 旧西ドイツのクラウトロックを代表するグループのひとつ、ポポル・ヴーは実質的にリーダーのキーボード奏者フローリアン・フリッケ(1944-2001)のソロ・プロジェクトで、メンバーの出入りは少なかったもののレコード制作のみでライヴは行わず、アルバム制作ごとにフリッケと親しいミュージシャンたちが集まる形態で1970年のデビューからフリッケ逝去まで30年もの間活動を続けていましたが、そうした異例の活動を可能にしたのもフリッケが旧貴族階級の大城主で機材も備えた自宅スタジオを持つ富豪であり、かつ親友だった映画監督、ヴェルナー・ヘルツォーク(『アギーレ・神の怒り』など)の映画の専属映画音楽家だからでした。ポポル・ヴーのアルバムはこのブログで初期の数作をご紹介しましたが、今回ご紹介するポポル・ヴー第9作目のアルバム『ヨーガ(Yoga)』は本来ポポル・ヴーの作品として制作されたものではなく、フリッケが友人のつてで在独インド人ミュージシャンたちとセッションした音源を現代インド音楽のアルバムとしてかつての所属レーベルのOhrに提供していたところ、Ohrはこれをドイツ発売はせずフリッケとの契約満了を待ってイタリアのインディー・レーベルに売却し、イタリアのレーベルPDUがポポル・ヴー名義で発売してしまったものです。フリッケはポポル・ヴー名義で23枚のアルバムを残しており、フリッケ逝去後全作品が未発表テイクを加えたリマスター盤CDとして新装発売されましたが、この『Yoga』だけはフリッケの遺志と版権の散佚から再発売を除外されています。しかしPDUレーベルはOhrから本作を版権ごと買い取っていたらしく、このアルバムはアナログLPでは初回プレスのみで廃盤になったものの1992年にフランスのSpalaxレーベルから初再発売・初CD化され、イタリアのHigh Tideレーベルから1993年にCD再発売されたあと再度廃盤になり、フリッケ逝去後の2007年にイタリアのAtlas Eclipticalisレーベルから限定版のCD-R再発売がされています。そうした事情で本作はリリース過程もジャケット(CDジャケットはアナログLPからのピンボケ複写!)もタイトルも内容もうさんくさいためにCD(おそらくマスター・テープ紛失のためアナログLP起こし!)も少数のプレス枚数しか出回っていませんが、同じ理由(さらにCDでは1、2の区切りなしで全1曲40分!)から不人気なので、稀少なアルバムにもかかわらずプレミアどころか中古盤ではこんなの買う客もなかろうと捨て値に近い値段で売られています。私も20年以上前に中古盤店で800円くらいで買いました。

 しかし実際このアルバムを聴いてみると、本来ポポル・ヴー作品として制作されたものではなく、発売後もフリッケがポポル・ヴー作品から除外しているにもかかわらず、本作はエキゾチックでアコースティックな現代インド音楽として聴きごたえのあるキュートでチャーミングなアルバムで、全編で流れるインド人女性ヴォーカルの囁くような歌声にはポポル・ヴーの新旧レギュラー・ヴォーカリストだったディオン・ユン(現代クラシック界の韓国人大作曲家イサン・ユン令嬢)、レナーテ・クラウプ(元アモン・デュールIIの女性ヴォーカリスト)らに劣らない魅力があります。ポポル・ヴー自体も初期2作と映画サウンドトラックではムーグ・シンセサイザーを使用しているもののサード・アルバム『ホシアナ・マントラ(Hosianna Mantra)』以降は後期のアルバムまでずっと独自のアコースティック・アンサンブルが主体のサウンドで一貫しています。本作『Yoga』には作曲者クレジットはなく即興演奏のセッション・アルバムと思われますがフリッケもインド製ハーモニウム(足踏みオルガン)で参加しており、女性ヴォーカルとインド楽器とのアンサンブルによるメディテーショナルな響きは本家ポポル・ヴー作品と並べてもおかしくないものです。再発売CDもフリッケにとっては不本意だったためフランス盤、イタリア盤しかプレスされていない不遇なアルバムですが、本家ポポル・ヴーのアルバムを聴いたことのある人もない人もこの『Yoga』は現代インド音楽とエキゾチックなアコースティック・フォークを融合したなかなかの逸品として愛聴できるのではないでしょうか。アメリカのセヴンス・サンズの『Raga』のような素人芸ではなく、イギリスのマッシュルーム・レーベルのマジック・カーペットなどはモロに本作と同じインド音楽フォーク・ロックですが、出来栄えはこの『Yoga』の方がはるかに上です。本作はイギリスのヴァシュティ・バニヤン、フランスのエマニュエル・パルナン、イタリアのサン・ジュストなどの'70年代の女性ヴォーカル・アシッド・フォークとも親近性のある、この種の音楽が好きな人にはたまらない魅力のある作品です。こういうアルバムがいくらでも埋もれているのが'70年代ユーロ・ロックのそら恐ろしいところです。

 なお参考までにポポル・ヴーの全アルバム・リストを上げておきます。ジュリアン・コープによるドイツのロック研究書『Krautrocksampler』1995にはドイツのロックのベスト・アルバム50選に『Affenstunde』『In Den Garten Pharaos』『Einsjager & Siebenjager』『Hosianna Mantra』(この順)が上げられています。日本語題があるものはフリッケ逝去後のリマスターCDが日本盤でリリースされているものです。また『アギーレ/神の怒り』『ガラスの心』『ノスフェラトゥ』『Fitzcarraldo』『コブラ・ヴェルデ』はそれぞれ同年のヴェルナー・ヘルツォークの同名映画のサウンドトラック盤です。

[ Popol Vuh Album Discography ]
1.『猿の時代』(旧邦題『原始帰母』)Affenstunde (1970)
2.『ファラオの庭にて』In den Garten Pharaos (1971)
3.『ホシアナ・マントラ』Hosianna Mantra (1972)
4.『聖なる賛美(山上の教訓)』Seligpreisung (1973)
5.『一人の狩人と七人の狩人』Einsjager und Siebenjager (1974)
6.『雅歌』Das Hohelied Salomos (1975)
7.『アギーレ/神の怒り』Aguirre (1975)
8.『最後の日、最後の夜』Letzte Tage - Letzte Nachte (1976)
9.『Yoga』(1976)
10.『ガラスの心』Herz aus Glas (1977)
11.『影の兄弟、光の子供達』Bruder des Schattens - Sohne des Lichts (1978)
12.『ノスフェラトゥ』Nosferatu (1978)
13.『魂の夜(タントラの歌)』Die Nacht der Seele (1979)
14.『静謐の時』Sei still, wisse ICH BIN (1981)
15.『Fitzcarraldo』(1982)
16.『アガペー・神の愛』Agape - Agape (1983)
17.『スピリット・オブ・ピース』Spirit of Peace (1985)
18.『コブラ・ヴェルデ』Cobra Verde (1987)
19.『フォー・ユー・アンド・ミー』For You and Me (1991)
20.『シティ・ラーガ』City Raga (1995)
22.『羊飼いの交響曲』Shepherd's Symphony - Hirtensymphonie (1997)
23.『オルフェオのミサ』Messa di Orfeo (1999)

与謝野晶子「君死にたまふことなかれ」明治37年(1904年)

与謝野晶子明治11年(1878年)12月7日生~
昭和17年(1942年)5月29日没(享年64歳)
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君死にたまふことなかれ

 旅順口攻囲軍の中に在る弟を歎きて

あゝをとうとよ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
末(すゑ)に生れし君なれば
親のなさけはまさりしも、
親は刄(やいば)をにぎらせて
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや。

堺(さかい)の街のあきびとの
旧家(しにせ)を誇るあるじにて、
親の名を継ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ。
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり。

君死にたまふことなかれ。
すめらみことは、戦ひに
おほみづからは出いでまさね、
かたみに人の血を流し、
獣の道に死ねよとは、
死ぬるを人のほまれとは、
大みこゝろの深ければ、
もとよりいかで思(おぼ)されむ。

あゝをとうとよ、戦ひに
君死にたまふことなかれ。
過ぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは、
なげきのなかに、いたましく、
わが子を召され、家を守(も)り、
安しと聞ける大御代(おほみよ)も
母のしら髪はまさりぬる。

暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかに若き新妻(にひづま)を
君わするるや、思へるや、
十月(とつき)も添はで別れたる
少女(をとめ)ごころを思ひみよ、
この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき、
君死にたまふことなかれ。

(「明星」明治37年=1904年9月、合同詩歌集『戀衣』明治38年1月収録)

君死にたまふことなかれ

 (旅順の攻囲軍にある弟宗七を歎きて)

ああ、弟よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
末(すゑ)に生れし君なれば
親のなさけは勝(まさ)りしも、
親は刄(やいば)をにぎらせて
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
廿四(にじふし)までを育てしや。

堺(さかい)の街のあきびとの
老舗(しにせ)を誇るあるじにて、
親の名を継ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ。
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君は知らじな、あきびとの
家いへの習ひに無きことを。

君死にたまふことなかれ。
すめらみことは、戦ひに
おほみづからは出でませね
互(かたみ)に人の血を流し、
獣の道に死ねよとは、
死ぬるを人の誉(ほまれ)とは、
おほみこころの深ければ、
もとより如何(いか)で思(おぼ)されん。

ああ、弟よ、戦ひに
君死にたまふことなかれ。
過ぎにし秋を父君(ちゝぎみ)に
おくれたまへる母君(はゝぎみ)は、
歎きのなかに、いたましく、
我子(わがこ)を召され、家を守(も)り、
安しと聞ける大御代(おほみよ)も
母の白髪(しらが)は増さりゆく。

暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかに若き新妻(にひづま)を
君忘るるや、思へるや。
十月(とつき)も添はで別れたる
少女(をとめ)ごころを思ひみよ。
この世ひとりの君ならで
ああまた誰を頼むべき。
君死にたまふことなかれ。

(『晶子詩篇全集』昭和4年=1929年1月刊収録)


 日露戦争(明治37年=1904年勃発~明治38年=1905年終結)時の反戦詩として名高い与謝野(旧姓・鳳)晶子(1878-1942)のこの「君死にたまふことなかれ」は、第一歌集『みだれ髪』(明治34年=1901年8月刊)刊行直後の与謝野鉄幹(1873-1935)との結婚を経て第二歌集『小扇』(明治37年=1904年1月刊)に続く鉄幹との合同詩歌文集『毒草』(明治37年5月刊)を刊行したの鉄幹主宰の詩歌誌「明星」9月刊行号に発表され、当初から賛否両論かまびすしい、大きな反響を呼び、翌明治38年1月刊の山川登美子、増田(茅野)雅子との共同詩歌集『戀衣』に収録されたものです。「明星」発表時にはタイトルは「君死にたまふこと勿れ」で、詩行に句読点はなく、タイトルの表記や句読点の追加を含む多少の表記の変更(初出では「何事ぞ、/君は知らじな」は「何事か/君知るべきや」、「母のしら髪はまさりぬる。」は「母のしら髪はまさりける」となっていました)をされて『戀衣』に収められたのが先に掲げた型です。のち与謝野晶子は短歌以外の詩篇421篇を『晶子詩篇全集』(実業之日本社昭和4年=1929年1月20日刊)にまとめており、後に掲げたのは『晶子詩篇全集』での改稿版です。のちに講談社から『定本與謝野晶子全集』が刊行された際に第九巻『詩集一』(昭和55年=1980年8月刊)・第十巻『詩集二』(昭和55年12月刊)に『晶子詩篇全集』未収録の詩篇239篇が『晶子詩篇全集拾遺』として収められており、歌人としての業績とともに膨大な文語詩・口語詩・散文詩が認められることになりました。

 この詩「君死にたまふことなかれ」は日露戦争に出兵した実弟、宗七の身を案じた反戦詩として名高い作品で、発表時大町桂月が批判し晶子が応酬するなど議論のあった詩であり、当時二児の母でもあった(のち十一児の母になる)晶子は女の身であれば肉親や子供を思い、まことの心情を歌うなら当然ではないかと反論しています。しかしのちに与謝野晶子は、『晶子詩篇全集拾遺』に収録された詩集未収録詩篇では、第一次世界大戦に当たって、

覇王樹と戦争

シヤボテンの樹を眺むれば、
芽が出ようとも思はれぬ
意外な辺が裂け出して、
そして不思議な葉の上へ
新しい葉が伸びてゆく。

ああ戦争も芽である、
突発の芽である、
古い人間を破る
新しい人間の芽である。

シヤボテンの樹を眺むれば、
生血に餓ゑた怖ろしい
刺はりの陣をば張つて居る。
傷つけ合ふが樹の意志か、
いいえ、あくまで生きる為。

ああ今、欧洲の戦争で、
白人の悲壮な血から
自由と美の新芽が
ずつとまた伸びようとして居る。

それから、
ここに日本人と戦つて居る、
日本人の生む芽は何だ。
ここに日本人も戦つて居る。

(大正3年=1914年作)

一九一八年よ

暗い、血なまぐさい世界に
まばゆい、聖い夜明が近づく。
おお、そなたである、
一千九百十八年よ、
わたしが全身を投げ掛けながら
ある限りの熱情と期待を捧げて
この諸手をさし伸べるのは。

そなたは、――絶大の救世主よ――
世界の方向を
幾十万年目に
今はじめて一転させ、
人を野獣から救ひ出して、
我等が直立して歩む所以(ゆゑん)の使命を
今やうやく覚らしめる。

そなたの齎(もたら)すものは
太陽よりも、春よりも、
花よりも、――おお人道主義の年よ――
白金(はくきん)の愛と黄金の叡智である。
狂暴な現在の戦争を
世界の悪の最後とするものは
必定、そなたである。

わたしは三たび
そなたに礼拝を捧げる。
人間の善の歴史は
そなたの手から書かれるであらう、
なぜなら、――ああ恵まれたる年よ、――
過去の路は暗く塞がり、
唯だ、そなたの前のみ輝いて居る。

(大正7年=1918年作)

 と戦争を積極的に文化の更新運動としてとらえており、「君死にたまふことなかれ」が決して反戦思想によるものではなく肉親への心情詩である限界を露呈しています。与謝野晶子大東亜戦争~太平洋戦争勃発の頃には老齢と病苦で寡作になり、戦時中に戦局の激化の前に亡くなりましたが、もし健在に文筆活動を続けていたら戦翼翼賛詩の全盛期に戦争詩の多作を残していた可能性は否定できず、「君死にたまふことなかれ」をそのまま歴史的な反戦詩の古典と受け取れない面が大きいのです。与謝野晶子の全詩業は質量ともに明治~昭和の三代に渡る女性詩人として歌人の余技以上の突出した業績と認められるものですが、少なくともこの詩人は大東亜戦争~太平洋戦争勃発時にすでに反戦詩を発表することはなく、「君死にたまふことなかれ」もまた反戦詩としての積極的な意図からではない、例外的な機会詩的心情詩として書かれたと見られるのが妥当でしょう。

夢の夢

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ジョン・レノン John Lennon - 夢の夢 #9 Dream (Apple, 1975) : https://youtu.be/7zZsKOvXiFo

 ジョン・レノン(1940-1980)にはそのものずばりのクリスマス・ソング「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」もありますが、1971年の同曲はヨーコさんとの共作かつデュエット曲で、ヨーコさんとのデュエット曲ではずば抜けて良い曲ですがクリスマス・ソングのお題に答えた模範回答といった感じもします。今回採り上げた「夢の夢 (#9 Dream)」は1974年9月発表のアルバム『心の壁、愛の橋 (Walls And Bridges)』収録曲で、全米No.1ヒットとなったエルトン・ジョンとデュエットした第1弾シングル曲「真夜中を突っ走れ (Whatever Gets You Thru The Night)」に続いてシングル・カットされ、原題通り?全米第9位のヒット曲になっています。9という数字はジョン・レノン自身が自分のラッキー・ナンバーと考えていたものでした。ビートルズ最後期の「アクロス・ザ・ユニヴァース (Across The Universe)」と似通った雰囲気のこの曲は歌詞には冬も雪も歌われているわけではないのですが、鼻歌のような浮遊感に富んだメロディーにふわっとした歌語、アコースティックなアレンジに包みこむようなストリングス、効果音的に挿入される女性のヴォイス(当時ジョンとヨーコは別々の愛人と別居しており、この声はジョンの愛人だった中国系秘書のメイ・パンの声です)、サビに歌われる造語「ア・バワカワ・ポセ・ポセ」がかもしだす雰囲気は粉雪の中を歩んできて家にたどり着き、暖炉に当たっているようなムードがあります。シングル・カットは1974年12月(アメリカ)、1975年1月(イギリス)で、やはり冬のムードにふさわしい楽曲と判断されたのでしょう。オリジナル曲としては特に名曲でもなくジョンの歌声と冴えたアレンジで忘れられない佳曲になったようなヴァージョンですが、こういう曲がさらりと出来るのが当時のジョンの才能であり、ソロ・アーティストになってからのベスト・アルバムでも本作が必ず収録されているのはこの天才の多彩な作風を示してあまりあります。堂々とした「ハッピー・クリスマス」のように聴き飽きもしません。歌手としてのジョンはもちろんロックンローラーが本領ですが、こういう可愛い曲を残してくれていていたのは心が安らぐ気がします。

2020年・アニメ界の明暗

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ジビエート

(公式Twitterより)

GIBIATE(ジビエート) ジビエート Blu-ray BOX(2枚組)

ジビエート Blu-ray BOX(2枚組)
35,000円(税込)
[数量]

アニメ『GIBIATE(ジビエート)』2020年7月より放送開始!

ジビエート」のBlu-ray BOXが完全受注生産で発売決定!!
受注数に応じて、特典が豪華になる特別企画を実施!
予約受付は11月30日まで!

<予約特別企画>
受注数に応じて、特典が豪華になる特別企画を実施!

■500セットコース
天野喜孝先生書き下ろしジャケットイラスト
・限定ブックレット(天野喜孝氏のキャラクター原案イラストや芹沢直樹先生のモンスターデザインイラスト、アニメの設定資料など60ページの豪華特別版)

■1000セットコース
500セットコースに加え、
・シリアルナンバー入り生原画
・ノンテロップ版オープニング/エンディング映像

■1500セットコース
1000セットコースに加え、
・声優オーディオコメンタリーおよびインタビュー

■2000セットコース
1500セットコースに加え、
・サントラCD(オープニング/エンディングを含む)
・オープニング/エンディングアーティスト特別インタビュー映像

■3000セットコース
2000セットコースに加え、
・発売イベント開催(実施方法については検討中につき、変更になる可能性がございますのであらかじめご了承ください)

<GIBIATE(ジビエート)Blu-ray BOX>

■予約受付期間 2020年8月13日~2020年11月30日(予定)
■発売予定日 2020年12月より発送開始予定
■仕様 アニメ全12話収録Blu-ray Disc2枚組、アニメ書き下ろしジャケットイラスト、ハードケース収納BOX
■金額 ¥35,000(税込)(別途送料)
■発売元 「GIBIATE PROJECT」製作委員会
■販売元 Age Global Networks

◆アニメ放送日時
7月15日~
TOKYO MX:7月15日22:00-22:30
AT-X:7月15日23:00-23:30
BSフジ:7月16日24:00-24:30

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鬼滅の刃

(C)吾峠呼世晴集英社アニプレックスufotable

(Yahoo! 知恵袋より)
鬼滅の刃興行収入について質問です。 前に興行収入がどの会社にどれくらい入るかを書いたネット記事があったのですが見つからなくなってしまいました。 そこで興行収入アニプレックスや製作会社にどれくらい入るかを知ってるかたがいましたら教えてください。

◎ベストアンサー
 もしも映画鬼滅の刃興行収入が350億円だった場合のお金の配分 50% 175億円 全国の各映画館の収入 40% 140億 制作委員会 (制作、広告費等を引いた上で按分) (内訳)18%集英社 18%アニプレ4%ufotable 10% 35億円 配給会社 (内訳)5%東宝 5%アニプレックス らしいです。

(映画.comより)

【コラム/細野真宏の試写室日記】劇場版「鬼滅の刃」のメガヒットで、どの会社に、いくら利益が出るのか?
2020年11月12日 14:00

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」公開中!

(前文略)

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公開24日目で興行収入204億8361万1650円と、超最速で200億円を突破しました。

これは、これまで数々の歴代1位の記録を持っていた「千と千尋の神隠し」でも公開25日目に興行収入100億円だったので、いかに今回の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が異例なのかが分かると思います。

しかも、公開わずか24日目で見事に「歴代興行収入ランキング5位」にまでなっています。

さて、今回の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットで配給の東宝の利益が大きく上がるから東宝の株価が上がる、といった記事をよく見かけます。これは間違いとまでは言えないものの、少し違和感があります。

なぜなら、東宝は、「共同配給の1社」に過ぎず、「製作委員会に入っていない」からです。

この辺りの仕組みがキチンと分かるように、今回は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットでお金の流れはどうなるのか、を解説します。

最初に押さえておきたいのは、映画の上映においては、主に「配給会社」、「興行会社(映画館)」、「製作委員会」が直接、利益を得られます。

まず、基本的には興行収入(チケット代)の半分が映画館に行きます。

もし「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の興行収入が350億円になるまで大ヒットしたとしましょう。

そうなると、175億円が全国の映画館の売り上げになるわけです。

これは、例えば、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で全国の映画館が止まっていた際に、「ミニシアター・エイド基金」が立ち上げられ、2020年4月13日から5月15日までに3億3102万5487円を集めました。

3億円超と大きい金額ですが、参加団体数117劇場・102団体なので、1団体あたりの平均額は306万円となったようです。

しかも、3人に2人が主に「未来チケットコース」という入場券の先払いの形だったので、この306万円が丸々寄付されたわけでもなかったのです。

こうして考えると、今回メガヒットした「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、窮地に陥っていた全国の映画館にとって救世主的な作品だったと言えると思います。

ちなみに、こういうメガヒット作品が出た時には、その作品の配給会社がどこであろうと、東宝や松竹、東映などの決算報告書に載ることになります。

これはどういうことかと言うと、要は東宝や松竹、東映などは興行会社(シネコンチェーン)も持っているので、自社が配給に関与していなくても、そのメガヒット作品を自社系列の映画館で上映することによって利益を得ることができているためなのです。

つまり、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットによって、東宝だけではなく、松竹、東映なども利益を上げることができるわけです。

では、興行収入350億円のうち、残りの175億円はどうなるのでしょうか?

ここで「配給会社」が出てきます。

まず「配給会社」が175億円のうち20%の35億円を受け取ります。

さらに、今回の配給は、東宝アニプレックスの共同配給なので、通常は半々となり、その場合は東宝の取り分は17.5億円、アニプレックスの取り分は17.5億となります。

つまり、もし「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が興行収入350億円のメガヒットをしたとしても、冒頭の記事のように東宝が大儲けするわけではなく、あくまで(TOHOシネマズを除くと)東宝の取り分はここまでになるのです。

それでは、残りの140億円はどうなるのでしょう?

ここで「製作委員会」が出てきます。

「製作委員会」とは、作品を作るときに出資をした会社の集合体で、映画がコケてしまえば損失を抱えることになりますが、逆に映画がヒットすれば利益が出ることになるのです。

今回の「製作委員会」は、アニプレックス集英社ufotableの3社となっています。

大まかに言うと、この3社で140億円を分けるのですが、その前に、支出となっている「映画を作った制作費」、「映画を宣伝するための広告費」の清算が必要になります。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、非常に作品のクオリティーが高いので、あくまで想像ですが、制作費は5億円程度と想定されます。

また、広告費は2億円程度と想定されます。

その場合は、利益が133億円となります。(制作費は、アニメーション制作をしたufotableに入ることになります)

さらに、利益の10%にあたる13億円が「制作成功報酬」としてufotableに入ると想定すると、残った利益120億円を製作委員会の出資比率に応じて分けるわけです。

出資比率は、あくまで想像ですが、おそらくアニプレックス45%、集英社45%、ufotable10%と想定されます。

その場合は、アニプレックス54憶円、集英社54億円、ufotable12億円となります。

基本は、このようになりますが、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の場合は、アニプレックスが得意とする入場者プレゼントが今週末から始まるので、この制作費用などは映画館に来た観客への「利益還元」という意味合いを持ちます。

つまり、「アニプレックス54憶円、集英社54億円、ufotable12億円」から、出資比率に基づいて、入場者プレゼントの制作費が引かれていくことになるわけです。

いずれにしても、アニメーション作品を多く手掛ける会社である「アニプレックス」の利益は大きく、「アニプレックス」はソニーの子会社なので、「アニプレックス」の業績がソニーの決算に上方修正をもたらしたのにも納得がいきます。

また、原作本の権利を持っている「集英社」も出版不況が囁かれる今、かなりの大きな利益につながったことが分かります。

そして、アニメーションを実際に作った「ufotable」は、この成功によって、さらに人材育成にもお金をかけることが可能になります。

ufotable」の作品は非常にクオリティーが高いのですが、その原動力になっているのは、エンドクレジットからも分かるのです。

他のアニメーション作品においては、原画はさておき、動画に関しては外注は当然で、東南アジア系に任せている場合も少なくありません。

ところが、「ufotable」の作品の場合は、動画も「ufotable」に所属する人が担当している割合が多く、キチンと人材教育がなされていることがここからも読み取れるのです。

今回のようにクオリティーが非常に高い作品を作った会社がキチンと報われるような仕組みになっていて、今後にも期待できそうな結果になりそうで、作品のファンにとっても映画業界にとっても良い状況が生まれそうです。 (もちろん、原作者にも契約に従って、キチンと利益が行くようになります)

(ABEMA TIMESより)

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』興行収入288億円に 観客動員数は2152万人突破 興行収入1位まであと20億円

ABEMA TIMES12/7, 12:00

 記録的な大ヒットを続ける『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、10月16日からの全国ロードショーから52日間の興行収入を発表、約288億円になった。また観客動員数は2152万人に到達。興行収入では、歴代1位の『千と千尋の神隠し』(308億円)にあと20億円と迫った。徐々にペースは落ち着いてきたものの、歴代1位の座が確実に迫ってきた。

 「鬼滅の刃」は、週刊少年ジャンプ集英社)に2016年11月から2020年5月まで連載された、吾峠呼世晴氏による人気漫画。主人公の竈門炭治郎をはじめ個性豊かな鬼殺隊の面々と、邪悪な人喰い鬼との戦いが描かれている。2019年に全20局で放送されたTVアニメをきっかけに社会現象的なブームを巻き起こし、コミックスのシリーズ累計発行部数は1億2000万部を突破。コミックス最終23巻は、初版395万部を記録した。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、公開10日間の興行収入が国内史上最速で100億円を突破。その後、24日間で200億円を突破するなど映画史に残る数字を次々と叩き出している。Twitter上では、劇場版の主要キャラクター煉獄杏寿郎にちなんで「#煉獄さんを300億の男にしよう」というハッシュタグが盛り上がり、記録達成にはトレンド入りも必至と見られる。

▼『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』興行成績(公開日10月16日)

公開3日間:興行収入46億2311万7450円、動員数342万493人
公開10日間:興行収入107億5423万2550円、動員数798万3442人
公開17日間:興行収入157億9936万5450円、動員数1189万1254人
公開24日間:興行収入204億8361万1650円、動員数1537万3943人
公開31日間:興行収入 233億4929万1050円、動員数1750万5285人
公開39日間:興行収入 259億1704万3800円、動員数1939万7589人
公開45日間:興行収入 275億1243万8050円、動員数2053万2177人
公開52日間:興行収入 288億4887万5300円、動員数2152万5216人

▼歴代映画興行収入ランキング(興行通信社調べ)

1位『千と千尋の神隠し』(308億円)
2位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(288億円)
3位『タイタニック』(262億円)
4位『アナと雪の女王』(255億円)
5位『君の名は。』(250.3億円)

▼「鬼滅の刃」主なトピックス

・LiSAが歌う劇場版の主題歌「炎(ほむら)」が各音楽配信サイトのチャートで合計55冠を達成、ストリーミング再生でも史上最速で1億回を突破した。

・2日の衆院予算委員会で、菅義偉首相が「私も『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と発言し話題に。

・芸能界を中心にコスプレに挑戦するタレント等が続々と登場。叶姉妹、田村淳、椿鬼奴GACKT、ざわちん、熊田曜子なかやまきんに君手越祐也など。

・「2020ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入り。

・コミックス最終巻の23巻発売前日、当日には全国紙5紙に全面広告を展開。特に当日は15人のキャラクターが3人ずつ5紙に登場したことで、早朝から新聞を買い集めるファンで売店などに長蛇の列ができた。

・海外でも劇場版の反響は大きく、台湾ではアニメーション映画として興行収入が歴代1位に。また2021年にはアメリカ・カナダ・オランダなどでの上映も決まっている。