人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(1)フランツ・カフカ小品集(再録)

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フランツ・カフカ(1883-1924)はプラハ生まれのユダヤ系作家。市役所職員の傍ら同人誌に小説・エッセイを発表。生涯独身で過ごし、生前の著作は中篇小説「変身」「火夫」、小品集「観察」のみ。没後膨大な遺稿が発見され未完の三大長篇小説「アメリカ(失踪者)」「審判(訴訟)」「城」や多数の中短篇、恋愛関係にあった2人の女性への書簡が順次刊行されて20世紀最大の作家のひとりと目されるようになる。なお遺族はほぼ全員ナチスホロコーストで死亡。
同世代の大作家マルセル・プルースト(フランス、代表作「失われた時を求めて」)やジェイムズ・ジョイス(アイルランド、代表作「ユリシーズ」)と比較しても純度が高く、広範な読者層を獲得しており、影響力も多大ながら亜流の追従を許さない。
今回ご紹介するのは小品集「観察」からの一篇。原文は改行の前半・後半で1センテンスずつの計2センテンスで構成されている。多少読みづらいが、本文では折衷的にセンテンスを区切った。内容自体はシンプルなので、本文のぎこちなさは大目にみてください。
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『独身者の不幸』

独身でいることはつらいものらしい-いい歳をしてひとりきりの晩を過ごしたくないために人に頭をさげなければならず、病気になってもひとりきりのベッドで何週間も部屋の中を眺める。いつも門の前で人と別れて、妻と並んで階段を上がったことなど一度もない。隣の部屋に通じるドアはあるが他人の部屋でしかなく、毎日夕食を手に提げて帰宅し、他人の子供の姿に「私には子供はいない」と釈明し、いつの間にか、自分が若い頃見かけた独身男たちに似ていると感じることは。
それはわれわれが生きている限り仕方のないことだ。昨日の自分が今日の自分でもあるならば。-だから人は自分の額をピシャリと叩いてみるしかなくなる。
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写真を見るとけっこう二枚目なんでモテたんじゃないかと思うが。実際、同じ女性と2度婚約して2度とも破棄し、人妻と実に長い間文通恋愛をしている。この小品もどこまで本気でどこまでおとぼけかちょっと真意が読めないところがある。カフカの実力は三大長篇にあるが、こんな変な小品にもどこか謎めいたところがある。
ぼくはこの小品を独身時代から愛読していた。結婚したが、今はまた独身に戻った。その意味でも引っ掛かる一篇です。