人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

別れた次女との通話

イメージ 1

(「伯母からの年賀状」の続き)
父の逝去はいつ頃か伯母からの年賀状だけからは推察しかできないが、「連絡まだですか」と言うには葬儀を済ませ、火葬も終え、教会の共同墓地の納骨式は春・秋の二回だから微妙だが、おそらく相続処理まで遺族の仕事は全部済ませてから連絡する、という話だったのだろう。元々ぼくは相続放棄するつもりだったからどうでもいい。
高校生の頃亡くした母は家を建てた時から44歳で事故死した晩年まで「和ちゃんはお嫁さんをもらってもずっと一緒に住んでね」というのが口癖だった(弟ではなく)。だが世界は物故者ではなくまだ生きている人間のものだ。

一昨年最後に実家を訪ね父の衰弱ぶりを見て、別れた妻に報告してから、ぼくは頻繁に父・妻と同居する夢を見るようになった。
「それはつらいですね」
訪問看護のアベさん。「佐伯さん、いつもそういう夢を見ると落ち込むでしょう?」
「いやそれが」とぼく、「目が醒めるとスッキリするんですよ。やった、ばんざい!おれは一人暮らしだ、って」
「それはまたなんで?」
「…もしかしたら願望かもしれないし、願望の逆かもしれませんが、自分がひとりだと判るとほっとするんです。ぼくは誰の世話もせず、誰にも面倒かけず療養に専念していられる。葬儀に呼ばれず、知らされすらしなかったのも本当に何とも思っていないんです」

アベさんが来る前に別れた妻のところに電話をかけた。葬儀は出ないが知らせは欲しいと言われていた。もう四日だから妻は仕事、中二の長女は部活、小五の次女は学童だろう。留守電に用件だけ入れておくのがちょうどいい。
だが思いもかけず娘が出た。長女?次女?「お父さんです。ママに伝えてほしいことがあるんだけど」
「うん。ちょっと待って」とメモの用意をする様子。どっちだろう?
「お姉ちゃん?アヤちゃんかい?」
「アヤネだよ」
「そうか。今日は学童は行かないの?」
「ひとりで留守番」
「そうか」
別れた時は六歳、最後に電話で話したのも四年前になる。別れた時の長女よりも歳上になる。おじいちゃんが亡くなりました、もうお葬式も済ませました。
「うん。ママに伝える」
「お姉ちゃんにもね」
「うん」
2分24秒。ビーチ・ボーイズのように簡潔だ。次女は訊かれたこと以外、自分からは(気が向いた時しか)喋らない。当然何の感想もなかった。