人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

飯島耕一詩集「他人の空」1958

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戦後詩の第2世代というべき作風を見事に結晶させたのは飯島耕一(1930-)の第一詩集「他人の空」1953で、早熟だったこの詩人は同世代の誰よりも早く、中原中也を思わせる優れた直観力で少年の感性を残したまま、敗戦後の内面的空虚を形象化してみせた。詩集表題作を含む短詩5篇をご紹介する。
*
『他人の空』

鳥たちが帰って来た。
地の黒い割れ目をついばんた。
見慣れない屋根の上を
上ったり下ったりしていた。
それは途方に暮れているように見えた。

空は石を食ったように頭をかかえている。
物思いにふけっている。
もう流れ出すこともなかったので、血は空に
他人のようにめぐっている。
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『空』

空が僕らの上にあった年。
目がさめるととつぜん真夏がやって来た年。
汗ばんだ雨傘をサーカスのように
ふりまわした年。
砂くちばしのように
空が垂れ下がったり拡がったりしはじめた年。
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『切り抜かれた空』

彼女は僕の見たことのない空を
蔵い込んでいる。
記憶の中の
幾枚かの切り抜かれた空。

時々階段を上って来て
大事そうに
一枚一枚を手渡してくれる。
空には一つの沼があって
そこには
いろいろなものが棲んでいると云う。

そこに一度きりしか通過したことのない
小さな木造の駅があって、
草履袋をもった
小学生が
しゃがんでいたりする。

ついで彼女は
失くしてしまった空の方に
もっと澄んだのがあったとも云った。
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『探す』

おまえの探している場所に
僕はいないだろう。
僕の探している場所に
おまえはいないだろう。

この広い空間で
まちがいなく出会うためには、
一つしか途はない。
その途についてすでにおまえは考えはじめている。
*
『途』

やがて僕らも一つの音をききわける。
器物のふれあうかすかな音のなかに。
風の歩み去る音、
水を漕ぎわける櫂が作る音のなかに、
僕らの内なる音のなかに。

そのなかに一つの途を探す。
そこに一人の女の顔を探す。
途は数知れずある。
けれども僕らの選んだ途が一つであるように。
(書肆ユリイカ・1953)