人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出59

イメージ 1

・3月23日(火)曇り
(前回から続く)
「プログラムが任意なのでほとんどの人が自室に引っ込んで本でも読んでいるか寝ているかしているのだろう。いつも元気なお照さんも横になるわ、と引っ込んで、結局グループ散歩(今日は誘われたら応じるつもりだった)は取り止めになる。一般精神科入院には学習はないので、お照さんは明日から二泊三日(これはさびしい)、HAも明日から二泊三日(これはありがたい)。昼食までの時間に日記でもつけておこうか、と喫煙室から戻る途中で、HAがひとりで入っている三床部屋の前に移室用のワゴンが停まっているのに気がつく。Mt某と女名前の名札がぶら下がっているのを見るまでもなく、HAと同室なのだから女性だろう。一般精神科なのかアルコール科かはわからない。一般科のSmくんやKくんも、アルコール科のMさんやうちの四人部屋に同居している」

「以下昼食後記。Mtさんはでっぷり太った50代の既婚女性だった(注1)。MtさんはついこないだまでKmさんの座っていた席についた。昼食の中華丼は貧弱だったが食べやすくて助かった。食後にKくんと一服していると、あいさつひとつせず入ってきて喫い始めた。誰のことも相手にせず、誰からも相手にされない有閑マダムという風情だ(注2)。午後は四日ぶりのラジオ体操と掃除、14時からの学習(必須)は栄養教室で、今日の題目は『高血圧の食餌療法』だった」

「ここまで書いて一服してくると、おばさまたちと雑談していたKくんが廊下の物音に気づいて、来たぞ。男性患者二人の背中が見える。自室に戻り際、真向かいの部屋をちらっと見ると看護婦が説明しているところだった。一服しようぜ、とKくん。してきたばかりだが、喫煙室で話したいことがあるのだろう。案の定第三は5床空いてるだの、今日中にまとめて三人移ってくるだの、おれは絶対動かないぞ。せっかく第二に馴染んだのに」

「一方Smくんのように第二は二時間ごとに起されて面倒くさい(彼は食事時間以外はほとんど寝ている)、という一般精神科入院者もいる。やはりこの病院の患者混交システムはあまりに場当たり的に思える」
(続く)

(注1)以後このMtさんは徐々に騒ぎと苦笑を引き起こしていく。
(注2)この観察は間違っていた。この人はただ頭が悪くてボケているだけで、善良な女性だった。