人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出61

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・3月23日(火)曇り
(前回から続く)
「少なくともAtさんもYnさんも同室で不服はない、という様子は嬉しい。お二人ももの静かで、格別親しくする必要はないまでも友好的でありたい。引き合いに出して悪いが、Kくんは何かと騒々しいし、彼自身もAtさんたちを苦手にしている。Atさんはヤクルトに添えてスティックパンを一本くれる(注1)。Kくんがまた喫煙室に呼び出しに来る。今度は第三病棟から四人降りてくる、またはもう移ってきた二人を併せて四人とか、Kくんの性格や立場(一般精神科入院なのにアルコール科病棟にいる。でも住み馴れてしまったので動きたくない)はわかるが一緒に振りまわされてはたまらない。結局今日降りてきたのは合計三人だとわかったのは二、三度Kくんに呼び出されてからだったが、なんでいちいち呼び出されて話相手にならねばならないのかというと、放っておくとどこまで暴走するかわからないからだ(注2)」

「その何度目かの喫煙室の時、面会室から出てきたMtさんのお母さんらしき人がていねいな物腰で一服しに入ってくる。Mtさんが60歳前後だから若く見積っても80代前半だろうが、上品で背筋もしっかりして穏やかな表情をしている。立派なものだ。自分が独り者で入院中の面会者など誰もいないのは気にならないが、ご家族がいる方の面会風景が目に入ると、なぜあんなに優しそうなご家族がいるのに、とショックすら覚えることが多い。もしトルストイの定義が真実なら(注3)なぜどのご家族も幸せそうに見えるのだろうか」

喫煙室から出て時計を見ると、もう17時を回っている。一番風呂のHsさんが洗面器を持って歩いてくる。Hsさんは誰とも話さない人だから、入れ違いに入ろうとしばらく待って入浴。今日の体重は全裸でついに60kg達成(注4)!」
(続く)

(注1)後でわかるが、Atさんは言語障害があるので退院ノルマの学習発表の原稿作成・朗読発表の作成協力者兼代理朗読者を探していた。それで白羽の矢が立った、ということになる。
(注2)「あなたは優しすぎる。その優しさがもっと大きな悲しみを呼ぶこともあるのよ」(「魔法少女まどか☆マギカ」第5話)
(注3)「幸福な家庭は似通っているが、不幸な家庭はさまざまである」(「アンナ・カレーニナ」冒頭)
(注4)現在68kg。痩せろと内科で言われている。