・3月25日(木)雨
(前回から続く)
「γ-GTPはよく喫煙室で話題になる。男の酒量自慢はアル中治療を目的に入院していてもあって、三桁ならいいよ、おれなんか1500まで行ったぜ、と誰かの問診ごとに交される。さて、中性脂肪は今回は分析されていないが前回186(36~149が基準値)なのでγと連動しているなら下がっているだろう。尿酸がやや高めで7.6(基準値3.6~7.0)。入院直後の6.6より高いが病院食しか食べていないから食生活に問題あるまい。入院当日(3/2)の検査ではGOT370(基準値8~38)、GPT121(基準値6~40)、γ-GPTに至っては1176(基準値男性80以下女性30以下)あった。それに較べればこの三週間で劇的に改善した(注1)。そうか、おれもγ-GPT四桁男だったのか」
「では尿酸値はしばらく様子見、軽い便秘を相談して軽い下剤を処方してもらうことになる。帰宅外泊の許可は診察の時なら即決できるし二、三日前に看護婦に申請しても可、とのこと。とりあえず来月分まで家賃は前納してあり、ゴールデンバットも現地調達できるし、手持ちの現金は十分あり、買い食いの習慣もなく生活用品も最小限で済ませているので来月末までは帰宅外泊(五月分の家賃納付と煙草代、交通費の補填)の必要はない。音楽聴きたいなあ、たまには一人になりたいなあ、なんでもいいから読書や作文したいなあと思うかというと、これまで入院した精神病院では望めなかった六畳ほどの貧弱な(などと言ってはいけない)図書室があり、ベッド周りのカーテンを引き日記を書くのに集中している時はたっぷり一人の時間を味わえる。音楽は、20代半ばまでは一日聴けないと禁断症状を起した。聴きたくても手段がまったくなかったのは足かけ四か月の務所暮しの時だ。出所してすぐ中古盤で買ったCDは『時代は変る』と『ペット・サウンズ』だった。別れた妻から送ってもらえるあてなどなかったからだ」
「問診に同席したIi看護婦に(注2)、Kさんと一緒で大丈夫ですか?と訊かれる。大丈夫ですよ、疲れたら適当に距離を置いていますから。HA同様Kくんも病棟のトラブルメーカーと目されているようだ」(続く)
(注1)現在中性脂肪108、GOT21、GPT13、γ-GPT23。
(注2)精神科で看護婦の同席は珍しい。