人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記132

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・4月3日(土)晴れ
(前回から続く)
「でもお照さんは冗談言ってる顔じゃなかった、とKくんが真面目に訴えるからにはそうなのだろうと思うが、Uzさんはあっさりと、お照さんはいつでもああいう顔よ。なるほど女性が女性に向ける観察力は鋭い。言われてみれば冗談を言っているお照さんの顔は想像できない。だからといって真面目な顔をして軽口をたたくお照さん、という姿も想像がつかず、真面目な顔をしてそんなことを言われたらKくんが真に受けるのももっともではある。だから軽い冗談よ。本気にしなくていいのかな。訊かれてもわからないよ。この話はお照さんには(唇に指を立てて)絶対、頼むよ」

「いつもはなにかと佐伯くんはモテていいな、とぼやいている割に、いざ自分が女性からアプローチされると困惑してしまうらしい。モテたっていい事ないぞ、と毎回答えてきたが、今回はどんなものだろう。入院中は男女交際など考えたくもないのが普通だと思うが(退院後はともかく。院内ミーティングのソバージュ女性と連絡先を交換できたら、退院後に交際に発展する可能性はあるかもしれない)、これでKくんもわかっただろうか、と考えるとたぶんあまりそこまでは考えていない。ややこしい話だがKくんは入院患者同士では女性を相手にしてもくつろいだ女友達でいられるのだが、そういう時の彼は案外謙虚で礼儀正しい。だが過去二回の離婚経験について男同士で打ち明ける時の彼は猛烈な女性不信と女性憎悪に駆られているとしか思えない。早い話、女性とのプライヴェートな関係では痛い目にばかりあっているのだが、二度の結婚が二度とも馴染みの風俗嬢の水揚げでは、女なんて金目当てさ、などと言う方が野暮だろう。金で買った結婚相手なのだから」

「まさかお照さんを金目当てと思っているわけではなかろうが、いつかSmくんが得意げなKくんと連れ立って部屋を出てきてぐったりと、ショックで当分立ち直れない…。どうしたの?Kさんの別れた奥さんたちの写真見せられちゃったんですよ。要するに、さすが水揚げしてきただけあるゴージャスな娼婦上がりの美女だったらしい。それがKくんの好みなら、お照さんに迫られて困ったのは単に女の好みかもしれない。入院中の女性患者はほとんど化粧していないし、着回しが利くように服装も質素で、お照さんもその例にもれない。なんともはや」(続く)