人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記167

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(人名はすべて仮名です)
・4月8日(木)晴れ
(前回から続く)
「AAの人たちが帰ると、後かたづけも手早く済ませてみんな喫煙室に殺到、今日の灰皿掃除の当番は梅崎さんだから午後一時の掃除はいいタイミングでかたづいたが、いつもは晩八時の灰皿掃除は講演会が重なり、その上講演会の後で喫煙者が押し掛けたから、全員が一巡してから、ということにしてわれわれのテーブル一同でかたづけた。うちのテーブルは仲が良いというか、勝浦くんは偏ったところで妙に義侠心が強く、好感を持っているかハンディキャップがある人の手伝いは佐伯くん手伝おうぜ、と毎回他人を巻き込んで積極的にやる」

「ただし好意を持っていない相手、たとえば羽田有紗とかは放っておくし、坂部はいつも人一倍張り切っているから手伝う必要はないとしても、うちのテーブルで一人だけ誰も相手にしない、まああんな前科があっては当然で女性たちからも忌み嫌われているが、車椅子の河出など嫌いだからしない。河出には女性の体の線をじろじろ眺めて嫌がられると悦に入る、一種痴漢めいた性癖もある」

「河出のことは置いておいても、そういう意味では勝浦くんの行動原理は単純明快で、さすが大工の息子だけある。キリストのことではなくて、ヨセフは大工と訳されているが現代の聖書研究では小間物職人が正しいとされる。勝浦くん自身が言うように正統的な日本の大工気質(どんな?)だ。ただ、良い面で几帳面な性格でもあるから、科学者としては有能だったろうし彼が大工なら信頼できる仕事をしてくれるとも思う。それも向き不向きがあって、これから勉強すりゃ精神科医になれるかな、と言い出した時には滝口さんと顔を見合せた。傲慢というより勝浦くんが良い精神科医になるとはまるで思えないからだ。彼は精神科医に患者が求める人間的な包容力には欠ける」

「喫煙を済ませてしまうと誰もが疲れ気味で、窓口渡しの就寝前薬の時間を待ちかねるように服薬を済ませてさっさと自室に引き上げる。喫煙室で羽田有紗が冬村さんに、私がいちばん先にお風呂に入ったから疑われるかもしれないけど鍵を開けたヘルパーさんが何もないって確かめた後でしょ?すると冬村さんが、三田さんがシガレット・ケースがないって気づいたのは入浴前らしいよ。結局脱衣場で何かあったのではなかったのだ。これが花祭の日のオチか?」