人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(15)

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そういえばパパ、食事の前に飲み物頼んでなかったっけ?と偽ムーミンはとぼけてカマをかけました。急いで物置部屋でムーミンと入れ替ってきたので、細かいことまでは訊くのを失念していたのです。見たところテーブルにはそれらしきものはありません。
こういう場合子供はコーラかオレンジジュースと決っていますので、偽ムーミンはコーラもオレンジジュースも嫌いでしたからウーロン茶、またはアイスコーヒーにするんだぞ、とムーミンを脅しておきましたが、どうも裏山のニョロニョロ池から汲んできたような緑がかった水をたたえたコップしかありません。
頼んでないのかな?だったら、それはそれで仕方ないや、と偽ムーミンはしぶしぶやはりニョロニョロくさいコップの水を飲もうとしたところ、
待ったムーミン
ムーミンパパが偽ムーミンを制止しました。偽ムーミンは一瞬自分が正体のばれるようなことをしたかとギクッとし、心臓が肋骨に激突しました。
な、なあにパパ。
老いては子に従えとは昔の人はよく言ったものだ、とムーミンパパは偽ムーミンアホ毛をなんとなく見つめながら、しみじみと言いました。お前に言われるまで食前の飲み物のことなどすっかり忘れておったぞ。なにしろレストランなど子の親になってからはすっかり足が遠のいてしまったからなあ。
えっ?と偽ムーミンは演技ではなく本当に驚いて、昔はムーミン谷にレストランなんてあったの?
ムーミンママは嫌そうな顔をしてムーミンパパに肘を突きました。ああ、とムーミンパパ。簡単に言おう、それはそれは不味いレストランが一軒だけあった。その店の名は…。
ムーミンパパが口にしかけると、店のすべてのテーブルからムーミン谷の人びとの、
・それは言うなオーラ
―がずどん、とムーミンパパの頭上にのしかかりました。うわあ。どうしたのパパ。簡単に言う。ママに包丁を持たせると危険な晩などはレストランにも行ったものだ。だが、
ムーミンパパはようやく呼吸を整えながら、お前が生まれ、われわれが行かなくなるとレストランは店を畳んでしまった。ざまあみろだ。とにかく私が言いたいことは、だ、息子に言われるまで食前酒も頼むのを忘れたようでは(中略)、
私はレモネード。
ぼくはアイスコーヒー。
私は黒ビール。よしよし、なんだか食事っぽくなってきたではないか。