人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記220

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(人名はすべて仮名です)
・5月12日(水)小雨のち晴れ
(前回より続く)
「避難にはそれなりに用意をしている人もいて、中西さんはハンカチで口と鼻を押さえ、尾崎さんと大芝くんはタオルを防塵マスクにして気分を出していた。降谷智子は枕を抱えていたのでまた駐車場で寝るつもりかと突っ込まれてながら、みんな中庭駐車場に整列。先頭だった坂部が『第二』と貼り紙のしてあるバドミントンのラケットを掲げて列の頭に立たされていたのが妙におかしかった。午後からは晴天だったのが、なによりだ」

「第一病棟、第二病棟、第三病棟の患者と全職員合わせてこんなにいるのか、というくらいの人だかりだった。お花見遠足の時も市民会館のホールのような建物で食事したのだが、もっと少なかった。お花見不可の入院患者も大勢いた、ということだ。みんな静かにしているので、検査の時に見かけた第一病棟か第三病棟の幼女退行患者がこわいよう、こわいよう、と本気で怯え、付き添いの看護婦が二人がかりで大丈夫よ、これは訓練で本当じゃないのよとなだめているのが耳に入ってきた。検査の時にも思ったが、彼女にとって入院生活はわけのわからないこわいことでいっぱいなのだ。いや、生きている世界全部がそうなのだ」

「それでは副院長からお話があります、と誰からも不人気の副院長が訓練の意義と成果を述べ、反対側に立つ院長にこれでいいでしょうか、と確認する。職員全員一本線なのに、と勝浦くん、院長だけ特別に赤のライン二本線のヘルメットかぶってるぜ。ああ、おれも気づいたよ。自然解散になり、煙草を持ち歩いていた患者もかなりいて、駐車場脇の喫煙所は人だかりになる。持ってきていない人も持ってきた人から一本借りるからだ」

「やる気になんかなんないよな、と誰もが話していたが、『薬剤教室』は二時50分から始まる。終了三時40分、洗面器を持って風呂場に行くと、先にアルコール科ではない勝浦くんと小林くんが入っていた。点呼が四時だから間に合うように手早く入る。まだ夕食まで二時間もあるなあ、と勝浦くんともども部屋でだらだらしていたら、婦長がやってきて薬剤教室の提出ノートを返し、佐伯さん、勝浦さんが17日に退院してこの部屋ひとりになっても大丈夫?大丈夫です、先生から明日の診察で退院日を決める、と先週言われました。そうなの?」(続く)