人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(58)

 体を拭いて着替えさせた女の子をひとまずソファーに寝かせて、私たちは暖炉の前に簡易ベッドを組み立てました。寝室のベッドの方が立派出で寝心地も良いのですが、私たちの寝室にはどちらも部屋全体を暖かくするだけの暖房がないのです。まずはこの子の冷えきった体を、十分に暖めることが先決でしょう。
 私たちはまだ第二次性徴期にもならない少女の体を手分けして拭きました。髪はかなり長く、タオルでしっかり拭いてからブラッシングしてドライヤーをかけましたが、嵐に打たれた髪はなかなか乾きませんでした。傘も持たずに来たんだ、と私は呟きました。そうだね、空が崩れてからもう半日以上になる。この子は雨具もなしに嵐の中をやって来たんだ。いったい何があったんだろう?
 私は毛布を取って戻ってきました。着替えは冬の客用パジャマでいいが下着はどうしよう?見映えは悪いけど、縮んじゃったTシャツがあったよね。下は?確か親戚の女の子が泊まりに来た時忘れて行ったのがある。まだ返してなかったのか、と私は呆れました。洗いはしたけど返しづらいじゃないか。でもこんな時に役に立つとはなあ。
 ついでにお湯を沸かしてくるよ、と私は下着とパジャマを取りに行きました。まず台所に寄って一番大きなヤカンにお湯を沸かし、その間に下着とパジャマを居間に届けてきました。それから浴室から湯桶を持ってきて、ヤカンと湯桶をぶら下げて居間に戻りました。何だか大掛かりになってきたな、と私は言いました。でもこのままじゃ寒いだろ、と私は湯桶にお湯を張りました。
 私は熱いおしぼりを作ると、なるべく毛布から体が出ないようにしながら女の子の体を拭き始めました。暖まればいいけど、とおしぼりが冷めては湯桶で熱くし、お湯が冷めれば足し湯をして両足(脚)、両腕、背中、と心臓から遠い箇所から摩擦していきました。ところで、この子はどこから失血していたの?
 それがわからないんだ、と私は少女の体を支えながら、部屋に入れた時は確かに血がついていた。かなりの量らしいのは体の冷え具合から想像がつく。でも気づいたかい?濡れた体を乾いたタオルで拭くと、やはり確かに血はついたが、傷らしき箇所は見当たらない。これはいったいどういうことなんだろうか?
 もしかしたら体が冷たいのは単に嵐の中を濡れてきたからで、と私は思いました、傷がないからには血は彼女の血液ではないからかもしれない。つまりこれは……