人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

6月~8月に観た映画・感想文2

 前回(9月15日)に載せたリストの感想編第2回です。6月~8月に観た映画60本ほどのうち(大半は観直した作品ですが)前回は30本、簡単な感想を書きました。作品名のみ再度掲載します。たまたま日本映画は劇場版アニメの近作しか観ませんでした。

[ 日本の近作劇場版アニメーション ]
岸誠二『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC(アルペジオ・パートナーズ/ショウゲート'2015)
岸誠二『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza(アルペジオ・パートナーズ/ショウゲート'2015)
山田尚子映画けいおん!(京都アニメーション=映画『けいおん!』制作委員会/松竹'2011)
山田尚子たまこラブストーリー(京都アニメーション=『たまこラブストーリー』制作委員会/松竹'2014)
水島努ガールズ&パンツァー劇場版』(アクタス=バンダイビジュアル/ショウゲート'2015)
本郷みつる映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'96)
原恵一映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'97)
原恵一『映画クレヨンしんちゃん 電撃!?ブタのヒヅメ大作戦』(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'98)
大塚隆史『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』(東映アニメーション/東映'2009)
志水淳児『映画プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』(東映アニメーション/東映'2012)
伊藤尚往『映画ドキドキ!プリキュア マナ結婚!?未来につなぐ希望のドレス』(東映アニメーション/東映'2013)
今千秋『映画ハピネスチャージプリキュア!人形の国バレリーナ(東映アニメーション/東映'2014)

[ サイレント古典映画 ]
D・W・グリフィス国民の創生』(アメリカ'15)
イントレランス(アメリカ'16)
エーリッヒ・フォン・シュトロハイム『愚なる妻』(アメリカ'22)
『グリード』(アメリカ'24)
アベル・ガンス『ナポレオン』(フランス'27)

[ アメリカ30's~40's映画 ]
ジョン・フォード駅馬車(アメリカ'39)
ハワード・ホークス『コンドル』(アメリカ'39)
オーソン・ウェルズ『ザ・ストレンジャー(アメリカ'46)
ジャン・ルノワール浜辺の女(アメリカ'47)

[ フランス古典インディーズ映画 ]
ジャン・ヴィゴ『新学期 操行ゼロ』(フランス'33)
ロベール・ブレッソン罪の天使たち(フランス'43)
『ブーローニュの森の貴婦人たち』(フランス'45)
田舎司祭の日記(フランス'50)
『抵抗』(フランス'56)
『スリ』(フランス'59)
ジャンヌ・ダルク裁判(フランス'62)
バルタザールどこへ行く(フランス'66)
少女ムシェット(フランス'67)

上記については感想文1で書きましたので、今回は残り約30本です。

[ イタリア/フランス戦後映画 ] 
ミケランジェロ・アントニオーニ『さすらい』(イタリア'57)
『情事』(イタリア'60)
『太陽はひとりぼっち』(イタリア'62)
アラン・レネ『夜と霧』(フランス'55)
二十四時間の情事(フランス'59)
去年マリエンバートで(フランス'61)
●国籍の違うアントニオーニとレネを同じ括りにしているのはキネマ旬報『世界の映画作家第5巻・アントニオーニ/レネ』(1970年刊)でもそうで、商業映画からこれほど実験的な作品が現れたのはリアリズムの作家より時代的思潮を感じる。第2次大戦前には現れなかったタイプの発想で作られた映画でしょう。ただし作風は対照的で、計算づくのレネに対してアントニオーニは何も考えてなさそうなのがすごい。

[ カイエ派ヌーヴェル・ヴァーグ ]
ジャック・リヴェット『パリはわれらのもの』(フランス'61)
『修道女』(フランス'66)
『アウト・ワン : スペクトル』(フランス'72)
●映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」出身の監督で一番早く短編デビューし、一番出世が遅れたのがこの人。『修道女』は日本盤が出ているが『パリは~』と『アウト・ワン』は海外盤DVDしかない。リヴェットの映画は大体謎だらけの事件が謎だらけのまま終わるというもので、長編デビュー作『パリは~』(2時間半)からスタイルが確立されている。『アウト・ワン : スペクトル』(4時間半)は伝説的大作の長編第5作『アウト・ワン』1971(13時間)の短縮版で、リヴェットは今年1月に亡くなったから生前のうちに全作品のDVD化完了と再評価が進んで良かった。実はまだDVDボックスの13時間版『アウト・ワン』観ておらず、ブックレット読むとオリジナルと短縮版ではかなり違いがあるみたい。作品としては割とストレートな『修道女』より『パリは~』と『アウト・ワン : スペクトル』の方が断然面白かったです。
ジャン=リュック・ゴダール勝手にしやがれ(フランス'60)
『小さな兵隊』(フランス'63)
『女は女である』(フランス/イタリア'61)
女と男のいる舗道(フランス'62)
『カラビニエ』(フランス/イタリア'63)
『軽蔑』(イタリア/フランス'63)
『はなればなれに』(フランス'64)
『恋人のいる時間』(フランス'64)
アルファヴィル(フランス/イタリア'64)
気狂いピエロ(フランス/イタリア'65)
『男性・女性』(フランス/スウェーデン'66)
メイド・イン・USA(フランス'66)
彼女について私が知っている二、三の事柄(フランス'67)
『中国女』(フランス'67)
『ウイークエンド』(フランス'67)
●学生時代に『勝手にしやがれ』と『気狂いピエロ』のリヴァイヴァル2本立てを有楽シネマで観てからゴダールだけは別格だった。今回初期長編14作を一気に観て(『はなればなれに』のみ初見。いまいち)、『女は女である』はやっぱり面白くないな、『恋人のいる時間』はアントニオーニやレネならもっと鋭いな、『勝手に~』と『ピエロ』も冗漫なシークエンスが目につくな、と思いながら凡作だと思っていた『軽蔑』や『男性・女性』が案外良かったりして、『女と男のいる舗道』と『彼女について私が知っている二、三の事柄』はまだ印象が変わるかもしれないな、と思いました。少なくとも今回観直してゴダールが別格ではなくなったのを痛感したのは予想通りです。

[ ニュー・ジャーマン・シネマ ]
ヴェルナー・シュレーター『アイカ・カタパ』(西ドイツ'69)
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『愛は死より冷酷』(西ドイツ'69)
ハンス=ユルゲン・ジーバーベルク『ヒトラーまたはドイツ映画』(西ドイツ'77)第1部
●『アイカ・カタパ』は伝説的なインディーズのゲイ・ムーヴィーで、盟友ファスビンダーに「いつか映画史上のノヴァーリスロートレアモンと認められるだろう」と絶讃されたシュレーター(1987年に日本で初特集上映)の第1長編。ファスビンダーが「シュレーターのパクリ、泥棒成金」と口を究めて罵った70年代ドイツ映画の国際的話題作が『ヒトラーまたはドイツ映画』(全4部・7時間半)で、手法的には確かにパクリっぽいがドイツ現代史をインチキ臭くなぞる内容はシュレーターとは違う面白さもある。ただし第1部だけで堪能してしまった気になるくどさもありますが。英語字幕なしのドイツ語版なら、You TubeでHans-Jurgen Syberbergで検索すれば全4部・7時間半全編観られます(輸入盤DVDでは英語字幕つきあり)。

[ 70年代以降のインディーズ映画 ]
シャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(ベルギー/フランス'75)
テレンス・デイヴィス『テレンス・デイヴィス3部作(「子供たち」'76/「マドンナと子供」'80/「死と変容」'83)』(イギリス'76-'83)
●『ジャンヌ・ディエルマン~』(1987年に日本で初特集上映)は2015年秋に逝去(自殺)した70年代以降最高の女性映画作家の第2長編で3時間の大作ながら、ミニマリズム的手法で3日間の主婦の日常生活を描いたフェミニズム映画の画期的作品とされ、「ヴィレッジ・ヴォイス」紙が2000年に選出した「20世紀の映画ベスト100」で並みいるメジャー作品を押さえて19位にランクされました。アケルマンは女性のゲイ映画作家ですがテレンス・デイヴィスはリヴァプール育ちでイギリス労働者階級のゲイ映画作家で、『3部作』は少年時代から老齢の死までを描いた(中年以降は創作ですが)自伝的作品。この「3部作」は1987年にブリティッシュ・カウンシルで日本初上映され、翌1988年の長編第1作『遠い声、静かな暮らし』(翌年日本公開)は「タイム・アウト」誌のイギリス映画ベスト100リストで3位(1位/ニコラス・ローグ『赤い影』1973、2位/キャロル・リード『第三の男』1949、4位/ケン・ローチ『ケス』1969、5位/パウエル&プレスバーガー『赤い靴』1948)と、本国また欧米での評価は非常に高いようです。ゴダールも『遠い声、静かな暮らし』を「80年代イギリス映画唯一の収穫」と絶讃していますが、デイヴィス(1945年生まれ)もアケルマン(1950-2015)も『遠い声~』、『ジャンヌ・ディエルマン~』が必ずしも最高傑作ではないのではないか、と思います。ヴィム・ヴェンダースジム・ジャームッシュガス・ヴァン・サントらの声価が定まり、アキ・カウリスマキウェス・アンダーソンの紹介が進んだ間に、わずかな日本公開作も注目されそびれたインディーズ出身映画作家の代表格でしょう。ただ、ヴェルナー・シュレーター(1945-2010)同様デイヴィスやアケルマンもゲイとしての社会的自意識が作風に反映していて、平均的な日本社会のジェンダー意識では共感が難しい映画作家かもしれません。