人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・偽ムーミン谷のレストラン(61)

 第7章。
 ところで、とスナフキンは唐突に尋ねられました。思い出したようにしかわれわれの話が続かないのはなぜかね?
 さあ、とスナフキンは返答に窮しました。そして一瞬考えて、努力が足りないんじゃないですかね、と答えました。口にした直後すぐにこれではわざとあいまいに答えた当てこすりみたいに聞こえはしなかったか心配になりましたが、ここで慌てて言葉をつけ足すとかえって鬼に金棒、じゃなくてやぶへびかもしれません。スナフキンはやぶなら知っていますがヘビという動物は本でしか見たことがありませんでした。ヘビは背中に羽根(ですがあの体型では背中とはどこを指すのでしょうか?)を生やしている時もあれば、木の下でにやにやしている(しかしあの顔でヘビに表情といえるものがあるのでしょうか?)時もありました。つまりヘビとは実在する動物というよりも実在する動物をもとにした空想上の生き物であり、とどのつまりはトロールたちと同じ種類の存在なのではないかと思われました。その存在はこの世に実体が見いだせるものではなく、どこにいるかというとヘビというものを知った者の頭の中にいるのです。ただしそれには脳髄という知覚器官を備えた脊椎動物であることが条件なので、トロールのようなどこで斬っても均一な、脊椎どころか内臓や循環器系もありはしない、文字どおり血の一滴も通わない精霊的存在には認識しようもないはずなので、ここで重大な設定上の無理に突き当たります。ならばトロールトロール同士を知覚できないはずになるからです。
 ムーミン谷の秘密に近づいたような気がする、とスナフキンは思いました。しかもかなり核心に近い部分だ、とスナフキンは思い、背後からグサッと刃物を突き刺されたような気がしました。単刀直入とはこういうことかもしれません。これが相当やばい事態なのは、スナフキンが事実上の監禁状態を科せられていることからも推察されることでした。知りすぎてしまった立場に置かれるとこういうハメになる、とは疑わしきは罰せよと同じ次元で世の常です。だがおれがやり玉に上げられるのも仕方ないことなのだ、と冷静にスナフキンは考え、腹痛に教われました。スナフキンは免疫系が弱く、少し何かあると感染性胃腸炎になるのです。
 思い出したようにしか続かないのは、とスナフキンは苦しまぎれに言いました、忘れてしまいたいからなんじゃないでしょうか。
 忘れるって何を?