このボールを買ってもらった時、子どもたちはどんなに喜んだでしょう。お風呂に入れて笑われ、部屋で蹴飛ばし叱られ、友だちのように話しかけ、一緒に布団で眠る姿に父母は親ならではの喜びを感じたはずです。外で遊んだあとは大事に持ち帰り、毎日をアンパンマンのボールと過ごすうち、子どもの興味はもっと別の遊びに移っていったでしょう。やがてアンパンマンのボールはそれほど大事なものではなくなり、置きざりにしてもかまわないものになりました。まだ若い父母もそれを気にかけず、子どもにボールに代わるものを与えるでしょう。ボールは思い出の形見のように雨風にさらされて、やがてマンションの管理人か清掃業者が処分するでしょう。そして思いを馳せるのは、ぼくのような通りすがりの人間だけなのかもしれません。