人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

「眠れる森」第1章(続)

次女は姉とパパの親愛感にも嫉妬を抱いていたが、ママの観察通り一にお姉ちゃん、二にママ、三にパパだったので姉とはとても仲のよい姉妹だった。性格は対照的だったがそれがかえって良かったのだろう。娘たちが通う保育園ではふたりっ子が多く、親睦会ではよくこの話題になった。ひとり目はおっとりで甘えん坊なのにふたり目は目付きが鋭くて自立心旺盛、同じように育てたのに何でかしら?大学の一般教養の発達心理学でも特にこの件は出なかった。
次女を授かった時に長女の掛かり付けの小児科医のアキコ先生(やはり二女児の母)から切々と、
「お姉ちゃんを大事にしてあげてね」
と助言があったからだろうか。第二子だと既に乳児の育児経験もあり、着替えやオムツ替え、ミルクや入浴も慣れて、長女の時には夫婦揃ってくたくたになった寝かしつけも楽だった。二歳半上の長女も妹には保護者だった。その上長女に世話の焼ける時には妹は当然のような顔をして待ってくれていた。
ぼくは在宅の職業だったから、長女を保育園に送り出して育児休暇中の妻と昼下がり、乳児がすやすや眠る姿を見ながら、
「ひとり目は嬉しかったけど大変、でもふたり目は本当に可愛いね」
「本当に可愛いわ」
妻はそういう時にはすぐに泣いた。
妻の育児休暇が終わり、次女の保育園初登園の日も忘れられない。朝はまず乳児クラスから支度するが、お迎えは次女の片付けのあとで幼児クラスに寄る。わーっと長女の同級生に取り囲まれる。女の子は全員、男の子は半数。
「赤ちゃんだ!あかねちゃんの妹なの?可愛いね!あかねちゃんにそっくりだね!」
「ねえねえ!何て名前なの!」
妻も照れたり喜んだりすると体がくねくねする女性だったが、この時の長女もそうなって、父親の腰に抱きついてきた。ぼくは言った。
「あやね、だよ。まだ赤ちゃんだからみんな優しくしてね」
この時点で、ぼくの結婚生活はのこり4年もなかった。