2007年5月23日、ぼくは逮捕された。その朝旅館を出たぼくは離婚したばかりの妻子の住むマンションに早めに着いてしまい、コンビニの弁当をエントランスで食べた。集合ポストの表札はもう妻の旧姓になっていた。ぼくはまだ引っ越し先が決って居なかった。別居中(ぼくがウィークリー・マンションに移った)に妻からの民事訴訟で離婚は決った。ぼくはせめて台所の引出しにしまってある結婚指輪(水仕事は全部ぼくがしていたから)をもらっていきたかった。だけどぼくはDV指定。60日の接近禁止。どうしたらいいんだろう？(接近禁止はウィークリー・マンションの契約終了日にぼくを向かえに来て座間の実家まで車で強制的に送った刑事に告げられた事だった。この時点でぼくは気づくべきだった)。
ぼくは住み慣れたマンションの前の電信柱に凭れてボーっとしていた。ウィークリー・マンションを出てからはホテルや旅館を渡り歩いていた。野宿もした。今夜は野宿だろう…
するとパトカーがぼくの前に停まり、警察官に乗せられ多摩警察署の留置場に入れられた。何の説明もなかった。警察官は命令しかしない。
10日の留置同意書に拇印を押させられ、何の説明もなく10日の延長同意書に拇印を押させられた頃にはぼくは監禁性障害で意識の変調をきたしていた。叫び声をあげたりコップを鉄格子に投げたりしたので1人用の檻に移つされた。壁のシミは「エレクトリック・レディランド」のジミ・ヘンドリックスと「フレッシュ」のスライに見えた。
入浴は5日に1回。昼食後に運動時間とは名ばかりの中庭での日向ぼっこで煙草が2本。本棚にはシャーロック・ホームズとアガサ・クリスティと横溝正史と何故か瀬戸内晴美、「ナニワ金融道」「美味しんぼ」「幽遊白書」しかない。
1ヵ月以上経って刑事の取り調べが始まった。藤田まこと似刑事とマツケン似刑事。マンションの前に行ったか？要はそれだけだった。藤田まこと似刑事のパソコンを打つ速度はまるで何かのリハビリのようだった。
調書が出来て横浜検察局に2度。窓の外の風景はどこか別の惑星のようだった。焼肉屋、高層マンションのベランダに翻る洗濯物…
