「入院は楽しかった」ときみは書いてた。でももういいわ、とも言っていたね。ぼくは家庭生活の末期に家庭からの避難を切望していた。それは一時的なものでも良かったんだけど、妻は離婚を決めた。たぶんそれが、ぼくたちがわかりあえた理由だ。
きみとぼくのどちらかがいなかったら、あの病棟だってたいして楽しいムードではなかったと思うよ。
きみは二人といない。ぼくは誰とも違う。ぼくたちはあの時の病棟の主役だった。
きみを部屋に招いた時には酒歴の朗読を聞いてほしいだけだった。きみが帰った後、心がからっぽになってさっそく飲み始めた。もうこれで終わりなんだ、と思った。Y病院の学習入院は林間学校みたいなものだった。里霧さんというヒロインは、その間だけぼくの前に現れたんだ。
だからぼくはグループ会も連絡網も断って、Y病院の入院生活からは足を洗って自閉症のぼくに戻りたかった。入院という状況から出たらグループといえども個人的な関係が生じる。それに耐えられないのがぼくの精神疾患なんだ。