人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

死と暴力(3・少しの愛だけでも)

タイトルはファスビンダーの映画(1974)から。以前に「死と暴力」という題目で2篇書いた。続けたかったができなかった。あえて書きたくないような記事をぼくは書こうとしている。

通りすがりの人から暴力を受けた経験が結婚生活末期に2度、出所直後に1度ある。どれも予告なしにいきなり襲いかかってきた暴力だった。
1度目は近所の大型スーパーの駐輪場だった。自転車はかなり乱雑に停めてあった。妻とぼくはそれぞれ娘たちを乗せて駐輪場に着いた。整理すれば2台とも入る。ぼくは妻と娘たちを待たせて自転車を整理し始めた。
その時いきなり固くて大きなもので後ろからつき倒された。ぼくは膝をついた。振り向くと家電品の箱を持った初老の男がいた。
「何をするんだ」とぼくは言った。男は知らぬ顔で自転車に荷物を結え始めた。「何をするんだ」と語気を強めた。男はこちらを見もせずに、
「勝手に触んな」
と言った。「それで突き飛ばしたのか?」男は無言のまま去って行った。その日の買い物は、いきなり後ろから突き飛ばされる嫌な気分が付きまとった。

2度目は年配の女性。用水路沿いのお花見の遊歩道を花見客を掻き分けながら背後からバイクで疾走してきた。娘たちをかばって夫婦で左右に逃れた。「放し飼い!」と老婆は捨て台詞まで怒鳴った。温厚な妻も激昂して「放し飼いって何よ!」
ちょっと待ってて、と妻に言い、曲がり角の信号でバイクを捕まえた。あなたにバイクに乗る資格はない、近くの交番に行きましょう。「何のことでしょう?バイクに乗れなくなると困ります」老婆はとぼけ通した。ぼくは匙を投げ、運転には注意するように言い、戻ると妻と娘たちが不安げに待っていた。
妻が何か言いかけるのを制して「注意してきたよ」とだけ言った。晩に妻は訊いてきた。こないだといい、どういうことなのかしら?
「誰も愛さず、誰にも愛されていないんだよ」と答えた。「歳をとってそうなっちゃったんだ」
「そんなことって…」
と妻は言葉を詰まらせた。それが家庭生活最後のお花見だった。

釈放されて治療を受け始めた頃、また暴行にあった。まだ自転車に乗れた頃だ。後ろから追い抜こうとしてきた初老の男が転倒しかけ、前に回り込んでぼくを転倒させ、気が済むまで殴っていった。警官や刑務官と同じ手順だった。手慣れたもんだな、とぼくは思った。