人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アガサ・クリスティーの隠れた傑作(前)

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アガサ・クリスティーには「アクロイド殺し」1926、「オリエント急行の殺人」1934、「そして誰もいなくなった」1939、そして生前発表の最終作「カーテン」(執筆1943)1975など一読したら忘れられない「意外な犯人」の設定の極めつけ作品があり、一般にはそれらが代表作となっている。上記作品に加えれば「三幕の殺人」1935、「ABC殺人事件」1935なども犯人による大胆すぎる隠蔽トリックによって強い印象を残す。

これらのうち「アクロイド殺し」などはあまりに意外な犯人の設定で喧々囂々、賛否両論の反響を呼んでクリスティー出世作となると共にベストセラーになたが、クリスティーは当時家庭問題をかかえており、一躍脚光を浴びたことからプレッシャーをつのらせ突然の失踪事件を起してしまう(作品には批判も多く、クリスティーの力量を認めるヴァン・ダインすら「アクロイド」だけは認めなかった)。しかし今日ではこの作品の手法は認められている。一見すると異なって見えるが、「そして誰もいなくなった」にも同様の仕掛けがある。

それら華麗な作品群と較べてしまうとあまり語られない作品だが、これは見方によってはクリスティーの最高傑作なのではないか、と思える作品がたちどころに三作上がる。やはり設定の鮮やかな、人気と世評の高い名作「ナイルに死す」1937や「ゼロ時間へ」1944、「予告殺人」1950と較べても、この三作は奇妙な試みが行われて、しかも見事に成功している。その上、三作がともどもに異なった趣向を凝らしており、クリスティー作品に案外目立つ類型性が少ない。

〆切時間の関係で解説は次回になるが、タイトルを上げておこう。

・ひらいたトランプ(1936)
・愛国殺人(1940)
・五匹の子豚(1943)

いずれもエルキュール・ポアロ探偵シリーズになる。珍品か隠れた傑作か、いずれにせよ普通の推理小説作家ならこの一作だけでも名を残すレヴェルだろう。
(以外次回)