人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

虫垂炎退院日記(4)私の処女出版1

これはぼくの唯一の著作(正確には共著)にまつわる裏話。もう15年ほど前になる。内容は日本の映画界きっての独立プロの巨匠W監督のロング・インタヴューで、ひょっとしたら去年あたり再版されているかもしれない。国際的話題作を公開したし、おそらく国外ではいちばん詳しく網羅的な文献だからだ。
国外?そう、ぼくの最初の著作はフランスで刊行されたのである。雑誌掲載原稿をフランス語訳して、写真集と抱きあわせで出版された。その事情は…ちょうどその話題を訪問者のかたとやりとりしたばかりなので、承諾を得た上で記事に転用させていただこう。この話はブログに初めて書くと思う。コメントの文字数では割愛した部分を戻し、全体的にも加筆した。「へー、そんなことってあるんだ」みたいな話だ。

フリーライター時代に書いたものは一切残していません。執筆者だから見本誌はもらいましたが、毎月7~8誌になるのでたまったら古紙回収に出していました。必要な連載記事などは編集部のバックナンバーを読み返してすませました。切り抜きひとつも残していません。フランス語訳の1冊はたぶんまだ持っているけど蔵書に埋もれています。-その裏話でしたね。

フランス人写真家R氏が来日して、某誌の企画でグラビアと記事を載せることになりました。日本の若い女の子が包帯を巻いて眼帯をし、松葉杖をついている写真を撮りたい(「新世紀エヴァンゲリオン」より先ですが、写真界では身体疾患をテーマにするのが流行り始めていました)、日本の映画監督ではW監督を尊敬しているので対談したい(同監督は昨年のベルリン映画祭で江戸川乱歩原作の新作で評判をとりましたね。主題歌にこのブログでも紹介したナジム・ヒクメットの原爆慰霊詩「死んだ少女」が使われています)。奥さんが日本人で会話は問題ないが文章は書けないので編集部に頼みたい。
そこでぼくが呼ばれました。対談が始まってみると、写真家氏は代表作しか観ていないんですね。質問がすぐ尽きてしまう。W監督の映画は80本以上。ぼくは60本は観ていたし、60年代から当時までの文献を豊富に揃えていました。いきおいぼくがインタビューし、監督が答え、写真家氏がコメントする、という流れになりました。三者会談が2回分載で雑誌に載り、数ヶ月後にはR氏の写真+奥さんによる翻訳でフランス語版が出版されたわけです」