人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

北原白秋の舞台挿入歌

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北原白秋(1885-1942)は20代にして当代の詩王と呼ばれた長崎生まれの詩人。同時執筆された処女詩集「思い出」1911、「邪宗門」1909刊行後、隣家の人妻の家庭内暴力への同情から恋愛関係になり、夫の告訴(姦通罪-第二次大戦後に廃止)により人妻共に巣鴨プリズン(現サンシャインシティ)で3か月を過ごす。釈放後に白秋は離縁された人妻と結婚、不倫・入獄体験は歌集「桐の花」1913に描かれる。この結婚は1年半も持たず、白秋は再婚と共に舞台劇挿入歌や童謡の多作家となる。

『にくいあん畜生』

にくいあん畜生はおしゃれな女子(おなご)、
おしゃれ浮気で薄情もの、
どんな男にも好かれて好いて、
飽いて別れりゃしらぬ顏。

飽いて別れりゃ別りょとままよ、
外に女子が無いじゃなし、よ。
何をくよくよ、明日の日もござる。
男後生楽、またできる。

男後生楽、踊らぬ奴は、
やもめ男か、いくぢなし、よ。
何をくよくよ、踊さえおどりゃ、
すぐに女子も来てたかる。

女子ゆえなら身も世もいらぬ、
どうせ名もなし、銭もなし、よ。
ままよ自棄(やけ)くそ、梵天国ときめて、
今日も酒、酒、明日も酒。

酒だ、酒、酒、まだ夜は明けぬ、
明けりゃ工場の汽笛(ふえ)が鳴る、よ。
ままよ自棄くそ、一寸先は闇よ、
今宵極楽、明日地獄。
(「生ける屍」1917より)

島村抱月演出・松井須磨子主演の劇団・芸術座に書き下された小唄3篇「さすらいの唄」「にくいあん畜生」「こんど生れたら」は各地でレコードの発禁・放送禁止が起ると共に話題を呼び爆発的ヒットとなった。

『こんど生れたら』

今度生れたら驢馬に乗っておいで。
驢馬はよいもの、市場へ連れて、
そこで烏麦しこたま貰ろて、
かわい女子(おなご)と乗って帰ろ。

今度生れたら金箱もっておいで。
金はよいもの、呉服屋を呼んで、
そこで緋繻子をどっさり買って、
かわい女子と寝て暮らそ。

今度生れたら鵞鳥(がちょう)抱いておいで。
鵞鳥はよいもの香水屋を呼んで、
そこで卵と品よく代えて、
かわい女子とおめかしに。

今度生れたら酒樽背負っておいで。
酒はよいもの、たらふく飲んで、
そこでまたまた卒倒して死んで、
かわい女子を置きざりに。(「生ける屍」より)