『にくいあん畜生』
にくいあん畜生はおしゃれな女子(おなご)、
おしゃれ浮気で薄情もの、
どんな男にも好かれて好いて、
飽いて別れりゃしらぬ顏。
飽いて別れりゃ別りょとままよ、
外に女子が無いじゃなし、よ。
何をくよくよ、明日の日もござる。
男後生楽、またできる。
男後生楽、踊らぬ奴は、
やもめ男か、いくぢなし、よ。
何をくよくよ、踊さえおどりゃ、
すぐに女子も来てたかる。
女子ゆえなら身も世もいらぬ、
どうせ名もなし、銭もなし、よ。
ままよ自棄(やけ)くそ、梵天国ときめて、
今日も酒、酒、明日も酒。
酒だ、酒、酒、まだ夜は明けぬ、
明けりゃ工場の汽笛(ふえ)が鳴る、よ。
ままよ自棄くそ、一寸先は闇よ、
今宵極楽、明日地獄。
(「生ける屍」1917より)
島村抱月演出・松井須磨子主演の劇団・芸術座に書き下された小唄3篇「さすらいの唄」「にくいあん畜生」「こんど生れたら」は各地でレコードの発禁・放送禁止が起ると共に話題を呼び爆発的ヒットとなった。
『こんど生れたら』
今度生れたら驢馬に乗っておいで。
驢馬はよいもの、市場へ連れて、
そこで烏麦しこたま貰ろて、
かわい女子(おなご)と乗って帰ろ。
今度生れたら金箱もっておいで。
金はよいもの、呉服屋を呼んで、
そこで緋繻子をどっさり買って、
かわい女子と寝て暮らそ。
今度生れたら鵞鳥(がちょう)抱いておいで。
鵞鳥はよいもの香水屋を呼んで、
そこで卵と品よく代えて、
かわい女子とおめかしに。
今度生れたら酒樽背負っておいで。
酒はよいもの、たらふく飲んで、
そこでまたまた卒倒して死んで、
かわい女子を置きざりに。(「生ける屍」より)