人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

岩田宏第二詩集「いやな唄」1959

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『いやな唄』 岩田 宏

あさ八時
ゆうべの夢が
電車のドアにすべりこみ
ぼくらに歌ういやな唄
「ねむたいか おい ねむたいか
眠りたいのか たくないか」
ああいやだ おおいやだ
眠りたくても眠れない
眠れたくても眠りたい
-無理なむすめ むだな麦
こすい心と凍えた恋
四角なしきたり 海のウニ

ひるやすみ
むかしの恋が
借金取のきもの着て
ぼくらに歌ういやな唄
「忘れたか おい 忘れたか
忘れたいのか たくないか」
ああいやだ おおいやだ
忘れたくても忘れない
忘れなくても忘れたい
-無理なむすめ むだな麦
こすい心と凍えた恋
四角なしきたり 海のウニ

ばん六時
あしたの風が
くらいやさしい手をのばし
ぼくらに歌ういやな唄
「夢みたか おい 夢みたか
夢みたいのか たくないか」
ああいやだ おおいやだ
夢みたくても夢みない
夢みなくても夢みたい
-無理なむすめ むだな麦
こすい心と凍えた恋
四角なしきたり 海のウニ
海のウニ!
 (詩集「いやな唄」1959より)

 岩田宏(1932-)の詩には都会生活を詠んだものに印象的な作品が多い。『いやな唄』もT.S.エリオットの初期作品を連想させ、またエリオットを出発点とした詩誌「荒地」の詩人たちとの血脈を感じさせるが、視点はさらに辛辣といえる。突き放しているのだ。それは次の詩にも言える。

『むすめに』 岩田 宏

ことばは手に変れ
とても男らしい手に
すこし汗ばみ すこし荒れた
実用的な手に なぜなら
ぼくはことばを
突き出さなければならない
自殺を決心したむすめ
あなたに なぜなら
それがぼくの権利
あなたの義務は
思いつめ 思いつめること
まるで追いつ追われつ
走るように なぜなら
夜は戦争よりも長いんだ
政府もあなたも徹底的に一人で
朝ほど痛い時間はほかに絶対ないんだ
そのことを百回あるいは
千回思って絶望しなさい
あなたは睡眠薬を二百錠飲むつもりだが
薬より口あたりのわるいことばを
あなたの穴という穴に詰めこむのが
ぼくのほんとうの望みなんだ
サディストどもが
拍手している ぼくは
あなたにあげる
握手を!
 (同上)