人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

縞模様の霊柩車(連作3)

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ハードボイルド三大作家といえばダシール・ハメットレイモンド・チャンドラーロス・マクドナルドだが(ロバート・B・パーカーやジェームス・クラムリーらはぼくが中学生の時にはまだ新人だった)生前は通俗作家と見られていたハメットとチャンドラーが没後に文学的価値を評価され各種の「20世紀アメリカ文学ベスト100」に何作も入選するのは隔世の感がある(気運は建国200年祭頃からあった)。

このふたりは小説は小遣い稼ぎ程度にしかならなかった。生涯にハメットは5作、チャンドラーは7作の長篇しか遺していない。では本業はというと、ヒモだった。でもハメットなら「赤い収穫」「マルタの鷹」「ガラスの鍵」の3作、チャンドラーなら「大いなる眠り」「さらば愛しき女よ」「長いお別れ」の3作は必ずアメリカ文学ベスト100に入る。交響曲と似てひとりの作家が生涯に書けるのは10作未満が普通。島崎藤村は5作、志賀直哉は1作しか長篇はない。
とにかく内助の功どころではない。ハメットなんか晩年25年間(!)なにも書いていないのだ。

それで三大作家の最年少ロス・マクドナルド。この人は夫人のマーガレット・ミラーが先に作家デビューし、本名ケネス・ミラーで後追いデビューするも夫人の作風の焼き直しみたいなパッとしない心理サスペンスで(出版社の要望かも)、遂に意を決してハードボイルドに転向しペンネームもロス・マクドナルドに変えた(出版社の要望かも)。

心理サスペンスでは夫人は天才だった。「鉄の門」「狙った獣」「殺す風」などマーガレット・ミラーには傑作しかない。さらに高い文学性と精緻な本格派推理の要素を充たしている。
作家夫婦の家庭生活をインタビューされてさらりと本音を言ってのけている。
「夫は夜、私は昼、執筆します。ときどき階段ですれ違います」

「縞模様の霊柩車」「ウィチャリー家の女」「さむけ」がロス・マクドナルドのベスト3だろう。チャンドラー生前は新作ごとに嫌味を書かれたので、その死後は明らかにひと皮剥けた。さらに「地中の男」からは大新聞の書評記事トップの常連になり、一流文学者からの評価を得てベストセラー作家になった。
1983年に当時新病のアルツハイマー症候群で逝去後、ヒモではなかったロス・マクドナルドは急速に忘れられた。長篇は?心理サスペンス6作、ハードボイルド18作あります。