人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(11)詩人氷見敦子・立中潤

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立中作品はどれも長いが、第一詩集の2番目の詩編などは珍しく短い。引用する。

『大量死』
死を謳うために佇立した闘いの原像
否 なによりも黴の浮いた愛の死流
低い坑道を堀り続けた心臓のなか
狭い動脈につたう青い葡萄汁よ
塩辛い汗をふきあげ
火の山の皮膚の内に注ぎこんだもの何か
熟した顔を黒塗の闇底でひからせ
落涙の目蓋の裏側
に血濡らしたぼくたちの苦さから
うっすらと黄臭い現在の地表を得た
きらびやかに倒立する
びろびろとした欲情を秘め
狂乱のライフルの硝煙
は不可視の陰部を燻し
沈黙の髭が生え揃ったこの無言の坑道には
ぼくたちを許す何物をも流れつかない
古ぼけた残像 おお
聖母をグロテスクに飾った土埃よ
明い荒地の地上の乳房に
やわらかなレモン水をたらす
ぼくたちのその搾るような儀式……
闘いはそのように歪んでいった
空から降ってくる黒い散弾に撃たれながら
血噴く肉体 空に住む大量の鳥
は翼をもぎとられ 首くくり
充血した空の秘部にむかって
吠えかけるように拡がり
鳥の血の浸みこんだ台地は
ぼくたちが互いの喉元で焦げつかせ
埋葬した愛語を
ひび割れかけた坑道の中天
でやたら惨殺してしまう
(詩集「彼岸」1974より)

では22歳の氷見の詩は?

『列車』
ステンドグラスの林の向こうで
ひそかに崩れていく
あなたたちのやさしい影

不確かな絆を求め
旅立った時から
美しいもの
いじらしいものたちは
二度と戻ってこない

セルロイドのおもちゃ箱に
夢をのせ
夕暮れの翳りの深みへ
沈んでいく
黄色い明りの 小さな窓のつらなり

輝く ひとすじの光となって
私の心よりももっと遠く
列車は走り続けている

『螢』
道は どこまでも暗く
狂気した蛇のように くねり
このトンネルは あなたの心の底へ
続いているのかもしれない……

もう 愛について
語ろうとしない あなたの声

七夕の 今ごろ
どこの川を 渡っているのか

螢のように 光りながら
私も 静かに 飛んでいこう
(以上77年、詩集未収録)

わずか3年差とは信じがたいくらい詩意識が異なる。共に稚拙だとしても、稚拙さの質が違う。