やっと満二年になるが、今のところ最後の入院は2010年12月~2011年3月で、入院直前数週間の躁状態はひどかった。幻覚や妄想は元よりあっという間に現金を使い果たし、タクシーで大量のCDや本を売りに行くがたいした金にもならず、ついでに万引きで捕まりタクシー代も踏み倒す(退院後請求書が来て払ったが)、というのを何回もやった。タクシー代の割引きのために障害者手帳とセットで自立支援医療証と生活保護医療証を持ち歩いていたので、警察に補導されるたびに精神科と福祉課に連絡が行っていたそうだ。たしか五回くらい捕まったが(タクシーの請求が五回分だった)、調書を採られると家まで車で送られただけだった。
「あれはじれったかった」と退院後に主治医に言われた。「家に帰すんじゃなくてここに連れて来い、って。治せないじゃないか。そしたら『微罪ですから』と言われたよ」
そこで福祉課の担当者Hさんと精神科はぼくの緊急強制入院作戦を立てた。予約診察日にぼくが現れたら問答無用でHさんがいちばん近隣で入院歴もあるS台病院に車で連れていき入院させる。タイミングはちょうど良かった。前日ぼくは幻覚が頂点に達して救急車を呼んだが入院先はなかった。ぼくは部屋から逃げ出す準備に本とCDを床一面にばらまいた。昏迷状態に陥り気がつくとガスレンジは牛乳が吹きこぼれ布団からは落としたタバコで火があがっていた。水をたっぷりかけ消したつもりだったが、翌朝はまだ燃えている布団の煙で目が醒めたのだ。それが診察日だった。
ぼくは21日間隔離室に入れられた。部屋には何も持ち込み禁止なので時々オナニーするしかひまつぶしはなかった。一度看護婦にバレて窓越しに「体力を消耗しますよ」と言われた。いいじゃん、そのくらい。
年末年始にかけてCDと蔵書(20箱以上ある)を少しずつ調べ、躁状態で失くしたと思っていたCD「加橋かつみ・パリ2」と「高柳昌行トリオ/涙(ラ・グリマ)」を見つけて嬉しかった。貴重な蔵書もあらかた無事だった。
だが島崎藤村全集、ローベルト・ムジール著作集、室生犀星全詩集(全3巻)、牧野信一全集、岡崎清一郎全詩集(全5巻)、石田波郷全集はごっそり消えていた。皮肉にも手近に置いて愛読していたばかりに手っ取り早く売ってしまったのだ。また買い直しか。躁鬱はこんなことばかりだ。