アガサ・クリスティーは推理小説作家として66冊の長編と20冊の短編集があるので、愛読者ならベストテン選びをしたくなるのも無理はない。
「クリスティー小百科」にはクリスティーの自選ベスト10と江戸川乱歩選ベスト8、日本のクリスティー・ファンクラブ選ベスト10が掲載されている。ファンクラブ選はともかく、クリスティー自選と乱歩選の出典は、乱歩は第二次大戦後間もない頃に創作力の衰えない驚異的推理作家としてクリスティーを論じた評論が出典(だから昭和25年までが対象)。そして自選ベスト10は晩年のクリスティー邸に招かれた日本のファンの質問への回答だった。
〈乱歩選ベスト8〉
・そして誰もいなくなった(1939)
・白昼の悪魔(1941)
・三幕の殺人(1935)
・愛国殺人(1940)
・アクロイド殺し(1926)
・ゼロ時間へ(1944)
・シタフォードの秘密(1931)
・予告殺人(1950)
(順位なし)
この評価は客観性と先駆性をそなえ、さすが乱歩の鑑識眼は一流といえる。
クリスティーは社交嫌いとして知られ、コメントも代理人を通して発表するが、日本からの愛読者の面会申し込みは上機嫌で招いたらしい。マスコミ関係者ではない一般人だったからだろう。帰国後、数藤康雄氏はクリスティーと面会した唯一の日本人として一躍有名になった。
〈クリスティー自選ベスト10〉
・そして誰もいなくなった
・予告殺人
・アクロイド殺し
・オリエント急行の殺人(1934)
・火曜クラブ(1932)
・ゼロ時間へ
・終りなき夜に生れつく(1967)
・ねじれた家(1949)
・無実はさいなむ(1958)
・動く指(1943)
(順位なし)
本人自選の後半4作はむしろ世評が低い作品になる。その点、日本のファンクラブは穏健なものだ。
〈クリスティー・ファンクラブ選ベスト10〉
1.そして誰もいなくなった
2.アクロイド殺し
3.予告殺人
4.ABC殺人事件(1935)
5.オリエント急行の殺人
6.火曜クラブ
7.ナイルに死す(1937)
8.葬儀を終えて(1953)
9.ゼロ時間へ
10.スタイルズ荘の怪事件(1920)
結局全部いい。やはりすごい人だったのだ、ということになる。