人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

文学史知ったかぶり(14)

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 アメリカ初期自然主義を代表する作家と作品は、
※スティーヴン・クレイン(1871~1900)
代表作/『街の女マギー』1893/『赤い武勲章』1895
フランク・ノリス(1870~1902)
代表作/『死の谷』1899/『オクトパス』1901
ジャック・ロンドン(1876~1916)
代表作/『奈落の人々』1903/『野生の呼び声』1903

 などですが、真に本格的なアメリ自然主義の確立者は、
※シオドア・ドライサー(1871~1945)
代表作/『シスター・キャリー』1900/『巨人』1914/『アメリカの悲劇』1925/『とりで』1946

 というのが今日の定説です。またアメリ自然主義を独自に分化・発展させた作家に、
※シンクレア・ルイス(1885~1951/1930年ノーベル文学賞受賞)
代表作/『本町通り』1920/『バビット』1922/『アロウスミス』1927
※シャーウッド・アンダソン(1876~1941)
代表作/『ワインズバーク・オハイオ』1919/『貧乏白人』1920/『暗い笑い』1934

 が上げられます。以上の六人を同世代作家とくくるには無理がありますが、クレインら初期自然主義作家たちが夭逝したために、ほぼ同世代の晩成型作家が壮年期後に自然主義をより完成したかたちで引き継ぎ、実質的には二世代を費やしたのがアメリカの自然主義盛衰史といえます。

 ドライサーの『シスター・キャリー』は初めて長編小説の骨格を備えた自然主義文学として画期的な作品でしたが、道徳的批判と売れ行き不振からドライサーの次作『ジェニー・ゲルハート』は11年後の刊行になります。初期自然主義小説は自然主義を標榜しながらも根底にはリアリズムよりロマンス的性格が強く、写実性は稀薄でした。断章的散文詩の延長線上にあるクレイン、復讐劇や恋愛ロマンスを骨組みとしたノリス、ロンドンの場合貧民窟ルポと主人公が犬(!)の自然主義小説と、発想としては叙事詩と小説が未分化な時代のスタイルから出ていないのです。

 ですので、ドライサーが認められて、ようやくアメリカ文学はリアリズム小説をジャンルとして獲得したと言えます。ルイスやアンダソンはドライサーが切り開いた土壌から登場しましたが、20年代にはもう新しい文学の潮流が起っており、ルイスやアンダソンは新旧のはざまで異色の作品を残しました。