人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記232

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(人物名はすべて仮名です)
・5月15日(土)晴れ
「あさっては勝浦くんの退院日、そのしあさってはついに退院日。こういうのはその日になればあっけないが、間近になると毎日が妙に長いのだ。だがつい数日前を思い出すとすごい速度で時間が加速しているようにも思え、要するに時間感覚が尋常ではなくなっている。監禁性障害とは刑罰下でのみ発生するとは限らず医療入院でも十分起りうることだろう。これは入院の初期と末期に顕著に現れると思う。要するに入院生活に慣れるまでと、もう入院生活切り上げに気持が移っている時期だ」

「退院後の生活は入院前にしていたのと同じ環境になるが、三か月近く隔離された生活をしていたので陽の光がこわいような、単純で漠然とした不安もある。こないだ帰宅外泊練習で自宅に一泊しに戻った時は楽しかったし、普通に買い物したり外食したり自宅の暮しをしてきた。だがあれは一時的に解放された喜びからで、同じ生活がまた毎日続くのにすんなり戻れるか?同居家族のいる人なら関係の再構築が困難だったり、逆に家族の存在が励みになりもするだろう。入院は集団生活だから、退院の喜びは孤独を選べる自由がいちばん大きい」

「今日は変な一日だった。携帯電話を出してもらい、どうせ手薄な見回りだからとメールチェックすると滝口さんから来ていたが、内容は意表を突いていた。退院は勝浦くんと同日ではないから遠慮する、と返答していたのだが、20日は滝口さんも外来通院日で10時半終了だという。ちょうど退院手続きを終える時間だ。その後は熱烈な文句が書いてあった。佐伯さんは退院後は誰とも会わず連絡も取らないのなら、これが会える最後の機会かも。お茶会や食事会に誘っても来ないでしょう?それなら高校の後輩の最後のわがままをきいてください」

「少し考えて、これまでさんざん断ってきたが通院の帰りのついでなら便乗します、いわば堤防決壊だからメールや電話のやりとりくらいなら退院後もかまいません、それと高校は入学はしたけど卒業してないぞ、と書いて送る。さてあと誰に退院予定報告するか、と思う間もなく祝!堤防決壊とタイトルした返信で、はい!先輩!20日は10時半に滝口が迎えに参ります!本人が()して(体育会系か?)と返ってきた。彼女はかわいい女性だが、本来退院すれば無縁なのだ(註)」
(註)女を甘く見ていた。
(続く)