人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記239

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(人物名はすべて仮名です)
・5月17日(月)晴れ
(前回より続く)
「そういうわけで今日から冷蔵庫整理は日直当番の人がお願いします、と尾崎さんが説明し始めると、坂部がだって日直は婦長が決めるんだろ?そうだよ、だから自分たちで決める必要はない。冷蔵庫整理の週番は患者が自分たちで決めるんだろ?だから日直の班割りと週番が冷蔵庫整理も兼ねるってことだよ。だったら日直の班割りと週番は誰が決めるんだよ。だから決める必要はないってさっきから言ってんだろ!判んないのかこの野郎!何度言ったら判んだよ、日直が冷蔵庫整理も担当すんだよ!と尾崎さんは激昂して怒鳴り、棒立ちになった。怒りで体がひとまわり大きくなり、爆発一歩手前になっている様子だ」

「それじゃ日直の割り当ては今まで通り婦長が決めるんだな、と坂部。そういうこと、と尾崎さん。やれやれ、坂部も引き際だけは心得たものだ、と彼らの対決をナースステーション前で立ってお茶をすすりながら見届ける。デイルーム中に緊迫した空気が張りつめていた。後で部屋に引っ込んでいた人から、言い争いが廊下に響いて部屋にいても聞こえたそうだ」

「とりあえずこれで解決はついた。喫煙室に行くと尾崎さんも入ってくる。まだ憤懣やる方ない様子。あいつ全然わかってない、と尾崎さん、やりたい時だけ自分勝手にやりやがって、おれと佐伯さんが日直が冷蔵庫整理兼任て決めてきたらとぼけて冷蔵庫は患者が決めるんだろとかぬかしやがる。朝のことだってそうで勝手に他人のもの捨てておいて都合のいいことだけ病院のルールですませてごめんのひと言もない。そうですね、と言いながら、気の毒で実際はもっとひどいとまでは言えない。坂部は無記名の飲食物は破棄、という規則を利用して、今朝は尾崎さん始めデザートやブリックパック飲料を冷蔵庫にしまった人が多いので嫌がらせのためにわざと勝手に冷蔵庫整理をしたのだ。それを受けて冷蔵庫整理の当番制の動議が出たので、すんなり決まるのをしつこく妨害した。性根の腐ったやつなのだ。だがそれを言えば尾崎さんはなおさら怒りが治まらないだろう」

「勝浦くんは一般精神科なので退院日は朝の会より早く退院手続きできる。煙草五本売ってくれないか、というので一個まるごと、いいよ餞別で。勝浦くんはきまりが悪そうだった。こういうのをできもされもしないたちなのだ」
(続く)