人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

出会い

あなたのリクエストには意表を突かれた。「出会い」ぼくはなにを書けばいいんだろう。

ぼくは「ひとこと」でリクエストを募集していた。クリスチャン教育、女性経験、芸術一般(特に文学、音楽、映画、美術)、サブカルチャー一般、ライター家業、結婚と育児、離婚と逮捕歴、精神障害。主治医にも爆笑されたくらいだ。「佐伯さんはまともな人生じゃないからね(笑)ネタには困らないでしょう」
困らない。ぼくは100冊依頼されればすべてに的確な書評が書ける。演劇や映画もこなしてきて、とてもいい経験になった。演出家は無口で映画監督は多弁。
コラムや読み物以外にもインタビューの仕事は多かった。ぼくは固有名詞をメモするだけでその晩のうちに書き上げた。時制やエピソードもきっちり構成した。初対面の人から打ち解けた話を聞き出すことがすぐにできた。ぼくは自閉症なのに!編集者から他のライターさんはテープ起こししてから書くと聞いて不思議だった。ぼくは自閉症アスペルガー症候群、しかもサヴァン症候群なので交わした会話はそのまま記憶して、執筆時に構成するだけで済んだ。何千人だろう…美少女戦士ポワトリンはマネージャーもなしにひとりで来て、可愛くてつまらなかったけどぼくもひとり、まるでデートだった。刺青とピアスの連続インタビューでは、刺青の世界とピアスではまったく違う…それから風俗の女性への連続インタビュー。
吉原の高級ソープ店の女性は「居場所はなかった」を読みながら待っていた。女性作家の男嫌い小説。「ピル抜きあけなのよ」年に3ヶ月は休まなければホルモン異常を起こす。「その間に…」と胸をひろげて「今はシリコンじゃなくて塩水パックなの。触って」
ぼくは触った。素晴らしい乳房、でもひんやりしている。塩水パックで整形された乳房には血液が通っていない。
インタビューを終え、彼女は交換した名刺を見ながら「あなたは半額。私からいっておくから。いつでも来てね」と言ってくれた。彼女は1コース12000円の女の子、とびきりの美人でスタイルも抜群、知性も感性も素晴らしい。優しさも。
でもぼくは彼女を抱きに行かなかった。

たぶんあなたのリクエストとは違ってしまったんじゃないかと思う。「出会い」の本質はもっと他にある。でもあなたとぼくは出会った。