人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

私の愛読書その2

前回は重厚な長編小説ベスト10で占めたが、今回は短いが心に残る中編小説ベスト10。日本代表なら文句なしに樋口一葉たけくらべ」1895だろう。あれこそ文学上の奇蹟、国宝級の逸品と言ってよい。子供の世界を子供の目線から描いた作品としても世界でも類を見ない。

1.バンジャマン・コンスタン「アドルフ」1816
恋愛感情の終りから始まる逆説的な自伝的恋愛小説。三島由紀夫絶賛も肯ける、醒めた感受性が光る。
2.ジェラール・ド・ネルヴァル「オーレリア」1855
恋愛と精神疾患に苦しんだ作者が縊死直前に残した遺作。あまりに異様な文体と内容から狂人文学と敬遠され、1920年代まで評価されなかった。
3.ヘンリー・ジェイムズ「デイジー・ミラー」1879
一読何でもないようだが、この作者こそが19世紀のリアリズム文学から20世紀文学の新しい手法を切り開いていった人だとじんわりわかってくる。
4.ギイ・ド・モーパッサン「ピエールとジャン」1888
ふとした事件から異父兄弟と判明した兄弟の苦悶。この作者も精神疾患から自殺未遂を経て、精神病棟で衰弱死した人。
5.クヌート・ハムスン「飢え」1890
古代から近世まで「聖書」を含めて、放浪は重要な文学的主題だった。現代文学で初めて都会のホームレスを主題にしたのがこの作品になる。北欧の重要作。
6.スティーヴン・クレイン「街の女マギー」1893
リアリズムを指向しながらも、極端に圧縮した技法でほとんど抽象的な実験を成功させた。アメリカ文学史上、男性だが樋口一葉の位置を占める夭逝作家。
7.トーマス・マンヴェニスに死す」1913
この小説の頽廃的悲喜劇感はヴィスコンティの忠実な映画化でも難解かもしれない。一見平易なだけに非凡な手腕が凄みを増す。
8.ジューナ・バーンズ「夜の森」1933
本物のレズビアンによって書かれたレズビアン小説の古典的名作。
9.ジュリアン・グラッグ「アルゴールの城にて」1938
登場人物は3人・舞台は1か所・事件はひとつでこれほど濃厚な小説になるのだ。不朽の傑作。
10.エルンスト・ユンガー「大理石の崖の上で」1939
ナチズム下のドイツで、これだけ反ナチ的な主題を神話的・中世的な雄大さでコンパクトな中編にまとめ上げた見事な達成。インパクトも絶大。